アスリートの価値を競技の外側まで広げる──株式会社Jouleは、選手のIPを軸にした新しいマネジメントに挑戦しています。代表取締役・千葉健太氏は、自身のサッカー経験を生かし、選手のストーリーや魅力を正しく伝える取り組みを推進。本記事では、事業の現状や創業の背景、選手との関わり方、未来への展望、そして千葉氏の価値観について伺いました。
目次
プロアスリートの価値を最大化するマネジメント事業の今
まず、現在の事業内容と特徴について教えてください。
当社はプロアスリートのマネジメント業を中心に事業を展開しています。スポーツ選手のサポートというと移籍交渉や年俸交渉を担う「エージェント業」が一般的ですが、当社はあえてその領域には踏み込まず、「選手のIP(知的財産)価値の向上」に特化したマネジメントを主軸にしています。いわゆるマネージャー機能に近い立ち位置で、選手の肖像権を適切に管理し、企業やメディアが活用しやすい形に整えることが主な役割です。
会社自体は2年前に設立しましたが、本格的にマネジメント事業をスタートさせたのは今年からです。まだ新しい挑戦ではありますが、既存のエージェント業との違いを明確にしながら、独自の価値提供を進めています。
エージェント業を行わないことには、どのような理由があるのでしょうか。
サッカー界にはFIFAやUEFAが認定するエージェントライセンス制度があり、現在は資格取得者でなければエージェント業務ができません。英語やフランス語など他言語での試験が必要なこともあり、ハードルは決して低くありません。
一方で、IPマネジメントは明確なライセンスの縛りがなく、選手の価値を引き出す余地が大いにあります。私はもともと選手と個人的な関係があり、幼い頃からの仲間として過ごしてきた背景があります。だからこそ、「彼の魅力をもっと広く届けたい」という思いが強く、そのために最適な形がエージェント業ではなく“IPに特化したマネジメント”でした。
日本のアスリートは、海外の選手と比較してもまだまだIP活用の余地があります。グッズや広告、コンテンツ展開など、スポーツの可能性を広げるチャンスは大きいと感じています。選手自身の力を最大限に引き出し、スポーツ界全体の価値向上につなげたい──そんな思いで現在の事業スタイルを選択しました。
挑戦の連続が導いたキャリア──“プレーヤーからマネジメントへ”の道
これまでのキャリアについて教えてください。
幼少期からサッカー一筋で、鹿島アントラーズの育成組織で小学生から高校生までプレーしてきました。日本一を2回経験し、大学でもプロを目指して競技を続けましたが、大学時代の大きな怪我をきっかけにトップを目指す道に区切りをつけました。その後もアジアでのプロ挑戦など、自分の可能性を信じて数年間海外で模索を続けました。日本に戻る直前にはインドネシアでサッカーと並行しながら現地メディアで働いた時期もありますが、あくまで“競技を続けるための環境”としての働き方で、一般的な会社員としてのキャリアとは少し異なるものでした。
起業を意識するようになったきっかけは何でしたか。
最大の理由は、幼なじみであり、現在ともに活動している町田選手の存在です。今季からブンデスリーガに挑戦し、日本代表として戦う彼のそばにいる中で、「選手の価値を最大化するために自分にできることがある」と強く感じました。町田選手自身も、プレーに集中するための信頼できるパートナーを求めていたのか、長年の関係性が現在の役割に自然とつながりました。SNSや動画メディアの発展により、アスリートが競技以外で価値を発揮できる機会が広がる中、“今しかできない挑戦”をともに実現したいという思いが、マネジメント事業の出発点になりました。
経営者として大切にしている考え方を教えてください。
経営者を名乗るにあたって、まだまだと痛感させられる日々なのですが、特に意識しているのは「理想と現実のバランス」です。どれほど意義のある取り組みでも経営基盤がなければ継続できず、逆に利益だけを追えば選手の本来の価値が損なわれます。アスリートが積み重ねてきた努力やストーリーを丁寧に伝え、ファンやパートナー企業様に誠実に向き合うことこそマネジメントの根本だと考えています。
ブランディングも同様で、取り繕うのではなく“ありのままの熱量や想い”を社会にどう届けるかが重要です。町田選手は知的好奇心が旺盛で、多方面に関心を持つ人間性があります。その個性を無理にスター像へ寄せる必要はありません。彼にしかない価値をどう形にするのか──それを選手と対話しながら日々模索しています。
“共創するパートナー”としての組織運営──密な対話から生まれる新しい価値
日頃のコミュニケーションはどの程度行っているのでしょうか。
町田選手とは、友人関係としての距離感がベースにあるため、仕事かどうかを問わず自然に連絡を取り合っています。海外にいてもLINEやビデオ通話で気軽につながれるため、実際には2日に1回は必ず交流がある感覚です。オンシーズン・オフシーズンに関係なく情報が常に共有されることで、マネジメントとしての判断も的確に行えますし、選手の状況を深く理解した上で寄り添える関係性が築けています。
現在取り組んでいる新しいプロジェクトについて教えてください。
いま注力しているのは“選手の動きそのものをデジタル資産として残す”取り組みです。町田選手の長期離脱をきっかけに、トップパフォーマンス時の身体データをどう未来へ活かせるかを考えるようになりました。私たちはこの概念を「肖動権(しょうどうけん)」などと呼び、いわば“動作版のIP”として捉えています。
従来のモーションキャプチャー技術を応用し、選手それぞれのキックフォームや身体操作を3D空間で多角的に再現すれば、育成年代の指導に革新を起こせます。さらに、VR上で試合を再現できれば、怪我をした選手が試合感覚を失わずに脳や視覚のトレーニングを行うことも可能です。スポーツ科学やリハビリなど、応用範囲は大きく広がっています。
この取り組みが選手の未来にどのような価値を生むと考えていますか。
動きをデジタルIPとして残すことで、現役時代だけでなく引退後も価値が持続する新しいキャリア設計が可能になります。NFTのような単なるデジタルコンテンツとは異なり、教育・医療・エンタメと実用性の高い領域で活用できる点が特徴です。ロングキックや身体操作など、それぞれの選手が持つ“唯一無二の動き”が未来に残ることで、スポーツ界全体の財産にもなり得ます。
このプロジェクトもまだまだ走り出しですが、マネジメントとは単に選手を支える立場ではなく、“共に価値を創るパートナー”であると強く実感しています。日々の密なコミュニケーションを基盤に、選手の魅力を新しい形で社会へ届ける挑戦を続けています。
スポーツの価値を未来へつなぐ──“成功モデル”を起点に広がる展望
今後の展望についてどのようにお考えでしょうか。
まず目指しているのは、町田選手との取り組みを“成功事例”として形にすることです。彼が競技の第一線で活躍しながら、新しい価値創出に挑戦していく姿が多くの人の目に触れれば、「サッカー選手ってこんな取り組みもできるんだ」「その裏側には誰がいるんだろう」と興味を持っていただけるはずです。
その結果として、アスリート側から「一緒に取り組みたい」と声をかけてもらえる存在になれば大きな価値になります。もちろん、それを目的にしているわけではありませんが、選手と誠実に向き合い、価値を最大化する取り組みを続けていけば、自然と“選ばれる側”になっていくと感じています。
一方で、たとえマネジメントが大きく拡大しなかったとしても、町田選手の価値を磨き、彼自身のキャリアや挑戦が最良の形で未来につながることが最も重要です。彼が新しい事業に取り組む際にも、現在の活動が確かな土台となりますし、会社としても選手としてもプラスの広がりを生みます。
事業として大きくするイメージはあまり持っていないのでしょうか。
私自身、明確な“マネジメント会社として拡大する”という目標は持っていません。どちらかといえば、今目の前にある「価値のあること」「面白いと感じること」に全力で挑みたい性格です。大きな組織をつくりたいというより、信頼関係のある選手と一緒に新しい可能性を切り拓き、その挑戦が社会にとってプラスになる形をつくりたい──そんな想いが根底にあります。
ただし、その軸には常に“サッカー”があり続けています。幼少期から人生の中心にあったスポーツであり、私を育ててくれた存在です。だからこそ、今後もサッカーを起点に、次世代の子どもたちやスポーツ全体の価値を高めるような事業へ広げていきたいと考えています。選手のIP活用やデジタル技術との融合など、可能性はまだまだ広がっており、スポーツが持つ新たな魅力を社会に伝える挑戦を続けていきたいです。
町田選手との取り組みは、一つの大きなスタートラインです。ここからどれだけ未来へ価値を残せるか──その挑戦を、これからも誠実に積み重ねていきます。

“アスリートであり続ける”という自分らしさ──心身を整える時間と原動力
サッカーや経営以外で、日常のリフレッシュや趣味として続けていることはありますか。
サッカーやトレーニングは今でも続けていますが、最近はランニングが日課になっています。公園を走る程度から始め、いずれはトレイルランやフルマラソンにも挑戦したいと考えています。アスリートと向き合う仕事だからこそ、自分自身も“動ける身体”を保ち続けたいという思いがあります。
実は、トレーニングをしていたら町田選手と同じ前十字靭帯の怪我を負ってしまいました。ただ、その経験から、リハビリを通して“不自由なく動けることの尊さ”と“選手が抱える葛藤”を少なからず実感しました。その経験は、マネジメントでも選手の気持ちに寄り添う姿勢へとつながっています。
リフレッシュとしてサウナにも通い、思考を整える時間は大切にしています。最近では、次世代の子どもたちの挑戦に触れることも刺激となり、自分の原動力になっています。
こうした日々の習慣が、選手と同じ目線で未来を語れる支えになっていると感じています。
これからも、心身を整えながら選手とともに精進していきたいです。

