「がんが怖くない世界」を目指して――研究者から経営者へ、HIROTSUバイオサイエンスが挑む新たながん検査

株式会社HIROTSUバイオサイエンス 代表取締役CEO 広津 崇亮氏

株式会社HIROTSUバイオサイエンスは、生物の能力を活用した新しいがん検査を開発するバイオベンチャーです。線虫の嗅覚を利用して尿からがんの匂いを見分ける技術を生かし、一次スクリーニングとして利用できる検査「N-NOSE®」を提供しています。本記事では、代表取締役CEOの広津氏に創業の背景や組織づくり、今後の研究開発とグローバル展開について伺いました。

生物の力で、がん検査をより身近に

――現在の事業内容や特徴について教えてください。

弊社はバイオベンチャーとして、新しいがん検査を開発しています。特徴は、生物の能力を使っていることです。線虫という生き物の嗅覚を利用して、尿に対する反応を解析してがんのリスクを評価することが特徴です。

生物を使うことで安価でありながら精度の高さも両立でき、尿で検査できるため簡便です。

また、がんの種類や部位を特定するものではありませんが、一度の検査で全身23種のがんを対象に、がんが存在するリスクを総合的に評価できることも特徴です。

がん検査の入り口となる一次スクリーニング検査として、毎年利用していただくことを想定しています。

――会社として掲げているビジョンを教えてください。

「がんが怖くない世界を作る」というのが会社のビジョンです。もう一つは、私自身がもともと研究者で大学の教員だったこともあり、「研究者が輝く未来を作る」ということです。研究者から経営者という道に進んだからこそ、研究者が活躍できる未来もつくっていきたいと考えています。

「自分が先頭に立つ」――研究者から経営者への決断

――経営者になられたきっかけを教えてください。

この会社をつくったのは10年前です。当時は大学の教員として、線虫の嗅覚を利用したがん検査技術の研究に取り組んでいました。

最初からベンチャーをつくろうと思っていたわけではなく、大学で生まれた技術を実用化できればと考え、企業との連携を進めていました。

ところが、産学連携を進める中で、誰もリーダーシップを取らず、誰も責任を取らないような状態になっていたんです。「これではいけない。この技術を世界に広げたい」と考えたとき、誰かがリーダーにならなければいけない。それなら「自分だろう」と思い、自分が先頭に立つことを決めてベンチャーをつくりました。

最初は社長と大学教員を兼業していましたが、事業の進展に伴って両立が難しくなり、経営に専念することを決断しました。

――経営判断の軸になっている考え方はありますか。

もともと研究者だったため、技術のことを理解した上で経営が出来たことは大きいです。一般的には社長、研究者、財務系の人など、それぞれが専門領域を担う形でスタートすることも多いと思いますが、私は技術と経営の両方を理解して判断できます。

一部だけを見るのではなく、会社全体を理解した上で決断できることは、弊社の特徴の一つだと思います。

異なる文化をつなぎ、一つの組織として動かす

――組織運営で大切にしていることを教えてください。

現在は派遣社員なども含めて100名ほどです。最初は研究者が中心でしたが、サービスとして販売できるようになるにつれて、営業や検査センターなどの人材も増えてきました。

研究所、検査センター、本社では文化も経歴も違います。それぞれの部署が同時に動かなければスピード感も出ないため、部署間をいかにつなぐかということには、継続して取り組んできました。

定期的に情報共有の場をつくることもしていますが、最終的な判断をするトップが全領域を理解していることで、うまくいかない状況でも早く決断できたことは大きかったと思います。

――採用では、どのような人と一緒に働きたいですか。

会社は黒字化しましたが、まだベンチャーだと思っています。これからも新製品を出したり、グローバル展開をしたりしていかなければなりません。

100人を超えてくると、良くも悪くも少し大企業らしくなってくると思いますが、まだベンチャーらしさは失いたくありません。ベンチャーにふさわしい人に入ってきてほしいと思っています。

新たながん検査と世界展開へ

――今後取り組みたい新しい挑戦を教えてください。

現在提供している「N-NOSE®」は、がん検査の入り口となる一次スクリーニング検査として開発したものです。その次の段階となる、がん種を特定する検査も開発しており、すでに一部の商品については販売を始めています。

今後は新しいタイプのがん検査や、人間以外を対象とするサービスの開発も重要になると考えており、ペット向けのがんリスク検査も販売しています。

研究開発ではAIも活用し、検査性能の向上に向けた研究を進めています。

――グローバル展開についてはいかがでしょうか。

現在は日本でのみ実用化していますが、がんで困っている人は世界にもたくさんいます。N-NOSE®は国内販売数が累計100万検体を突破しており、これをアメリカやアジアなど、さまざまな国にどう広げていくか、具体的な検討を進めています。

国内でも、まだまだ多くの方に検査を知っていただく必要があります。がん検査は特定の人だけが受けるものではなく、健康な人が全員受けるべきものだと思っています。一人でも多くの方に知っていただくため、営業にも力を入れながら、研究開発とグローバル展開を並行して進めていきます。

一人ひとりの良さを学び、次の可能性へ

――影響を受けた人物や、経営のロールモデルはいますか。

研究者の頃も経営者になってからも、昔の偉人の本はなるべく読まないようにしていました。読んでしまうと、その人の通りにしたくなってしまうからです。

特定のロールモデルをつくるというより、いろいろな方の良いところを少しずつ学ぶようにしています。そういう意味では、すべての方を尊敬しています。

――お休みの日のリフレッシュ方法を教えてください。

海外のサッカー観戦です。ネット経由で見ています。海外の試合は夜中に行われることが多いので、リアルタイムでは見ず、週末まで結果を見ないようにしています。

金曜日の夜になると、お酒を飲みながら自分の部屋にこもってサッカーを見る。それが一番の息抜きです。

これからも研究開発を重ねながら、より多くの人にがん検査を届け、「がんが怖くない世界」の実現を目指していきたいと考えています。日本から世界へ、新たな可能性を切り拓いていきます。

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