清掃を通じて「働きづらさ」に向き合う――スタッフファーストで築くハウスクリーニングの組織づくり

株式会社ゲインシャフト 事業責任者 藤井 裕真氏

「あなたの面倒だけど大事なことを丸投げできるパートナー」というポリシーを掲げる株式会社ゲインシャフト。働きづらさを抱える人たちを積極的に採用するという社会福祉的な考えのもと、民泊施設や宿泊施設の清掃、オフィス・店舗の日常清掃を中心に事業を展開しています。本記事では、働く人が無理なく力を発揮できる環境づくりを重視する藤井氏に、事業で大切にしていることや経営における価値観、リフレッシュ方法について伺いました。

 「丸投げできるパートナー」として、適正な仕事を届ける

――現在の事業内容について教えてください。

現在主軸にしているのは、「MARUNAGEハウスクリーニング」という名称の清掃業です。マンションオーナーや民泊施設のオーナー、一般のお客様などを対象に、「何でも丸投げしてください」という考え方でサービスを展開しています。

中心となるのは、民泊施設や宿泊施設の清掃と、オフィスや店舗の日常清掃です。こういった簡易清掃の分野では、受注した案件を同業他社へ渡す企業も多いですが、当社では最初から最後まで自社スタッフで対応しています。

――事業を行う上で大切にしている考え方を教えてください。

大切にしているのは、「あなたの面倒だけど大事なことを丸投げできるパートナー」という考えです。当社は清掃業ではありますが、例えば内装の相談をいただいた場合、弊社のスキル的に難しい場合は信頼できる先をご紹介して施工完了まで管理をしたり、自社内で施工できるものはどんな細々したものも対応するなどして、ご希望をかなえられるようにしています。

価格についても、安売りをしたり、利益が得られる案件だからと過剰な上乗せをしたりすることはしません。自社完結だからこそ複雑な中間マージンをつくらず、適正な価格で適切なサービスを提供することを重視しています。

不登校と経営経験を経てたどり着いた「誰かのために働く」という軸

――清掃×社会福祉の分野を目指すようになった背景を教えてください。

私は中学生のときにほぼ3年間、不登校でした。外に出ると、他人の会話や視線が自分の悪口に聞こえるような幻聴などに悩まされて、なかなか外にでれず社会になじめませんでした。

その後、高校や大学、仕事を通じて少しずつ変わろうと努力して変わっていきました。

私の場合は人生経験を通じて社会不適合な状態から変わることができましたが、なかなかうまくいかない人もいると思っています。私自身、いろいろな人に助けてもらって今があります。

だからこそ、次は自分がつくった事業を通じて、働きづらさを抱える人に何かできないかと考えるようになりました。清掃業は、コミュニケーションや集団で働くことが苦手な人とも相性がいいと感じていて、今のスタイルになっています。

現在働いてくれている人は軽度の知的障害、パニック障害、適応障害、コミュニケーション障害、聴覚障害者、あとはお子さんがいて働きづらい人も含め、たくさんの方が在籍してくれています。

ちなみに、年間15,000回以上の簡易清掃を行っていますが、何かしらの不備が発生する作業クレーム率は0.05%程度とかなり低く、クライアントにも安心していただいています。

私の事業を通じて誰かの「働きづらい」が「働きやすい」に変わり、その人自身の気持ちも晴れて生きやすくなればなと思っています。

――経営を続けるなかで、価値観はどのように変わりましたか。

もともとは自分ファーストな価値観でした。自分のために働き、自分のために稼ぐという考えが強く、最初の事業で人を雇ったときは「この人が入れば自分の利益がこれくらい上がる」とよく考えていたものです。一番最初の雇用が発生する事業は水商売の店舗ビジネスをしていて、その頃は売り上げをつくることを何よりも最優先していました。

ただ、経営でいろいろな失敗を経験するなかで、考え方が変わっていきました。その結果、今はまず働いてくれる人や関わってくれる人のために働こうと考えています。

具体的には、この人は将来何をしたいのか、そのための力を自分の事業で培ってもらうにはどんな仕事を提供したら良いのか、この人はそもそも何を欲しているのかなど相手優先で色々と考えるようになりました。

そうして働くようになってから、結果として自分のやりたいことも叶えられるようになってきました。

――独立や経営は、もともと身近な選択肢だったのでしょうか。

身近というか必然的に最初から起業しかなかったという方が正確です。

最初に目指したのが、実はマジシャンでした。13歳くらいから目指していて、きっかけは小学校6年生のお別れ会です。友達とマジック用品を買って練習し、披露したところ、とてもウケました。自分たちがこっそり準備したもので、人を笑わせたり驚かせたりできることに魅力を感じたことが、マジシャンを目指したきっかけになりました。

マジシャンには一般的な就職という制度がなかったので、最初から自分で独立して仕事をすることが自然でした。独立への怖さよりも、やりたいことをやりたいという気持ちのほうが強く、就職という選択肢もなかったため、必然的に個人事業主としてスタートしました。

距離を詰めすぎず、スタッフが働きやすい関係をつくる

――スタッフとのコミュニケーションで意識していることはありますか。

清掃の仕事には、あまり人と関わりたくない人や、1人で黙々と仕事をしたい人が多くいます。そのため、コミュニケーションが多ければいいとは考えていません。

翌日の仕事のリマインドを送るときに一言加えるなど、1対1ではパーソナルなやり取りを入れるようにしていますが、それも1日1回程度です。一方で、大勢がいる場では、基本的に全員に対する報告連絡のみにしています。

ただ、誕生日や季節のイベントには、パーソナルなメッセージと合わせて、LINEや各種ギフトカードを送ることもあります。スタッフそれぞれの特性に合わせながら、適切な距離感を大切にしています。

――経営判断で譲れないことは何でしょうか。

スタッフファーストであることです。お客様に迷惑をかけないことは前提ですが、追加のご要望をいただいたときなどは、まずスタッフが疲弊しないかを判断軸に置いています。

クライアントとのコミュニケーションや実際の業務でスタッフが疲弊しなければ、何を提供すればより満足してもらえるかなどの相手のことを考える余白ができます。その結果として、お客様に良いものを提供できると考えているからです。

だからこそ、売上が欲しくても、横柄な方や持ちつ持たれつができなさそうな方のパートナーにはならないようにしています。

障害者雇用にも取り組んでいるので「働きづらい人たちが、生き生きと働ける環境を提供する」という考えを事業の根本に置いています。当たり前ですが差別的な方とも取引きしないようにというところは決めています。

組織のピースが計算どおりにはまる瞬間に感じる、経営の面白さ

――仕事のやりがいを感じるのは、どのようなときですか。

基本的に、仕事をしているときはゲームに近い感覚でやっています。

例えば、新しい案件が増えて人を採用するときは、求める人材をイメージしながら、あの手この手で求人を出します。その結果、狙った人材が短期間で集まるなど、組織のピースが自分の考えたとおりにはまった瞬間に面白さを感じます。

あとは、働いてくれているスタッフの方々が、仕事をしながら自分なりの楽しみを見いだしていることをLINEなどでのコミュニケーションで伝えてくれたときにも、大きなやりがいを感じます。

――リフレッシュはどのようにしていますか。

経営者の人はだいたいそうかなと思いますが、休日はあるようでないようなものです。なので休みをつくってどこかへ出かけるというより、個人の飲食店に行くことが好きですね。

お酒を飲んでいる時間は、特に考え事をしなくていいので、そういう空白の時間を作るようにしています。

デスクワークが落ち着いたタイミングで商店街などの個人店に行き、カウンターで1人で飲みながらゆっくりします。最近は量をたくさん飲むというよりは良いものをちゃんと飲むのを意識しています。

雇用を広げるため、事業と組織の基盤を強くする

――現在、組織運営で向き合っている課題を教えてください。

課題は、社員に事業をどう回してもらうかです。私自身がすべてに関与するのではなく、今いるメンバーで売り上げをつくり、伸ばしていける状態にしたいと考えています。そのために、当社の数字をきちんと公開する取り組みを始めました。

例えば、ある数字が変われば何が変わり、最終的にどれくらい利益が出るのか。
そのためにどれくらいの案件が必要なのか、そうなるとボーナスなどの還元はどれぐらいできるのかなどを説明しています。

これまでは現場のことを中心に伝えていましたが、今は数字を話の中心として共有しています。社員自身が事業の動きを理解しながら働ける状態をつくっていきたいです。

――企業として、これからどのような展開を考えていますか。

今でも障害者雇用や生きづらい人の雇用を進めていますが、これからはさらに雇用の幅を広げ、事業規模を拡大していきたいです。

最近は上場企業と直接取引をさせていただけるようにもなってきました。今後はコンプライアンス体制をはじめとした組織力をより高めながら、国の入札案件や上場企業を含め、より規模の大きい案件を受け入れられる体制を整えたいと考えています。

雇用を生み出すためにも、まずは事業の基盤を固めていきたいです。

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