言葉にしにくい想いを、気配で届ける――OQTAが挑む新しい非言語コミュニケーション

合同会社inoree 共同創業者 高橋 淨久氏

離れて暮らす家族や大切な人に、気持ちはあるのに連絡するほどではない。そんな場面は少なくありません。とくに親子や家族の関係では、言葉にするとかえって重くなったり、用件がないと連絡しづらかったりすることがあります。
合同会社inoreeが手がけるOQTAは、そうした“伝えづらさ”に対して、言葉ではなく気配を届けるという発想で生まれた、あたらしい非言語コミュニケーションです。本記事では、共同創業者の高橋淨久氏に、その背景にある思想と、第2創業として進める現在地、そして今後の展望について伺いました。

言葉を使わないコミュニケーションの価値

――現在の事業内容について教えてください。

当社の主な事業は、「OQTA  ハートポッポ」という鳩時計型IoTデバイスを通じたコミュニケーションサービスの提供です。一見すると鳩時計のように見えるのですが、時刻で鳴るものではありません。誰かが誰かを思ったときに、その想いを遠くにある鳩時計に届けることができる仕組みです。

スマートフォンのアプリをタップすると、ネットにつながった離れた場所にある鳩時計が鳴ります。それだけのシンプルな仕組みですが、「今、誰かが自分のことを思ってくれた」ということだけが伝わる。それを目的としたコミュニケーションツールです。用件を伝えるための道具というより、伝達以上、連絡未満の気配を届けるための仕組みです。とくに親子や家族の関係では、言葉よりも、こうした曖昧でやわらかい接点のほうが自然に届くことがあります。

例えば、実家で一人暮らしをしている母にこの鳩時計を置き、思い出したときに鳴らす。すると母は「今、子供が思ってくれたんだな」と感じる。そこには言葉も用件もありませんが、確かなつながりが生まれます。

――既存のコミュニケーションツールとの違いは何でしょうか。

電話やLINEなど従来のツールは、発信者の用件や意図が前提にあります。しかしOQTA ハートポッポは、通知はあっても意味を送りません。だからこそ、受け手が自由に解釈できる余白があります。私たちが目指しているのは、情報を正確に伝えることよりも、言葉にならない想いや気配をけることです。

この「余白」が重要です。誰が鳴らしたのかもあえて分からない仕様にしています。長く使う中で「あの子は鳴らすのに、この子は鳴らさない」といった比較が生まれないようにするためです。想像する余地を残すことで、より自然で温かい関係性が続くと考えています。

失敗から見出した「第2創業」の方向性

――御社の立ち位置について教えてください。

現在は第2創業期にあります。実は第1創業期では、このプロダクトをIoT家電として広く販売しようとしていました。しかし、機能や利便性で比較される売り方の中では、このプロダクトの本質が伝わりにくかったのです。

ユーザーには喜ばれても、「これは何なのか」を販売の場で説明しきるコストが高く、家電として流通させることに限界を感じました。

そこで現在は、機能を売るのではなく、家族の関係性を支える文化としてこのプロダクトを捉え直しています。IoT家電として広く売るのではなく、言葉にしにくい想いが届く仕組みとして再定義したのが、第2創業です。一般販売を急いでいないのも、その思想や届け方をきちんと整えている途中だからです。

――販売方法も変化しているのでしょうか。

はい。現在は店舗やECでの一般販売は行っておらず、お問い合わせいただいた方に対して届ける形を取っています。まだ第2創業の途上にあり、広く売ることよりも、価値をきちんと受け取ってくださる方に丁寧に届けたいと考えています。

価格は1台3万3000円で、最大8人まで接続可能です。家族や孫など複数人で一つの鳩時計を共有し、ギフトとして贈られるケースが多いですね。私たちの感覚としては「販売する」というより、「お迎えいただく」という表現のほうが近いかもしれません。

VR開発から生まれた発想の転換

――創業のきっかけについて教えてください。

もともとはVRのプロダクト開発を行っていました。360度カメラで相手の空間を覗けるような仕組みを作っていたのですが、プライバシーの問題などで難しさがありました。

その中で、「シャッター音だけが鳴る」状態に対して、受け手が「思い出してくれたことが嬉しい」と感じたという出来事がありました。ここに大きなヒントがありました。

映像がなくても、想像だけで人は喜ぶ。この現象に衝撃を受け、「何も見えないこと」に価値があるのではないかと考えたのです。そこから試行錯誤を重ね、現在の鳩時計にたどり着きました。

“推し”が支える新しい組織のかたち

――現在の組織体制について教えてください。

第2創業期は私一人でスタートしましたが、現在は過去のメンバーや新たな協力者が集まり、5〜6名のコアメンバーと約10名程度のファンが関わっています。

特徴的なのは、彼らが報酬目的ではなく、自発的に関わっている点です。有給を取って展示会を手伝ったり、自費で海外イベントに参加したりする人もいます。

いわば「推し」に近い熱量で成り立っている組織です。共感を起点に、自発的に時間や力を持ち寄ってくれる人たちが少しずつ集まってきました。実際、この2年間も、週に1時間ほどの余剰を持ち寄りながらオンラインで情報共有を重ね、プロジェクトを進めてきました。従来の企業組織とは異なる、一緒に文化を育てる仲間のあり方を模索している段階です。

エモーションテクノロジーで世界へ

――今後の展望について教えてください。

目指しているのは、「嫌な気分になる人がいないコミュニケーション」の実現です。現代のSNSは、不安や怒りを増幅させる構造が多く、人の心を消耗させる側面があります。

それに対して、鳩時計は押す人も受け取る人も、そしてそれを見ている人も温かい気持ちになる仕組みです。こうした「エモーションテクノロジー」を世界に広げていきたいと考えています。

これまでに、OQTAを通じて鳩が鳴いた回数は累計187万回を超えています。大きな声で広げるというより、必要としてくださる方の間で、静かに使われ続けてきた結果です。

また、海外ではOQTAを「祈りの時計」として紹介することもあります。ここでいう祈りは、神仏や亡くなった人に向けるものだけではありません。私たちが扱いたいのは、生きている誰かを思う気持ちです。そうした祈りをテクノロジーを通じて扱おうとしている点に、海外でも強い反応がありました。アメリカのSXSWでも500人以上の来場がありました。

余白と祈りが生む創造性

――休日の過ごし方について教えてください。

大学時代は落語研究会に所属しており、「情報の引き算」に強い関心があります。落語の小道具は扇子と手ぬぐいだけ。最小限の情報で観客の想像力を引き出すメディアです。

また、仏教にも関心があり、得度の経験もあります。「祈る」という行為の奥深さに魅力を感じており、史跡巡りやお墓参りを通じて学びを深めています。

これらの体験は、OQTAが大切にしている「情報を足すより、引くことで届くものがある」という思想とも深くつながっています。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

OQTAは、言葉にならない想いを、気配としてそっと届けるための仕組みです。

こうした価値観に共感し、一緒に文化を育てていきたいと思ってくれる仲間が少しずつ集まってきています。家族の新しいコミュニケーションのかたちとして、これからも丁寧に育てていきたいと思っています。

仏教には「小欲を大欲にする」という言葉があります。個人の欲を社会全体の喜びへと広げていく。その視点を持つことで、事業の捉え方が変わってきます。

これから起業する方や経営者の方には、ぜひ「自分は何のためにこれをやるのか」という問いを持ってほしいと思います。そうした“使命感”があることで、ぶれずに進み続けることができるはずです。

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