「正解」ではなく「問い」から始める――AMARENAが目指す、新しいカルチャーカンパニーのかたち
株式会社AMARENA CEO 上野 弘之氏
株式会社AMARENA(アマレナ)は、映画・広告・イベント・対話の場など、領域を横断しながら新しい文化のあり方を探るカルチャーカンパニーです。メジャーとインディペンデント、エンターテインメントと広告、効率と非効率。異なる領域の境界に立ちながら、新しいコンテンツや事業、文化のあり方を探求しています。今回はCEOの上野弘之氏に、AMARENAならではの強みや会社に込めた思い、経営における価値観について伺いました。
目次
メジャーとインディペンデント、広告とコンテンツの境界に立つ
――現在の事業内容と、御社ならではの強みを教えてください。
カルチャー事業と広告事業の二つを基本としていて、カルチャー事業では、映画やエンターテインメントコンテンツの企画・プロデュースに加え、映画監督、大学講師、ビジネスパーソン、アーティスト、学生など、世代や職業を越えた人々が集まり「問い」を立てるシンポジウムや、カンヌ国際映画祭をビジネスやキャリアの視点から読み解くレビューイベントなどにも取り組んでいます。
僕自身、ROBOTで24年間、広告と映画のプロデュースに携わってきました。大手企業の広告制作からメジャーなエンターテインメント作品まで経験する一方、自らプロデュースした映画では海外との共同制作や国際映画祭にも関わってきました。広告、映画、デジタルと異なる領域で、実際に事業やプロジェクトを動かしてきた経験が、今のAMARENAの土台になっています。
日本のメジャーな作品づくりと、海外を含めた作家主義的な作品づくり。その両方を経験していることは、僕らの特徴ですね。さらに広告の仕事もしてきたので、コンテンツ制作で培った社会を見る視点を、企業の広告やブランディングにも生かせる。商業性と作家性、広告とエンターテインメント、国内と海外。複数の文脈を横断できることと、そこに一貫した思想を持っていることがAMARENAの強みだと思っています。
――新たな事業として、どのようなことに取り組んでいるのでしょうか。
今は、作品をつくるだけでなく、新しい文化や創造のあり方そのものを探求する活動にも取り組んでいます。その一つが「AMARENA Schole(スコーレ)」です。
AIによって「正解」が簡単に手に入る時代になったからこそ、僕は正解そのものより、その前にある「問い」を考える力が重要になると思っているんです。個人も企業も、問いを立てる力や感性からもう一度出発する必要があるのではないか、と。
そこで、Scholeでは、映画や社会の出来事などを起点に、世代や職業の異なる人たちが対話し、そこから生まれた問いを「TOI Collection」として蓄積しています。そこで終わるのではなく、その問いを企業とのプロジェクトや、新しい映画・映像・物語へと発展させていきたいと考えています。
「文化的感受性を育み、創造性が社会のインフラとなる未来」をつくるために独立を選んだ
――会社の理念やビジョンには、どのような思いが込められていますか。
僕らは「文化的感受性を育む」ことをミッションに掲げています。文化的感受性というのは、単に映画やアートに詳しいということではありません。物事をすぐに正解・不正解に分けず、その複雑さを感じ取り、自分なりの視点を持つ力だと思っています。
AIによって答えを出すことがどんどん効率化されるなら、人間にはむしろ、何に心が動くのか、何を美しいと思うのか、何を問いとして持つのかが重要になる。
僕自身、エンターテインメント作品をつくり、企業と消費者を結ぶメッセージを考えてきました。だからこそ、人や社会を単純化せず、そこにある複雑さや美しさを感じられるような場所をつくりたいんです。
――起業に至った経緯を教えてください。
ROBOTで24年間働いた後、デジタルマーケティングスタートアップのTailor Appで1年間、役員を務めました。デジタルという異なるフィールドを経験したかったことに加えて、若い世代の感性に触れ、一緒に仕事をしたいという思いがあったんです。
それまで蓄積してきた知識や経験、スキルを、これから新しくつくられていく社会へどう還元できるか。その答えとして、世代や所属に関係なく人が集まれる場所をつくりたいと思うようになりました。
自分が経営者になりたいというより、「こういう場所が必要なのではないか」という思いが先にあったんですね。それなら独立して、自分たちで場所をつくるのがいいだろうと。自分自身がより自由に、感覚を大切にしながら動きたいという思いもあり、起業に至りました。
効率と非効率、異なる価値観の“間”を大切にする
――経営判断では、何を大切にしていますか。
どちらか一方に偏りすぎないことです。僕らの価値は、大手とインディペンデント、コンテンツと広告といった異なる領域の境界線に立っていることにあると思っています。
たとえば、経済効率が非常に高いからといって、そこだけを追求すると僕ららしさがなくなってしまう。だから、実験的なことと売上につながること、非効率なことと効率的なことを両方やる。僕は、どちらかを選ぶのではなく、両方を捨てないことを大事にしています。
思想や哲学、自分が「美しい」と感じる美意識も重要ですね。根本にあるものが揺らがなければ、いろいろなチャレンジを受け入れられる。単純な効率主義だけでは動かないことは、僕の中でははっきりしています。
――一緒に働く方とのコミュニケーションで意識していることはありますか。
経験や知識の差を必要以上に重視せず、その人自身の感覚を大切にしています。若くても経験が少なくても、その人にしかない感性が会社にとって価値になるからです。
僕は若い人を「育てる対象」だけだとは思っていません。経験は僕の方があるかもしれないけれど、今の社会を感じ取る感性では、彼らから教わることがたくさんある。だから世代を越えて、なるべく同じテーブルに座りたいんです。
今はまだ新しい価値をつくっている段階なので、予定調和にならないことが大事なんですよね。年齢やキャリアによるバイアスをできるだけなくし、簡単に答えを出そうとせず、自分なりの感覚を持ちながら、混沌と向き合える人と一緒に仕事をしたいと思っています。
実際、世代の異なる3人でポッドキャストも制作しています。価値観が違えば、必ずしも意見が一致するわけではありません。でも、違いを否定せず取り入れていくこと自体が僕ららしさなんです。世代や立場、価値観を超えて人が交わることを、さまざまなプロジェクトで実践しています。
良質なインプットと、自分だけのアウトプットを持つ
――休日やリフレッシュの時間は、どのように過ごしていますか。
本屋に行って本を読んだり、カルチャーイベントへ足を運んだり、好きなアーティストのライブを観たりしています。あとは、自分が考えていることをアウトプットすることも大切にしていますね。
仕事と完全に切り離されているわけではないのですが、良質なインプットと、自分だけのアウトプットを持つことが、自分にとってのトリートメントになっています。
――最後に、AMARENAを今後どのような会社にしていきたいですか。
AMARENAを、単に作品をつくる会社ではなく、人が集まり、問いが生まれ、その問いから新しい作品や事業や文化が生まれていく場所にしたいんです。映画も広告もScholeもポッドキャストも、一見すると別々の活動ですが、僕の中では全部つながっています。その交差点から、まだ名前のついていないカルチャーをつくっていきたいですね。