働く人の“心と身体”に寄り添う新しい福利厚生をつくる

山口県で企業向け福利厚生ボディケア「OFiST(オフィスト)」と店舗施術「Kjカイロプラクティックオフィス」の両軸を展開する「株式会社べんちすたーと」。働く人の体の負担が増える中で、“企業の中にケアを持ち込む”という新しいアプローチを続けています。本記事では、事業の背景、独立の理由、組織づくり、未来への展望、そして代表・近藤桂樹さんの素顔について伺いました。

企業の中にケアを届ける――べんちすたーとのいま

まず、事業内容と他社との違いを教えてください。

弊社は、企業向け福利厚生としてのボディケアサービスと、地域密着型の店舗施術、この2つを軸に事業を展開しています。
企業向けサービスでは、定期的に契約企業様へ訪問し、従業員の方に15〜20分の短時間施術を提供しています。限られた時間の中でもしっかりと効果を感じていただけるよう、肩こりや腰の張りなど「働く人が抱えやすい不調」に特化した施術内容を組み立てているのが特徴です。

また、山口県内では“企業の中で従業員ケアを行う”サービス自体がまだ珍しく、早い段階からこの分野に着目し、継続的に取り組んできた点が弊社ならではの強みだと考えています。単なるリラクゼーションではなく、働く環境の中で無理なく心身を整えられる仕組みとして、企業と従業員の双方に寄り添うサービスを提供しています。

福利厚生サービスはどのように運用されているのですか?

契約企業様では、総務・人事の方が中心となり「まだ受けていない従業員を優先的に案内する」といった運用を行い、できるだけ公平に施術が行き渡るよう工夫されています。これにより、特定の方だけでなく、より多くの社員の方にケアを届けられる体制が整っています。

実際の一例として、ある企業様では月2回の訪問で、1回あたり4時間滞在。1名のセラピストが12名を施術し、月内で合計24名の従業員をサポートしています。業務の合間に無理なく受けられるため、導入のハードルも低く、継続しやすい形になっています。

また、身体のケアだけでなく、職場全体の雰囲気づくりにも良い影響が出ており、「部署を越えて会話が生まれた」「良い気分転換になり、仕事に集中しやすくなった」といった声も届いています。単なる福利厚生にとどまらず、職場環境の質を高める取り組みとして評価いただいています。

企業訪問と店舗運営のバランスはいかがですか?

店舗はこれまで積み上げてきたリピーターの方を中心に大切に運営しながら、今後は法人向けサービスをより一層強化していく方針です。地方では「施術を受けたいと思っても時間が合わない」「仕事終わりに店舗へ行く余裕がない」といった声も多く、職場内でケアが完結することの価値は年々高まっていると感じています。

実際に導入企業が増えるにつれて、「職場の雰囲気が柔らかくなった」「身体の変化を実感できた」といった反応も広がってきました。そうした現場の声が、そのままサービスの改善や企業への新たな提案につながっており、より実情に合った形へと進化できている実感があります。

今後は店舗と企業訪問、それぞれの役割を大切にしながら、地域での認知向上と、より利用しやすい仕組みづくりに力を入れていきたいと考えています。

独立という選択と、価値観が形づくる働き方

専門学校卒業後のキャリアと、独立のきっかけを教えてください。

高校卒業後、カイロプラクティック専門学校に進学し、入学後すぐに治療院で見習いとして働き始めました。24歳まで治療院に勤務していましたが、役割が限られた環境に物足りなさを感じ、自分で判断し挑戦できる環境に身を置きたいという思いから独立を決意しました。

現場での経験を自分の裁量で活かしたいという気持ちは、仕事を重ねる中で徐々に強くなり、独立への後押しとなりました。

独立してよかったこと、反対に大変だったことは?

良かったことは、技術・知識・経営のすべてにおいてお客様と真摯に向き合い、実践を通して自分自身を高め、向上し続けられていることです。

ただ、経営の不安は常にあります。調子がいい時期もあれば、落ち込む時期もあり、波はありましたが、それも「自分で選んだ責任」として受け止めてきました。安定した収入や組織のサポートがない分、日々の判断が未来に直結する感覚があり、その緊張感をどうコントロールするかも大切な経験になりました。

3年目以降、仕事の仕方を見直すことになった理由は?

最初の3年間は、尖った広告を使って一気に集客を伸ばしていました。しかし、期待値とサービス内容にズレが生じ、離脱が増えるようになりました。そこで、誠実に提供できることだけを伝える方向へ切り替え、「また来ます」というお客様の一言を恐れず、リピートを強制しない運営に改めました。その結果、自分らしいスタイルが見えてきました。

サービスに対する姿勢を見つめ直し、「できること」と「できないこと」を明確に伝えることで、お客様との関係性も自然と良い方向に変わっていきました。この転換期を経て、「人は言葉より行動を見る」という当たり前の大切さを痛感しました。勢いだけの宣伝では長続きせず、実際に喜んでもらえるサービスの中身こそが価値になる、この気づきは、現在の福利厚生事業にも活かされています。

集客よりも“信頼の積み重ね”を重視するようになったことで、事業の安定にもつながりました。また、自分がどう在りたいかを軸に判断できるようになったことで迷いが減り、長く続けられる働き方へと変わっていきました。

“誠実さ”を軸にした信頼づくりと組織のあり方

仕事を続ける中で、価値観の変化はありましたか?

大きく変わったのは、「誠実さを軸にする」という姿勢です。できることとできないことを正直に伝え、目の前の人に尽くす、その積み重ねが信頼につながることを実感しました。

以前は集客のために過剰な表現をしてしまうこともありましたが、長く関係を続けるうえでは、派手さよりも誠実さこそが最大の武器であると気づきました。お客様からの評価は、派手な宣伝ではなく、日常の丁寧な積み重ねで決まる、この考え方が今の仕事の軸になっています。

企業向けサービスでも、その姿勢が活きていますか?

はい。契約企業様でも、従業員の声やアンケートを丁寧に集め、企業側へ共有することで、透明性の高いサービス運営を心がけています。企業も従業員も納得できる形をつくることで、信頼関係が着実に築かれていきます。

特に大人数の職場では、部署ごとに働き方や身体の負担が異なるため、いただいた声をそのままにせず、次回の訪問内容にしっかり反映することが重要です。こうした積み重ねが、「頼れる存在」として認識されるきっかけにもなっています。

印象に残っている出来事はありますか?

以前の私は、整体は「不調を改善するためのもの」であり、そのためには次回予約を取ることも大切だと思い、毎回のようにお客様に次回のご案内をしていました。でもその関わり方に、どこか自分らしくなさを感じていたんです。

そんな中、ある新規のお客様に思い切って「無理に決めなくて大丈夫なので、必要だと思った時にいつでも連絡してくださいね」と伝えたことがありました。

整体は改善させなければいけないものではなく、もっと気軽にケアを受けて、リフレッシュして、また頑張れるための時間であっていい。そう思えた瞬間でもありました。

すると後日、そのお客様から「やっぱりお願いしたくて。前回すごく楽になったので」 と連絡をいただいたんです。その言葉を聞いた時、「これが自分のやりたかった関わり方だ」と腑に落ちました。

無理に良くしようとするのではなく、気軽に来れて、心も体も少し軽くなる場所であること。それが僕のできることであり、お互いにとってストレスのない関係なんだと気づいた大切な出来事です。

この経験をきっかけに、施術は「治す」から「整えて、前に進む力をつくる」ものへと変わりました。お客様がリラックスして帰っていく姿を見るたびに、このスタイルこそが自分の軸なのだと実感しています。

地域課題に挑む事業と、30代で目指す姿

今後、事業としてどのような未来を描いていますか?

山口・広島は人材不足や高齢化が進み、“働く人の身体の負担”が大きくなる地域です。特に地方の中小企業では、通院やメンテナンスの時間が取りづらく、身体の不調を抱えたまま働き続ける方も多くいます。

今後は、企業が従業員の健康を守る仕組みを持つことがますます重要になると感じています。そこで、地域企業への導入を増やし、健康的に働ける職場がひとつでも多く広がるよう取り組んでいきたいと考えています。オフィス内で気軽に受けられるボディケアは、職場の雰囲気改善にもつながり、地域全体の働き方を変える可能性があると信じています。

全国展開も視野に入れていると伺いました。

はい。「オフィスセラピスト協会」などのネットワークと連携し、同業の仲間とタッグを組みながら、全国対応できる仕組みを整えていく予定です。地方で培ったノウハウを共有し、各地域の企業に合わせた提供方法を作ることで、どこにいても同じ質のサービスを受けられる環境を目指しています。

地方に拠点を置きながら全国に貢献できる形を作れることが、この事業の面白さでもあります。

個人としては、今後どう成長していきたいですか?

30代は「行動によって信頼を得る時期」だと考えています。事業を広げるためには、人間性と信頼の両方が伴っていなければなりません。そのため、自ら現場に立ち、行動で示す姿勢を大切にしています。動けるうちは全力で取り組み、事業を加速させたいと思っています。企業や従業員の方から「このサービスを導入してよかった」と感じてもらえるよう、まずは自分自身が信頼される存在でありたいと考えています。

また、地方での活動を通じて培った“泥臭い現場力”は、全国展開でも必ず活かせると考えています。地方の企業は支店や本社が都市部やその他地域にあることが多く、従業員の働き方や身体の負担に地域差があります。そのため、地方だからこそ現場に近い距離で変化を感じ取り、柔軟に対応できる感覚は大きな強みです。

静けさの中で整う心――釣りと運動が支える“自分らしさ”

経営の合間で、どのようにリフレッシュしていますか?

海が近いので、子どもと一緒に釣りに出かけることが多いです。餌をつけて港に投げるだけのシンプルな釣りですが、釣れるか釣れないかに関わらず、海を眺めているだけで心が落ち着きます。

また、散歩や軽い運動も取り入れ、意識的に“頭を空っぽにする時間”をつくるようにしています。経営のことを考え続けると視野が狭くなりがちですが、自然の中で感覚をリセットする時間を持つことで、気持ちを切り替え、リフレッシュすることができます。

プライベートではどんなタイプの方ですか?

実はかなり静かな性格で、家ではあまり喋らない方です(笑)。奥さんからは「仕事のときと家での雰囲気が全然違う」とよく言われます。だからといって、仕事中の会話を無理しているわけではなく、仕事モードになると自然とスイッチが入る感覚なんです。たまに仕事のテンションで奥さんと話すと嫌がられますね(笑)。

子どもともべったり遊ぶというよりは、釣りに連れて行って一緒にのんびり過ごすような距離感がちょうどよくて。にぎやかな場所よりも、一対一で静かに向き合う時間のほうが自分には合っていると感じます。その感覚は施術の仕事にも通じていて、相手の呼吸や身体の変化に集中する静かな時間は、自分の強みを最も発揮できる瞬間でもあります。

こうした穏やかな日常があるからこそ、仕事でも誠実な姿勢で向き合えているのだと思います。生活と仕事はどちらも自分を形づくる大切な要素。これからも無理をせず、自分らしいペースで一歩ずつ積み重ねながら、事業にも向き合っていきたいと考えています。

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