成績を第一目的としない学びを――オンラインスクール トモコラボが目指す新しい教育

一般社団法人 オンラインスクール トモコラボ 代表理事 松尾 のぶや氏

一般社団法人オンラインスクールトモコラボでは、昨今の成績が重視される教育の流れの中で、「純粋に学ぶ楽しみを取り戻したい」という思いから、小学校高学年から中学校低学年を対象にした、オンラインでの教育活動を行っています。本記事では、代表の松尾氏に現在の取り組みや経営の考え方、今後の展望について伺いました。

「学ぶことが楽しい」を取り戻すために

――教育現場から独立し、現在の活動を始めた背景を教えてください。

20代は民間企業に勤め、30歳を過ぎてから教師になり、大阪と神戸の私立校を経て、現在は公立中学校で数学の非常勤講師をしています。今まで、数値によって優劣をつけられるプレッシャーから勉強が辛くなる生徒を多く見てきました。ペーパーテストの点数のために勉強することも、人生のある時期においては必要かもしれません。しかし、「根本的に、こんなことをしていて、誰が幸せになるんだろう」という違和感を拭えずにいました。そうした経緯から、純粋に学ぶ楽しみを取り戻せたらと思い、トモコラボを立ち上げました。

成績ではなく、学ぶ姿勢を大切にする

――他の学習塾とは違う強みは何でしょうか。

「成績を第一目的としない」ことです。結果として成績が上がることはありますが、あくまで成績は副産物として捉えています。

一番大切にしていることは、学ぶ態度自体を、見守り、褒め、認めることです。子どもたちのことを「できる・できない」だけで判断したり、安易に数値で評価したりして、「不必要な劣等感」を感じさせないように心がけています。

その次に、友だちとコミュニケーションを取りながら学ぶこと、最後に、できるようになること、という順番とバランスを大切にしています。

――具体的にどのような活動をされていますか。

トモコラボは、一般的な学習塾より、習いごとに近い位置づけとして、小学校高学年から中学校低学年を対象に、中学の数学や英語、探究などを扱っています。

数学や英語では、キーワードと課題だけを与え、教師が教えることはほとんどしません。生徒たちは、自ら調べ、問い、伝え、自分のペースで学びを進めていきます。そして、その学びの過程1つ1つを、教育用オンライン掲示板に投稿し、クラス内で共有します。

AIで調べた内容を紹介したり、プリントに解いた写真をアップしたり、学んだことを話す様子を録画し、動画で投稿したり、アウトプット中心の学習を行います。

その上で、Zoomのブレイクアウトルームで生徒同士で教え合い、考え方を修正し、最後に、クイズ番組のようにゲーム的に友だちとコラボしながら問題にチャレンジします。

ちなみに、トモコラボという社名は「友だちとコラボしながら学ぶ」が由来です。

探究では、生徒たちの素朴な疑問を大切にしています。例えば「爪の付け根にある白いラグビーボールのような形をしたところは何?」「なぜ夢を見ているときは『夢だ』と気づかないの?」「人はなぜ感情があるのだろうか?」など、大人では気が付かないような問いが次々出てきます。それらを、調べ、伝え、共有します。一般的な探究活動は長期的で難しいイメージがありますが、トモコラボでは、軽く、短いサイクルで行います。生徒たちは、「普段、疑問に思っていても、なかなか調べようとしないから、調べられて嬉しい」「友だちが調べた内容に『へぇー』って思った」と楽しそうです。

また、授業とは別に、生徒が日々の学習を教育用オンライン掲示板に記録し、それに対し、スタッフさんや生徒の親や、おじいちゃん、おばあちゃんが、コメント欄で「がんばってるね」「今日も投稿できたね」など、アドバイスではなく、生徒たちの前向きな姿勢自体を支える活動も行っています。生徒たちは、学習以外にも、例えば、筋トレや音読や絵を描くなど、自分で課題を決め、それをどれだけ継続できるか挑戦しています。

――オンラインに特化した理由は何でしょうか。

現在、子どもが少ない地域が増えています。その状況下では、トモコラボで重視している協働的な学びを保つことが難しい。一方、オンラインなら、地域を超え、国も超えていろいろな人とつながれます。実際にインドネシアのバリ島から参加してくれる生徒もいます。また、海外の知り合いが、掲示板のコメント欄に、英語でメッセージをくれることもあります。

授業はオンラインですが、月に1回、イベントを開催しています。生徒たちは、普段、オンラインで協力しながら学んでいるので、リアルで会った時には、すぐに打ち解けて、一緒にピザを作ったり、サッカーをしたりするのを楽しんでいます。

――子どもたちにはどのような変化が見られますか。

勉強が苦手な子が、「トモコラボなら」と授業に参加してくれたり、自分で決めた課題を毎日少しずつ続けて、30日間連続でできたりすることもあります。

保護者の方からは「子どもが『楽しい』と言っている」「うちの子が、こんなに継続できるとは思わなかった」といったお声を頂いています。

小学校6年生で、ほとんど何も教えてもらっていないにも拘わらず、自主的に、そして、友だちと学びあって、目標とする英検に合格する子もいます。

結果として「学校の数学や英語の成績があがった」という声もよく頂きます。

ICTを駆使して「調べ、伝え、問う」スキルに関しては、子どもたちはあっという間に身につけます。

「利益」と「やりたい教育」の間で

――活動を続ける中で難しさを感じるのはどのようなところですか。

一般社団法人として収益も上げなければならない一方で、それを重視しすぎると、やりたい教育から離れてしまうことです。

私は、人は「困っていること」と「憧れ」に対してなら、お金を払いやすいと考えています。受験産業は、この2つにピッタリはまっています。一方で、トモコラボは、非認知能力(※)の習得に重きを置いているので、目標と成果が、例えば「志望校合格」のように分かりやすくはありません。そのため、習いごと的な位置づけにしていますが、そうなると、月会費も抑える必要がでてきます。収益のことを考え、学習塾的なポジションに重心を寄せれば、今よりかは経営が成り立ちやすいかもしれませんが、それでは理念とずれてしまいます。その点で、葛藤を抱えることが多いです。

(※)非認知能力:テストの点数で数値化できない、心の在り方や物事に取り組む姿勢、人との関わり方といった内面的スキル

幸せの土台になる学びとつながり

――これからも大切にしたい軸を教えてください。

トモコラボの軸となっているのは、樺沢紫苑氏の著書『精神科医が見つけた3つの幸福』で紹介されている考え方です。私自身、人生のどん底にいた時に救われた一冊でもあります。

同書では、幸せには「心身の安らぎ(セロトニン的幸福)」「人とのつながり(オキシトシン的幸福)」「達成や成功(ドーパミン的幸福)」の3つがあり、それらを得る順番とバランスが重要だと述べられています。

学びに置き換えると、まず学ぶこと自体の楽しさがあり、その次に学んでつながる喜びがあり、最後に、できるようになる嬉しさがあると、私は考えています。

昨今は、「点数がとれなければ学ぶ意味がない」という風潮があるように感じます。

私自身も成果に引っ張られがちですが、この3つの順番とバランスを失ってしまえば、本来楽しいはずの学びが苦痛になってしまう。

この変化の激しい時代、AIにはできないことに人間の価値を見出していかなければなりません。そのためには、人生を通して学び続けなければなりません。そのような時代に、学ぶことを嫌いになってしまうことほど、大きな損失はありません。

これからも、トモコラボでは、子どもたちが、今も、未来も、「学ぶことは楽しい」と感じてもらえるように、尽力していきたいと思います。

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