80年続く果物屋を、28歳が受け継ぐ―― 日本の果物文化を次の世代へつなぐ
株式会社ナカムラ 代表取締役 中村 由樹氏
株式会社ナカムラは、1945年創業の果物屋を受け継ぎ、東京・西荻窪で「果寮中村屋」として新たな果物屋のかたちをつくる会社です。
なぜ、80年続く果物屋を受け継いだのか。代表取締役の中村由樹氏に、事業に込めた想い、経営で大切にしていること、そしてこれからの展望について伺いました。
80年続いた果物屋を、次の80年へ
――現在の事業内容について教えてください。
東京・西荻窪で果物屋の運営をしております。
祖父が終戦直後に始めた果物屋を、今年(2026年)受け継ぎ、2026年12月に「果寮中村屋」としてリニューアルオープンします。果物の販売だけでなく、旬の果物を使った飲食も提供する予定です。
――御社ならではの強みはどのような点にありますか。
一つは、創業80年で培ってきた仕入れ力です。
そしてもう一つが、実店舗だからこそ生まれる体験とコミュニケーションです。果寮中村屋では、カウンター越しに果物を切り、絞り、仕立てる。その姿も含めて、お客様に楽しんでもらえることが強みになります。
――事業を通じて大切にしている想いは何でしょうか。
日本の果物文化を、次の世代につないでいくことです。
日本には世界に誇れる果物や生産技術があります。ただ、後継者不足や時代の変化より、果物屋や農家は少しずつ減っています。だからこそ、果物屋のあり方をもう一度見直し、次の世代にも必要とされる仕事にしていくことが大切だと考えています
そして、もう一つ大切にしているのが「人にしかつくれない価値」です。今はAIを使えば、空間やデザイン、メニュー、SNSでの見せ方まで、簡単に生成できます。また、”商品”を買うのであれば、オンラインで簡単に購入できます。だからこそ、私は実店舗に投資します。
人と人が直接向き合うからこそ生まれる会話や、その場でしか味わえない体験や感動。そうした「人の記憶に残る時間」に、これからますます価値が生まれると考えています。
未来から逆算した事業設計
――経営の道に進まれたきっかけを教えてください。
果物屋を継ぐ前から、私は別の事業で起業していました。祖父をはじめ、身近に自営業をしている人が多かったこともあり、自然と経営の道に進んだ感覚に近いと思います。
20歳の頃、バックパッカーとして海外を巡りました。そこで、日本では当たり前に感じていた食や文化が、海外から見ると特別なものだと気づきました。旅をしながら、思いついたビジネスのアイデアをノートに書き続けていたことも、今の事業につながっています。帰国後、2022年に株式会社ナカムラを設立しました。
振り返ると、経営者になることが目的だったわけではなく、「自分が残したいものを、自分の責任で形にする。」そのための手段として、経営という道があったのだと思います。
――経営判断で大切にしている軸はありますか。
短期的に売上や集客につながるかではなく、その判断が10年後、20年後のブランドにつながるかを考えてます。
例えば、果物を使った商品にはさまざまな可能性があります。フルーツサンドが流行っている、フルーツ大福が売れている。だからといって、何でも商品化すればいいとは考えていません。一時的に売上が立ったとしても、それによってブランドの軸がぶれてしまっては意味がないからです。
短期的な損益よりも、長期的にブランドの価値を積み上げていくことを大切にしています。
そうした判断を積み重ねた先に、私が退いた後も「果寮中村屋」というブランドが自走し、次の世代へ受け継がれていく。そんな未来をつくりたいと思っています。
想いを共有できる仲間と、果物の仕事の価値を高める
――どのような方と一緒に働きたいですか。
果寮中村屋のオープンに向けて採用を進めていますが、一番大切にしているのは、「なぜこの店をやるのか」という想いを共有できることです。
経験やスキルももちろん大切ですが、それ以上に、私たちが何を目指しているのか。「日本の果物文化を次の世代へつなぐ」という考えに共感してもらえるかを大切にしています。
単なるスタッフというより、店やブランドを一緒につくっていくパートナーとして働きたいと思っています。
店舗や商品は、お金をかければある程度つくることができますが、お客様の心を動かし、「また来たい」と思ってもらえる店をつくるのは、最後は人だと思っています。
――業界について、感じている課題はありますか。
果物業界では、後継者不足と人材不足が大きな課題だと感じています。
果物屋は家族経営のお店が多く、良くも悪くもクローズドな業界で、外からは内情が見えづらい部分があります。家族経営そのものが悪いわけではありません。ただ、外から見たときに「ここで働きたい」と思っても、入りづらい環境になっていることは、一つの課題だと思います。
親世代が長い労働時間や金銭的な苦労を経験してきたからこそ、「子どもには同じ苦労をさせたくない」と考える。一方、子どもも大変そうに働く親の姿を見て、別の仕事を選ぶ。そうした積み重ねも、後継者不足につながっていると感じています。
だからこそ、農家や果物屋で働くこと自体が、「かっこいい」「自分もやってみたい」と思われる仕事に変わっていく必要があります。
働く人が仕事に誇りを持てて、事業としても成り立つ。そして外からも新しい担い手が入ってくる。果寮中村屋が、その一つの事例になれたらと思っています。
若い世代に果物を選んでもらえる未来へ
――今後、特に取り組んでいきたいことをお聞かせください。
国内での果物消費量が減り、生産者の数も少なくなっていることに、強い危機感を持っています。ただ店頭に果物を並べて待っているだけでは、なかなか手に取ってもらえません。まずは、「果物って面白い」と思ってもらうこと。そこから始めたいと思っています。
そのために、まずは2026年12月に開業する「果寮中村屋」を、西荻窪で長く愛される果物屋にすること。そして、これまで果物との接点が少なかった人にも、新しい入口をつくっていくこと。その先に、日本の果物の魅力を国内だけでなく、海外にも発信していきたいと考えています。
最終的には、果物を好きになる人だけでなく、「果物屋になりたい」「果物をつくる仕事に関わりたい」そう思う人が、一人でも増えていくきっかけをつくりたい。
果物を食べる人も、つくる人も、届ける人も増えていく。そんな未来をつくりながら、日本の果物文化を次の世代へつないでいきたいと思っています。