水で未来をつくる――TerraInsightが挑む水資源リスク管理と社会実装
株式会社TerraInsight 代表取締役CEO 今井 義仁氏
気候変動の影響により、洪水や渇水など水を取り巻く課題は世界規模で深刻化しています。そうした中、株式会社TerraInsightは、京都大学防災研究所で長年培われてきた水循環シミュレーション技術を社会実装し、水資源に関する課題解決に取り組むスタートアップです。2024年10月に設立された同社は、「水で未来をつくる会社」をコンセプトに掲げ、自治体や地域と連携しながら実証を重ねています。今回は代表取締役CEOの今井義仁氏に、事業への想いや経営哲学、今後の展望について伺いました。
30年以上培われた技術を社会へ届ける
――現在取り組まれている事業の特徴について教えてください。
当社は京都大学防災研究所発のスタートアップです。防災研究所で30年以上にわたり国内外で適用実績を積み重ねてきた水循環シミュレーション技術を、土木分野だけではなく、さまざまな分野で活用していただけるよう社会実装を進めています。
2024年10月に設立したばかりで、現在は2期目に入ったところです。まだ広くマーケティングを行う段階ではなく、業種や課題ごとに代表的な成功事例をつくるフェーズにあります。企業や地域の皆様と連携しながら、実績を積み重ねているところです。
――企業理念やビジョンに込めた想いを教えてください。
当社では「水で未来をつくる会社」というコンセプトを掲げています。
近年は気候変動の影響により洪水と渇水の両方が増加し、水の需要と供給のバランスが崩れ始めています。水は気候変動の影響を最も受けやすい自然資源である一方、循環型で持続可能な資源でもあります。適切に利用すれば持続可能な社会に貢献できますが、管理を誤れば災害や事業停止などのリスクにもつながります。
そのため、水資源のリスク管理やレジリエンスの向上を目指し、データに基づいた仕組みづくりを実現することを目標に事業を展開しています。
現場で確かめた技術だけを社会へ届ける
――経営の道に進まれたきっかけを教えてください。
学生時代から、生物多様性や自然環境に関心を持ち、その分野のフィールドワークにも取り組んでいました。その後は研究者の道ではなく、会計事務所を母体とするコンサルティング会社へ進み、事業開発などに携わりました。
そうした経験を重ねる中で、大学発スタートアップに関わる機会をいただき、京都大学防災研究所の技術を社会に広げていく役割を担うことになりました。それが現在の事業につながっています。
――経営判断の軸となっている考え方を教えてください。
私が一貫して大切にしているのは、自分たちが実際に取り組み、「本当に良い」と確信できたものだけを世の中へ届けることです。
コンサルティング時代も、自分たちで試して成果が出たものをお客様へ提供することを心掛けていました。現在も水循環シミュレーションを行う際は、パソコン上で解析するだけではなく、現地へ足を運び、その地域の特性を確認しながら、本当に役立つデータになっているかを検証しています。
当社が活用している技術も、30年にわたり世界各地のさまざまな気候帯で現地検証を重ねてきたものです。実際に自分たちの目で見て、確かめた技術だからこそ、自信を持って社会へ提供できると考えています。
多様な専門性が集まり、社会課題の解決へ挑む
――組織づくりで大切にしていることを教えてください。
現在は役員4名、社員2名の体制ですが、研究者やエンジニアをはじめ、多くの協力者に支えていただいています。
特徴的なのは、この会社のために集まったメンバーではなく、以前から仕事や学生時代を通じて関係のあった仲間が集まっていることです。そのためコミュニケーションが取りやすく、お互いを理解した上で柔軟に動ける組織になっています。
また、研究成果を社会実装するためには、フィールド調査、シミュレーション、アプリケーション開発、プロジェクト管理など、多様な専門分野の連携が欠かせません。専門が異なると考え方や重視するポイントも変わるため、共通言語でコミュニケーションを取り、誰もが気持ちよく働ける環境づくりを意識しています。
――どのような人と一緒に働きたいと考えていますか。
スタートアップでは、一人が複数の役割を担う場面が多くあります。そのため柔軟性や協調性は欠かせません。
一方で、同じタイプの人ばかりでは組織に偏りが生まれてしまいます。研究者だけ、マーケティングだけという組織ではなく、それぞれ異なる個性や専門性を持ちながら、協力し合える人が集まることで、より面白い組織になっていくと考えています。
水資源の未来を見据え、国内外へ挑戦を広げる
――今後取り組みたい挑戦について教えてください。
水を扱う上では、「流域」全体を最適化するという考え方が重要になります。山から海まで、水が流れるエリアには企業、自治体、ダム管理者、そして生活者など、多くの関係者が存在します。
それぞれが連携しながら流域全体をより良くしていくプロジェクトを、今後は国内外へ広げていきたいと考えています。
――現在感じている課題はありますか。
水資源を取り巻く環境は大きく変化しており、水リスクへの関心も高まっています。一方で、日本では水が身近な存在であることから、リスクに対する危機感や投資の考え方は、まだ十分に浸透していないと感じています。
近年は渇水によるダムの貯水率低下や工場の操業停止、節水のため学校のプール利用が制限されるなど、目に見える影響も増えてきました。
今後は、水資源の管理を環境保全だけでなく、経済的なメリットも生み出す形で社会実装し、必要な資金の流れをつくっていくことが重要な課題だと考えています。
自然に触れながら、新たな発想を育む
――休日のリフレッシュ方法を教えてください。
休日は子どもと遊んだり、家族で出かけたりする時間を大切にしています。また、アウトドアも好きなので、キャンプや釣りなど、自然の中で過ごす時間が良いリフレッシュになっています。
仕事でも水や自然と向き合っていますが、休日も自然の中で過ごすことで気持ちを整え、新たな発想や活力につながっています。
水は暮らしや産業を支える身近な存在である一方、これからの社会を考える上で欠かせない資源でもあります。だからこそ、これまで培われてきた技術を生かしながら、地域や企業、自治体など多くの方々と一緒に水の未来を考えていきたいと思っています。流域全体をより良くしていく取り組みを国内外へ広げ、「水で未来をつくる会社」として社会に貢献していきたいです。