当事者の実践とAIで「できない」を「できる」へ――ふくろうアシストが描くアクセシブルな社会
株式会社ふくろうアシスト 代表取締役 河和 旦氏
株式会社ふくろうアシストは、障害のある方に向けたITサポートを軸に、AIを活用した支援にも取り組む企業です。代表の河和旦氏自身が障害の当事者であり、ITと福祉の双方に携わってきた経験を強みに、生活や仕事の中にある「できない」をテクノロジーで補う方法を模索してきました。今回は、河和氏に、事業に込めた想いや起業までの歩み、今後の展望などについて伺いました。
当事者の経験とIT・福祉の知識を強みに
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
当社では、2013年の設立当初から、主に視覚障害のある方向けのITサポートに取り組んできました。2026年度からは、AI活用支援も始めています。
一番の特徴は、私自身が視覚障害と肢体不自由という二重の障害を抱える当事者であることです。加えて、2012年には福祉情報技術コーディネーターの資格を取得しました。
福祉とITの両方を理解したうえで、障害のある方が実際に何に困り、どのような支援を必要としているのかを踏まえた提案が可能です。
――事業には、どのような想いが込められていますか。
当社では「当事者の実践とAIで、視覚障害者の「働く」をアクセシブルに」という考えを掲げています。
障害があると、「できないから仕方がない」と諦める方向に進んでしまうことがあります。しかし、AIをはじめとするテクノロジーが発展したことで、これまで人に頼らなければ難しかったことを補える可能性が広がりました。
障害のある人が「できない」で終わるのではなく、やりたいことに挑戦できる――そんな社会をつくることが、事業を通じて実現したいことです。
パソコンとの出会いが、起業への原点に
――ITに関わるようになったきっかけを教えてください。
きっかけは、中学1年生のときに授業のノートを整理するため、パソコンを使い始めたことです。一般の学校では健常者の先生が読める文字(墨字〈すみじ〉)でノートやレポートを作る必要がある一方、私自身は点字で内容を残しておきたいという課題がありました。
そこで、パソコンで提出用の墨字文書を作り、そのデータを点字に変換して自分用に保存する方法を身につけました。この経験を通じて、適切なサポートとITを組み合わせれば、障害があってもできることを増やせると実感しました。
――そこから、なぜ経営者の道を選ばれたのでしょうか。
母から「得意なパソコンを活かして起業したらどうか」と勧められたためです。
就職活動をしていた当時、私は視覚障害と肢体不自由があり、自力での通勤が難しい状況でした。リモートワークも現在ほど普及しておらず、出社を前提とする働き方が中心だったため、就職には大きな壁があったんです。
そこで、就職が難しいのであれば、自分の強みを活かせる仕事を自らつくろうと考え、ふくろうアシストを設立しました。
社名には、障害のある方ができるだけ苦労せず生活できるよう「アシストしたい」という思いを込めています。また、ふくろうが縁起のよい鳥として知られていることにもあやかり、この名前を付けました。
AIを「目の代わり」となる経営の力に
――経営判断で大切にしている軸は何でしょうか。
一番の判断軸は、「お客様のためになるかどうか」です。その考えを大切にしながら、限られた環境でも事業を継続できる方法を模索してきました。
設立後は、書類や営業資料を一人で整えることにも難しさがありました。誤字や資料の見栄えは信用にも関わるため、どう対応するか悩む場面も少なくありませんでした。
その状況を大きく変えてくれたのが、AIです。文章の校正や文書作成を任せられるようになり、私にとって「目の代わり」をしてくれるアシスタントのような存在になっています。現在は基本的に一人で事業を運営していますが、AIを活用することで、自分で情報を発信しながら仕事を進められる範囲も広がりました。
――今後、人材を増やしていく考えはありますか。
現時点では、AIやITを活用しながら一人で運営する方法が合理的だと考えています。ただ、お客様が増えて自分のキャパシティを超えるようになれば、人材採用も次の選択肢になるでしょう。
また、2026年4月からは、居住自治体の制度を利用し、就労に伴う外出時にもヘルパーを利用できるようになりました。これを機に出張など外での活動にも少しずつ対応し、試行錯誤を重ねていきたいと考えています。
AIで「諦める理由」を減らす社会へ
――今後、事業を通じて実現していきたいことは何でしょうか。
障害や年齢を理由に「できない」と諦める場面を、テクノロジーの力で減らしていきたいです。AIは、人が苦手とすることや難しいことを補い、新たな可能性を広げられる技術だと感じています。今後はその活用方法を伝えるだけでなく、障害のある方がより生活しやすくなるサービスやプロダクトにもつなげていきたいですね。
例えば、AIを搭載した電動車椅子によって、行きたい場所への移動を支援できるようになれば、障害のある方の行動範囲を広げられるかもしれません。本人の外出を後押しすると同時に、介助する方の負担軽減にもつながると考えています。
――そうした未来の実現に向けて、ご自身だからこそ果たせる役割をどう考えていますか。
当事者の経験を生かし、本当に必要とされる支援を形にしていくことが私の役割だと考えています。私自身、障害があることで「これはできない」と感じ、諦めそうになった経験がありました。そうした困りごとや心情には、実際に経験したからこそ気づける部分があります。
だからこそ、当事者の視点とAIをはじめとする新しい技術をかけ合わせることで、できることを一つずつ増やしていきたいと思っています。障害のある方がやりたいことを諦めず、前向きに挑戦できる社会の実現に向けて、これからも新たな可能性を形にしていきたいです。