受け継いだ技術を未来へつなぐ――現場シルクスクリーン印刷を守り続ける原プロアートの挑戦
原プロアート株式会社 代表取締役 谷口 修嗣氏
原プロアート株式会社は、現場で直接印刷を行う「シルクスクリーン印刷」の技術を守り続ける印刷会社です。シルクスクリーン印刷は長年にわたり多くのサインや装飾、製品デザインを支えてきた技術ですが、近年はデジタル印刷やインクジェットなど新しい技術の普及により、業界の構造も大きく変化しています。本記事では、代表の谷口修嗣氏に、印刷の現場で培った経験や仕事への想い、そして今後の展望などについて伺いました。
壁やガラスに直接印刷する「現場シルクスクリーン印刷」が強み
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
当社では、シルクスクリーン印刷を中心に事業を行っています。工場で印刷する仕事もありますが、なかでも得意としているのは、現場で直接印刷を行う「現場シルクスクリーン印刷」です。
例えば当社では、公共施設やホテル、店舗などの壁やガラスなど、持ち運ぶことができない場所に版やインクなどの道具を持って直接お伺いし、印刷を行うことができます。当社自体は愛知県名古屋市にありますが、現場シルクスクリーン印刷については日本全国どこでも対応することが可能です。実際に遠方からのご依頼も多く、地域を問わず施工を行なっています。お客様は企業が中心で、ホテルやレストラン、アパレル関連などの企業からよくご依頼をいただいています。最近では個人のお客様からのご相談も増えており、店舗改装やオリジナルグッズなど幅広いご依頼に対応しています。
また、当社では印刷体験イベントでシルクスクリーン印刷の魅力を伝える活動も行っています。年に数回ほど、イベント会場や小学校などで、来場者の方や子どもたちに実際に印刷を体験してもらう企画です。こちらで用意したデザインを使って、トートバッグなどに印刷をしていただいています。こうした体験イベントでは、実際に来場者自身が印刷作業を行うことで、普段なかなか触れることのないシルクスクリーン印刷の仕組みや面白さを体感していただけます。
――御社の強みはどのような点にありますか。
シルクスクリーン印刷自体を扱う会社はいくつか存在していますが、現場で印刷ができる会社はそれほど多くありません。現場で直接印刷ができるという点は、当社の強みだと思っています。
また、当社ではTシャツやトートバッグなどのアパレル関連の印刷も行っています。さらに大型プリンターを使ったインクジェットサインの制作なども手掛けており、ロール状のシートに印刷したものを板や壁に貼る形のサイン制作も可能です。
シルクスクリーン印刷とインクジェット出力を組み合わせながら、現場の状況に合わせた最適な方法を提案しています。
23年間勤めた会社の廃業を機に、事業を引き継いで独立
――経営者になられた経緯を教えてください。
もともとは、会社員としてシルクスクリーン印刷の会社に勤めていたんです。入社してから23年間、その会社で働いており、印刷だけでなく、製版やデザイン、営業など、さまざまな部署を経験させていただきました。最終的には営業を担当していましたが、ほぼすべての業務を経験したと思います。
ところが、その会社が後継者不在などの事情で廃業することになりました。当時は社員が20人ほどいましたが、皆それぞれ別の会社へ転職していきました。私はこの仕事が好きでしたし、お客様も多くいらっしゃいましたので、ここで私が仕事を辞めてしまうと、お客様も困ってしまうと思ったんです。そこで、事業を引き継ぐ決意をしました。
――どのようにして事業を引き継いだのでしょうか。
企業買収という形ではなく、残っていた機材や道具など必要なものだけを買い取って事業を引き継ぐ形をとりました。機材の購入には、自分の退職金を充てました。
使える機材は買い取りましたが、処分しなければならない機材のほうが多く、その整理が大変でした。それでもこの仕事を続けていきたいという想いが強かったため、事業をスタートできました。
「この技術を終わらせたくない」――次の世代へつなぐ使命
――業界の変化や課題については、どのように感じていますか。
印刷業界全体で見ると、シルクスクリーン印刷の市場は少しずつ減っていると感じています。最近はTシャツプリントの分野でもインクジェットなど新しい技術や機械が増え、従来の方法から移行しているケースもあります。
ただ、現場で直接印刷を行う必要がある仕事については、機械だけでは対応が難しい部分もあります。そのためこうした分野では、シルクスクリーン印刷の技術がまだ必要とされていると思います。
その一方で、最近は若いデザイナーの方でも、シルクスクリーン印刷という技術を知らない人が増えているのも事実です。建物や店舗のデザインをする際、インクジェットやカッティングシートなど別の方法が選ばれることが多いんです。
設計やデザインの段階からシルクスクリーン印刷という選択肢があることを知ってもらえれば、活用される場面も増えていくかもしれません。
――今後の展望を教えてください。
私がこの仕事を引き継いだのも、使命感のような気持ちがあったからです。この仕事が好きという気持ちもありますし、なくしてはいけない技術だと感じていました。
将来的には、次の世代にこの仕事を引き継いでいきたいと思っています。本当にこの仕事が好きな方にバトンタッチして、若い人たちにも関わってもらいながら続けていきたいですね。
シルクスクリーン印刷は、これまで長く続いてきた技術です。頻繁にデザインを変更するようなケースよりも、一度施工したら長く使い続けるようなサインや表示などに適しています。私はこの技術をこのまま終わらせてしまうのではなく、できるだけ長く続けていきたいと思っています。