映像と音に「触覚」を。世界を震わせるネックレス型デバイスの挑戦

Hapbeat合同会社 代表取締役 山崎勇祐氏

映像が美しくなり、音響がリアルを極める現代において、五感のうち未だ開拓の余地を残しているのが「触覚」です。大学時代に発明した独自の振動生成機構を社会に実装すべく、2017年にHapbeat合同会社を設立した山崎勇祐氏。彼が開発したネックレス型デバイス『Hapbeat(ハップビート)』は、4DXシアターのようなリッチな衝撃や高揚感を、手軽に、そしてパーソナルに提供します。「ただの情報の伝達ではなく、エンターテインメントを心から楽しんでほしい」と語る山崎氏に、これまでの歩みと、触覚技術が切り拓く未来の展望を伺いました。

「触覚表現」を一般化し、コンテンツ体験を一段上の楽しさへ

――現在の事業内容と、掲げているビジョンについてお聞かせください。

私たちは主に、独自開発したネックレス型の触覚デバイス『Hapbeat』の開発・製造・販売、および触覚技術に関するコンサルティングを行っています。

今のメディアコンテンツは、主に映像と音声で成り立っていますが、画質や音質はすでに人間が知覚できる限界に近い領域まで進化しています。しかし、私はそれだけでは足りないと考えています。映像や音に加え、身体に伝わる「振動」や「衝撃」といった触覚体験を組み合わせることで、コンテンツはもっと面白くなる。

私たちのビジョンは、この触覚技術を用いた表現を一般化し、誰もが手軽に、よりカジュアルに「体感」を楽しめる世界を作ることです。これまで、4DXシアターのようなリッチな体感アトラクションは、大規模な設備と予算が必要でした。それをデバイス1台、あるいは数万円から十数万円というコストで、1日のイベントや小さな展示会でも導入できるようにし、来場者の記憶に深く残る体験を提供したいと考えています。

研究室での発明を世に出すために選んだ「経営」という道

――キャリアや経営者になった経緯を教えてください。

大学での研究を通じて、新しい振動生成機構を発明したことがすべての始まりです。この技術をただの研究で終わらせるのではなく、ちゃんと実用化して世の中に広めたいという思いが強くありました。

正直なところ、就職という選択肢もありました。しかし、企業に入ってしまうとおそらくこの活動は続けられなくなってしまう。「やらないで後悔するなら、やって後悔しよう」という発想で、半ばなりゆきのような形ではありましたが、自分でやるしかないと決意しました。

キャリアの中での大きなターニングポイントは、この技術がヨーロッパの「EuroHaptics 2016」という国際的な学会で、ベストデモ賞(最優秀賞)を受賞したことです。触覚技術の分野で非常に影響力のある学会で認められたことで、「この技術は本物だ」と自信を持つことができました。もしあの受賞がなければ、途中で心が折れていたかもしれません。

「楽しい」が判断基準。BtoB向けシステム展開への新たな挑戦

――組織の運営や、仕事をする上で大切にされている価値観は何でしょうか。

現在は私一人の体制で運営しており、その分フットワークの軽さを強みにしています。経営判断の軸に置いているのは、「それをやることで、楽しい体験に繋がるか」という一点です。

例えば、最近ではデフリンピック(聴覚障害者のための国際スポーツ大会)で柔道の試合を体感できるプロジェクトに関わりました。単に「ブザーが鳴った」という情報を伝えるためだけのデバイスではなく、選手の足音や畳に倒れ込んだ時の衝撃をリアルに伝え、試合そのものをエンターテインメントとして楽しんでもらうことを重視しました。

ただの情報伝達なら他の手段でもいい。でも、私たちの技術を使うからには、健常者も障害者も関係なく、その場にいる全員がワクワクするような体験を提供したいです。

触覚が「当たり前」にある社会を目指して

――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。

直近では、10月に公開したばかりのBtoB向けシステム『HapVibeCast(ハップバイブキャスト)』に注力しています。これまではデバイス単体の販売が中心でしたが、今後はより導入しやすいシステム全体として価値を提供していきたいと考えています。

XR(VR/AR)業界の発展に伴い、触覚の重要性は少しずつ認知され始めていますが、それ以外の分野ではまだニーズが顕在化していません。だからこそ、こちらからアプローチして、触覚演出がライブやイベントのスタンダードになるよう働きかけていきたいです。

ユニコーン企業を目指すというよりは、この触覚技術をビジネスとして着実に回し、継続可能なものにすること。そして、将来的にあらゆるイベントで私たちの技術が使われるようになる。そんな会社を目指して、これからも模索と挑戦を続けていきます。

常に考え続けることが、日常

――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。

特別な趣味があるわけではなく、ゲームやアニメを楽しむ程度です。

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