株式会社指只──住まいと暮らしを支え続ける、地域密着型企業の現在地

株式会社指只は、木製建具の製造からスタートし、現在はリフォームや新築工事、福祉用具のレンタル・販売まで幅広く事業を展開しています。創業80年という長い歴史の中で、地域の暮らしを支える存在であり続けてきた同社。本記事では、現在の事業内容、歴史の中で受け継がれてきた思い、そして鈴木靖明代表が描く未来について伺いました。

住まいづくりを軸に広がる事業展開と現在の姿

まず、現在の事業内容と特徴について教えてください。

当社は、木製建具やオーダーメイド家具の製造・取り付けをはじめ、リフォーム、新築工事、福祉用具のレンタル・販売まで総合的に住まいを支える事業を行っています。創業時は建具製造を中心とする会社でしたが、地域のお客様から寄せられるさまざまな相談に応える形で事業領域を拡大してきました。現在の売上ではリフォーム事業が大きな割合を占めており、暮らしの困りごとを幅広くカバーできる体制が特徴です。

福祉用具の事業はどのように始まったのでしょうか。

福祉領域の展開は、長くお付き合いのあるOB顧客の皆さまとのご縁から自然に広がりました。家を建てた大工さんが引退したり、工務店が閉業してしまったことで、「どこに相談したらいいかわからない」といった声をいただくようになり、その延長で福祉用具レンタル・販売事業をスタートしました。住まいの困りごとだけでなく、暮らしそのものを支える存在でいたいという思いが、この事業にもつながっています。

創業80年という長い歴史の中で受け継がれてきた思いを教えてください。

私は三代目ですが、初代・二代目の頃から「地域の生活を支える存在であり続ける」という姿勢はずっと変わっていません。私が入社したのはリーマンショックの時期で、経済全体が大きく揺れ動いた時期でした。会社としても影響を受けましたが、その経験を通じて“自分たちの力で安定した事業基盤をつくる必要性”を強く感じました。そこからBtoC領域への意識を高め、お客様と直接つながるサービスをより強化してきました。

会社として大切にされている理念を教えてください。

大切にしているのは「ご縁を大切にし、誠実に向き合う」ことです。どれだけ事業が広がっても、お客様に安心して任せていただける関係性が何よりの土台になります。創業時からのお客様が今でも相談してくださるのは、日々の小さな積み重ねが信頼につながってきたからこそだと感じています。これからも、地域の暮らしを支える存在として、変わらない姿勢で向き合っていきたいと思っています。

技術修行から経営へ──家業を未来につなぐためのキャリア形成

これまでのご経歴について教えてください。

高校・大学を経て建築学科に進学し、将来的に家業を継ぐことを見据えて学んでいました。大学3年生の頃には父と「会社に戻る前にどんな経験が必要か」を話し合い、その結果“まず技術を身につけること”を優先する方針に決まりました。卒業後は別の建具会社に弟子入りし、約3年間、職人としての修行に打ち込みました。途中でリーマンショックの影響もあり、修行先が厳しい状況に置かれたことを機に「今が戻るタイミングだ」と判断し家業へ戻りました。現場で培った技術や職人目線の感覚は、今の経営にも大きく役立っています。

家業を継ぐことについて、どのようなお気持ちだったのでしょうか。

幼い頃から家業が生活を支えてくれている実感があり、自然と「自分もこの道に進むのだろう」と思っていました。やりたいことは他にもありましたが、それ以上に“会社そのものが好きだった”という感覚があります。両親の働く姿を身近で見て育ったこと、仕事を通じて多くの人とつながる場面に触れたことも影響していて、強く言われたわけではありませんが、父の背中が進む道を示してくれたように感じています。

代表になられてから感じた変化や、経営者として意識していることを教えてください。

令和のタイミングで代表に就任し、それまでも専務として会社を支える立場でした。父は力強いトップダウン型、私は周囲の意見を聞きながら進めるタイプで、5年ほどかけて徐々に役割を引き継ぎました。代表になって最も意識が変わったのは「数字を見る感覚」です。建築業界は繁忙期と閑散期の波が大きく、仕事が少ない時期は気が引き締まります。不安を消すことよりも、先を読み準備をする姿勢を大切にし、BtoC事業で見通しを確保しつつ、BtoB案件にも柔軟に対応できる体制づくりを心がけています。会社を守り、次世代につなぐ使命感が原動力になっています。

“笑顔づくり”を軸にした組織運営と、仲間への向き合い方

日々の経営の中で、大切にしている価値観を教えてください。

当社の企業理念は「笑顔づくり」です。まず大切にしているのは“自分自身の笑顔”で、自分が胸を張って出せる仕事かどうかを常に問い続けています。職人修行の頃、親方に「お前がいいと思うなら、それでいい」と言われた経験があり、その言葉は今も軸になっています。次に大切なのが“仲間の笑顔”です。身近なメンバーが前向きに働ける環境が整ってこそ、初めてお客様の笑顔につながると考えています。「自分・仲間・お客様」の順で笑顔の輪を広げていくことを大切にしています。

社員や職人の皆さんとのコミュニケーションで工夫していることはありますか。

月に一度の全体ミーティングで状況共有や今後の方針を話し合うほか、年に一度は中期ビジョンや年度方針を確認する発表会を行っています。毎朝の業務ミーティングも大切な場ですが、それ以上に意識しているのは“都度の対話”です。何かを決める際には、会議の前に個別で意見を聞いたり、現場の空気を確かめたりして、全員が納得できる形で進めることを心がけています。一方的なトップダウンではなく、双方向のコミュニケーションを重視しています。

先代とのスタイルの違いは、組織づくりにどのように影響していますか。

先代は「俺についてこい」という力強いリーダーシップで会社を引っ張るタイプでした。一方、私は周囲の声を聞きながら方向性を決めるスタイルです。そのため、オフィシャルな場とインフォーマルな場を丁寧に使い分け、メンバーの意見をくみ取りながら組織をつくることを大切にしています。誰か一人の考えで進むのではなく、全員が同じ方向を向けるよう、対話を重ねながら進めることが理想です。これからも「笑顔づくり」という理念のもと、仲間とともにより良いチームを築いていきたいと考えています。

“集える会社”を目指して──未来に向けたビジョンと挑戦

今後の展望について、どのようなビジョンを描いていますか。

現在は中期ビジョンの再構築を進めており、「この先どんな会社でありたいか」を改めて見つめ直しているところです。その中で大きなテーマとして掲げているのが“集える会社”です。これは業界内外の人が自然と足を運びたくなるような、魅力と開かれた空気を持つ会社を目指すという意味です。事業が広がり、会社の役割も変化する今だからこそ、外からも中からも「ここに来たい」と思ってもらえる存在を目指しています。

そのビジョンに込めた具体的な思いを教えてください。

まずは「安定して利益を生み出せる仕組みをつくること」です。しっかり利益を生むことは、社員への還元や設備投資、技術向上につながり、結果的に会社の持続力を高めます。次に「人として、チームとして“かっこいい職人集団”になること」。技術だけでなく、働く姿勢やチームワーク、現場の雰囲気まで含めて誇れる集団でありたいと考えています。また、職場環境そのものも魅力の一つにしたいと思っています。来訪者が「きれいで整っている」と感じられる空間づくりを進め、職人の仕事が持つ本来の価値や美しさをしっかり伝えていきたいです。

今後さらに挑戦したいことがあれば教えてください。

既存事業の強化を軸にしながら、未来に向けた土台づくりを進めています。特に、若い世代に職人の魅力を伝える取り組みや、地域の方が気軽に相談できる場所づくりは力を入れたい分野です。また、長くお付き合いしてきたOBのお客様に安心して利用いただけるよう、福祉分野のサービスもより充実させていきたいと考えています。利益を生み、誇れる集団となり、人が自然と集まる会社へ――その実現に向けて、これからも一歩ずつ積み重ねていきたいと思います。

趣味と地域活動がもたらす学び──仕事に還元される“外の時間”

経営以外で、今打ち込んでいる趣味や楽しみがあれば教えてください。

趣味として特に力を入れているのはゴルフです。経営者仲間に誘われて始めたのがきっかけですが、今では良い気分転換であり、学びの場にもなっています。ゴルフは人柄や考え方が自然と表れるスポーツで、メンタルの持ち方や周囲への配慮が大切だと実感しています。さまざまな業種の方と交流できるため、コミュニケーションの幅が広がるのも魅力です。また近年は「地域活動」への関心も高まっています。複数の団体に所属し、地域イベントの運営や学校での活動支援など、地元に還元する取り組みに関わる機会が増えてきました。

地域活動にはどのような魅力を感じていますか。

まちづくりや人づくりの活動では多様な人と関わるため、刺激や発見が多く、自分自身の視野が広がります。子どもたちへのワークショップや体験授業に携わると、こちらが学ぶことも多く、「自分たちの仕事をどう伝えるか」を考える良い機会にもなっています。趣味のゴルフや地域活動で得た人脈や気づきは、結果的に経営にも良い影響を与えており、今後も続けていきたい大切な時間です。

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