ヘレナ株式会社は英会話スクールを母体に、フリースクールや高等学院の運営を通して「地域とともに子どもを育てる」教育に力を注いでいます。創業者から受け継いだ理念を胸に、英語教育の可能性や地域との連携に挑み続ける松本マーク代表。本記事では、キャリアの歩み、組織運営に込めた想い、そして未来へ向けた展望について伺いました。
目次
子どもから大人まで「未来をひらく教育」を届ける──ヘレナ株式会社の事業と理念
まず、御社の事業内容と特徴について教えてください。
事業の母体となっているのは英会話スクールで、そこからフリースクールと高等学院へと事業を広げています。スタートして2年半、現在3年目を迎えました。私たちが一貫して大切にしているのは、「未来に希望を持った子どもたちを届けたい」という想いです。社会にはさまざまな課題がありますが、だからこそ教育の役割を見つめ直し、課題解決につながる学びを設計することを重視しています。

対象年齢や、スクールの運営形態について伺えますか。
レッスンの大部分は対面で行っています。対象は幼児からシニア層まで幅広く受け入れており、特に小学生の割合が最も多いです。通常の英会話クラスはもちろん、帰国子女クラス、ビジネスクラス、資格試験に向けたクラスなど、多様なニーズに応えるコースを用意しています。年齢や目的に応じて柔軟に学べる環境づくりを心がけています。
企業研修を含め、大人と子どもでは指導の方法も変わるのでしょうか。
企業研修では、まず企業がどのような場面で英語を必要としているのかを丁寧にヒアリングし、オーダーメイドで内容を設計します。実用性を重視し、「自分の言いたいことを伝えられる」「相手の話を理解できる」という成果につながるよう、生徒が話す時間を多く確保しています。一方で子ども向けレッスンは、大人より集中力が続きにくいため、アクティビティを取り入れながら学んでいる感覚を持たせすぎない工夫をしています。楽しさを通して自己成長につながる環境づくりが特徴で、学びと遊びが自然につながるように設計しています。
想定外から始まった「教育の道」──松本氏のキャリアと、経営者としての転機
ご自身のキャリアについて伺えますか。
大学卒業後は教育とは無縁の海上コンテナ関連の会社に勤めており、英語や教育に関わる未来は全く想定していませんでした。姉がスクールを手伝っていたため家業との接点はあったものの、自分の道として選ぶ意識はほとんどなかったんです。そんな中、創業者である父から声がかかり、「この道に挑戦してみよう」と決意したのが最初の転機です。大学卒業から5〜6年ほど経った頃でした。
しかし当時の私は教育の知識も英語の知識も乏しく、思うようにいかず挫折に近い経験をしています。そこで自分の力不足を痛感し、「学び直す必要がある」と決めてアメリカのユタ大学大学院へ進みました。現地の語学学校や言語学部でインターンを経験し、教育の理論と実践を身につけて日本に戻ってきました。
経営者になることは想定されていたのでしょうか。
当初は経営者になりたいという思いはほとんどありませんでした。今でも「自分は本当に経営者に向いているのか」と迷う瞬間はあります。ただ、当時すでに30年近く続いていたスクールを途絶えさせたくなかったこと、そして教育の可能性を実感しつつあったことが、現在の道を選ぶ大きな理由になりました。教育を通じて地域に貢献し続けることが、自分にできる恩返しだと今は感じています。
実際に経営を担うようになり、どのようなギャップがありましたか。
従業員の立場では、決められた枠の中で工夫すれば良かったのですが、経営者になると「新しい価値を生み出す」「事業の意味をつくる」という視点が求められるようになります。特に教育は形の見えないサービスです。だからこそ、学び続けてもらう価値を届けることや、時代に合わせた新しいサービスを生み出し社会に役立てることが重要になります。責任の重さと視野の広がりを強く感じるようになりました。
個性を尊重し、地域とともに人を育てる──組織運営に込める想い
お仕事を進めるうえで、重要視されていることを教えてください。
まず大切にしているのは、「一人ひとりの個性を尊重すること」です。子どもも大人も、それぞれ違った輝きを持っています。その個性を見つけ、さらに輝きを増せるようにサポートすることが教育機関としての使命であり、従業員に対しては経営者としての責任だと感じています。
教育を通じて社会に向き合っている部分についても伺えますか。
外国人と日本人の間には、いまだ大きな壁があると感じています。インターネットを見ていると、外国人に対する否定的な言葉も少なくありません。こうした誤解や偏見を解消できる鍵が、私は英語によるコミュニケーションだと思っています。言語を通じて相手を知り、理解が深まれば、同じ仲間として未来に向かって歩んでいける。その橋渡しを教育で担うことに、大きな意義を感じています。
地域との関わりについても特徴がありますね。
私たちは「地域とともに子どもを育てる」という姿勢を非常に大切にしています。こちらでは“共に育てる”という意味を込めて「共育/きょういく」と読んでいます。地域企業20社ほどと連携しながら、高校生を育てる仕組みづくりにも取り組んでいます。地元に根づき、地元を好きになり、そこで新しいチャレンジができる環境を整えることが目的です。
子どもたちに育んでほしい価値観についても教えてください。
子どもたちが自尊心を持ち、日本人としてのアイデンティティや誇りを大切にできることを重視しています。そのうえで、自分の大切にしているものを海外の人や地域の人に自信をもって伝えられるようになってほしい。そうした姿を実現するために、日々の教育を積み重ねています。
「地域と未来のために教育ができること」──松本氏が描くこれからの展望
今後の展望や、実現したい未来の姿について教えてください。
英語教育については、地域に存在する外国人と日本人の“見えない壁”を越え、共に暮らす社会をつくりたいと考えています。英語を学ぶ目的をテストの点数や進学だけに限定するのではなく、地域をより良くするための教育として機能させたいという思いがあります。隣に外国の方が住むことが当たり前になった今だからこそ、「怖い」「話しかけにくい」と感じるのではなく、自然にコミュニケーションを取り、日本の文化や価値観を自信をもって伝えられる子どもたちを育てたいと考えています。
地域全体の未来に向けて、どのような課題を感じていますか。
現在、フリースクールと高等学院を運営する中で、人口減少という大きな課題を強く意識しています。地域が将来なくならないためには、子どもたちとどんな活動ができるのかを考え続ける必要があります。また、不登校の増加や若者の自殺が増えている現状も気になる点です。それらの背景には「自分自身にワクワクできない」「未来に期待が持てない」といった感情があるのではないかと感じています。
その課題を踏まえて、どのような社会を実現したいと考えていますか。
地域企業と連携しながら、子どもたちが自分の人生に前向きな期待を持てる環境、そして地域の未来を「面白い」と感じられる社会をつくっていきたいと考えています。子どもたちが学びに意欲を持ち、自分の可能性にワクワクできる状態が広がれば、地域全体が活気づきます。教育を通じてその土台を築くことができれば、未来は必ず明るくなるという思いがあります。
子どもとの時間が心の軸になる──経営の外側にある大切な過ごし方
経営以外で、今ハマっていることや没頭されていることはありますか。
正直、経営以外にまとまった時間を取ることはなかなか難しい状況です。ただ、その中でも特に大切にしているのが、4歳になる子どもとの時間です。まだ幼いので何かを本格的に教えるという段階ではありませんが、どんなことを考えているのかを知る瞬間や、小さな感動を一緒に共有できる時間は、大きな意味を持っています。だからこそ、できる限り子どもと過ごせる時間をつくるよう意識しています。
お仕事が忙しい中で、どのように家族との時間を確保しているのでしょうか。
4歳だと一緒に遊べることも多いのですが、妻からは「もっと時間を作りなさい」とよく言われます。スクールは月曜から土曜まで稼働しているため、週2日の休みを確保していても、自宅で仕事をしたり連絡対応が入ったりと、完全に休みとは言えない日も多いのが実情です。平日の休みも「半分仕事をしている感覚」に近く、日曜日も試験官としての業務やイベント対応があるため、100%のオフをつくることが難しい場合があります。イベントの際は現場に足を運ぶ必要があり、子どもを連れて行くのが難しいケースもあります。
それでも家族との時間を大切にされている理由をお聞かせください。
家族の存在は、私にとって大きな心の支えです。経営は日々さまざまな判断が求められる仕事ですが、子どもと過ごす時間があることで、「自分は何のために頑張っているのか」を素直に思い出させてくれます。どれだけ忙しくても、家族との時間が心を整えてくれる。だからこそ、これからも少しずつ働き方や時間の使い方を見直し、家族と過ごす時間を増やしていければと思っています。

