歯科技工から医療機器へ――業界の未来を見据え、信頼と計画で歩む経営

株式会社プロアート 代表取締役 藤本 卓司氏

株式会社プロアートでは歯科医院様から寄せられる患者様の要望を形にする歯科技工を軸に、医療機器販売にも取り組み始めています。歯科技工の現場を知るからこそ見える業界の課題に対し、自らの経験やスキルを生かして新たな事業へ踏み出しています。今回は藤本氏に、事業の特徴や経営者としての歩み、社員への思い、そして業界の活性化に向けた挑戦について伺いました。

歯科技工の現場から、医療機器販売という新たな挑戦へ

――現在の事業内容について教えてください。

当社では歯科医院様から依頼を受け、患者様が希望する歯の形や色、歯並びなどを形にする歯科技工を行っています。歯科医師が採取した歯型に合わせて補綴物を製作し、歯のない部分についてはブリッジやインプラントなど、患者様が希望される治療に応じたものを作っています。

それに加えて、現在は医療機器の販売も始めています。歯科業界ではデジタル化が進んでいますが、高額な機械や設備を導入することが一つのハードルになっていると感じたことがきっかけです。

――医療機器販売には、どのような強みを生かして取り組まれるのでしょうか。

私自身、中国と縁があり、中国語でのコミュニケーションに障害もなく、交渉から指導まで対応できます。自分のスキルを活かして、それを商売につなげていこうと考えました。医療機器販売は9月頃から本格的にスタートする予定です。

購入した方が、その機械を使って利益を上げられるところまでが本当のゴールです。売りっぱなしにせず、サポートやメンテナンスまで含めて提供し「安心・安定・信頼」を大切にしていきたいと考えています。

「売って終わり」にしない、信頼を積み重ねる事業

――医療機器販売を含め、今後の事業展開をどのように考えていますか。

歯科技工は、人の手が必要な部分が多く、事業を伸ばせば人員や設備、スペースも必要になります。一方、医療機器販売は比較的人員を必要とせず、単価も高いため、将来的には、売上比率を医療機器販売が7、歯科技工が3ほどに出来たらと考えています。

今後拡大したい医療機器販売については不特定多数への大量販売ではなく、当社の考えに賛同していただける方に提供していきたいと考えています。機械は売って終わりではなく、使い方の説明やメンテナンスなど、その後のサポートも重要です。そのため、対応できる件数を見極めながら、無理のない範囲で展開していくつもりです。マニュアルの整備など、効率的にサポートできる体制も整えていきます。

「会社を大きくする」より、まず現実的な計画を

――歯科の道に進まれたきっかけを教えてください。

高校卒業後は大学に行くつもりで一浪したのですが、その途中で遊びを覚えてしまい、大学には進学せず、しばらくフリーターをしていました。2年ほど経って、このままではいけないと思い、何か資格を取ろうと思い立ったのがきっかけです。

国家資格で且つ2年間で取得できるということもあり歯科技工士の道を選びました。身内や知り合いがやっていたからではなく、自分でこれがいいと決めて選んだ道です。それからはずっと歯科一本でやってきました。

――経営において大切にしている考え方を教えてください。

理想を語るのは簡単ですが、きちんと達成できる計画を立てることを大切にしています。計画通りに進められなければ、必要に応じて計画を見直し、下方修正や上方修正をしながら進めていきます。たとえできたとしても決めた期日に間に合わなかったのであれば、自分の中では「できていない」という考えです。

計画を達成することは、私自身だけではなく、関わる人全員にとっての成功体験になります。そうした体験を積み重ねることで、次の一歩が加速していくと思っています。

会社を引き受けた責任と、社員への恩返し

――社長になられた経緯を教えてください。

もともと社長という肩書きに興味があったわけではありません。創業時のメンバーではありましたが、自分のスキルで好きなものを好きな時間軸で作れればいいと思っていて、人やお金を動かすことには関心がありませんでした。

ところが、大きな負債を抱えて前任者が辞任するタイミングで会社の経営をどうするのかという話になり、そのとき改めてこれまでの帳簿を見返しました。売上はしっかりとあったので、支出の管理さえ行えば立ちなおせるのではないかと感じました。そこで、最後に自分に悪あがきさせてもらえないかと引き受けたのが始まりです。

――経営を引き受けた当時、社員にはどのように向き合ったのでしょうか。

会社を立て直すと決めたとき、社員だけでなく、その家族や仕入れ先にも現状をすべて説明しました。給料が遅れる可能性や、向こう3年間はベースアップがないことを伝え、その後の昇給や賞与、退職金の計画まで包み隠さず伝えたんです。

不安も大きかったと思いますが、それでも誰一人辞めずについてきてくれました。だから今は、支えてくれた人たちへの恩返しのフェーズだと思っています。関わってくれている人たちの幸せのために何ができるのかを考えながら、日々経営しています。

次の経営者をどうつなぐか、原石を探す責任

――次の経営を担う人材について、どのように考えていますか。

まずは、私の考えを理解してくれる人です。現状を正しく見て、計画を立てて実行することの大切さを理解している人がいいと思っています。今はまだ適任者がいないので、アンテナを張って人を見ていきたいです。原石を見つけて磨くことは、見極めさえできれば楽しんでできると思っています。

ただ、引き継ぎを失敗するわけにはいきません。今は私を含めて20人が働いていて、その家族まで考えれば60人、70人ほどの生活をこの会社が支えています。それを背負う覚悟のある人に引き継がなければならないと考えています。

もし見つからなければ、M&Aなども選択肢に入りますが、どの方法であっても、会社を次につなぎ、関わる人たちの幸せを守ることが、私の責任だと思っています。

業界全体を「負のスパイラル」から変えていく

――医療機器販売を通じて、業界にどのような変化を起こしたいですか。

日本国内の歯科技工所は1万7,000件前後あり、その8割から9割は1人から3人で運営されています。そうした事業者が最新の機械や設備を導入できるよう支援することで、業界全体の活性化につなげたいと考えています。

同じスペックの機械を安く販売すれば、既存医療機器製造メーカーからは嫌がられるかもしれません。それでも、業界の底上げにつながるのであれば、やるべきことだと思っています。

自分にできることは限られていますが、せっかく持っているスキルを生かさないのはもったいないと思っています。これからも、支えてくれる人たちへの恩返しを大切にしながら、自分にできる挑戦を続け、会社と業界のより良い未来につなげていきたいです。

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