「お客様に喜びを、つくり手に目一杯の幸せを」日本製のものづくりを未来へつなぐ笏本縫製の挑戦

株式会社笏本縫製 代表取締役 笏本 達宏氏

株式会社笏本縫製は、学生服のボタン付けや穴あけなどの内職加工から始まった縫製企業です。祖母、母、そして笏本氏へと3代にわたって事業を継承してきました。現在は請負の縫製業に加え、自社ブランド「SHAKUNONE」でネクタイやハンカチなどを展開しています。地域に技術と雇用を残しながら、日本製のものづくりを未来へつなごうとする笏本氏に、企業としての強みや大切にしている考え方、これから取り組んでいきたいことなどについて伺いました。

無名の縫製工場から、発信力を強みに

――現在の事業内容について教えてください。

当社は縫製業を中心とする企業です。学生服のボタン付けや穴あけなどの内職加工から始まり、少しずつ仕事の幅を広げてきました。

長年、請負の仕事を続けてきましたが、自社ブランド「SHAKUNONE」を立ち上げたのが約10年前です。現在はネクタイやハンカチなどの小物を自社商品としてお客様に届けています。

――御社ならではの強みは何でしょうか。

強みの1つは発信力だと思っています。以前は、隣近所の方にも「何をつくっているのかわからない」と思われるような小さな縫製工場でした。

まず知っていただかなければ始まらないと考え、SNSでの発信を始めました。約11年間、1日も休まず4,000日以上続けており、その継続が当社の特徴になっていると感じています。

――経営で大切にしている考え方を教えてください。

10年後に残すべきものをきちんと残したいというのが、私の考えです。技術や雇用が地域に根づき、仕事が続く状態をつくることが大切だと考えています。

判断軸は、「お客様に喜びを、つくり手に目一杯の幸せを」です。お客様に価値を提供する一方で、自分たちだけが苦しくなる選択はしたくありません。私たち自身や取引先、職人、家族が、当たり前の日常を送れる環境を大切にしています。

「継がない」から「残したい」へ変わった転機

――家業を継ぐことになったきっかけを教えてください。

もともと、家業を継ぐつもりは全くありませんでした。高校卒業後は美容師になり、仕事も楽しく、やりたいと思った道を歩んでいました。また、家業の経営状態は厳しく、自分まで入ることで状況がさらに苦しくなるのではないかという思いもあったのです。

しかし、母に病気が見つかったことをきっかけに、「この家業を本当になくしていいのだろうか」と考えるようになりました。

なくすことは簡単です。ただ、残すべきものではないか、残していけるのは誰なのかと考え、家業に入る決断をしました。

――3代目として変えたことはありますか。

先代までは請負の仕事が中心で、価格や納期などを自分たちだけでは決めにくい場面も少なくありませんでした。そこで私の代では、自社ブランドを立ち上げ、自分たちの商品を自分たちで世のなかに届ける道を選びました。

ただ、私1人で今の形をつくったとは考えていません。先代、先々代が積み上げてきた土台があり、それをもとに新しいものを建てているという感覚です。

品質を守る厳しさと、人を大切にする関係づくり

――社内のコミュニケーションで大切にしていることは何ですか。

私は、積極的にコミュニケーションを取るタイプではありません。その分、やるときにはやる、笑うときには笑うというメリハリを意識しています。

ものづくりでは、品質は嘘をつかないと考えていますが、実際にものをつくるのは人です。仕事の厳しさと、人との関わりの両方を大切にしたいと考えています。

――今後の採用について、どのように考えていますか。

今は採用を大きく進める段階ではなく、現在のメンバーで体制を整えることが優先です。当社はコロナ禍を経て、ようやく少し上向いてきた段階にあります。

まずは今いる人員で最高のパフォーマンスを出せる環境をつくり、その先の採用につなげたいです。一緒に働くのであれば、同じ方向を向いて進んでいける方が大切だと考えています。

日本製を「意思を持って残す」ための挑戦

――これから取り組んでいきたいことを教えてください。

まずは、自分たちの商品が持つ魅力をもっと伝えていきたいです。ものづくりは50年以上続けてきたことなので、さらに力を入れたいと考えています。

もう1つ、力を入れているのが「日本製の覚悟店」です。海外製へ仕事が流れ、日本国内の職人やものづくりの仕事が減るなかでも、日本製を守りたいと踏ん張っている方々は少なくありません。

そうした小さな企業やつくり手が集まり、小さな力を大きな力にしたいと思っています。SNSなのか、リアルなイベントなのか、あるいは情報共有の場になるのか、その形はまだわかりません。覚悟を持つ仲間と、自分たちの意思で日本製を残していく動きをつくっていきたいです。

――新しいものづくりで印象に残っている出来事はありますか。

息子の退院時に使うため、ダブルガーゼの生地で「おくるみ」をつくりました。Xで紹介するとお客様から反応があり、商品として販売することになったのです。最初の300枚は1晩で完売し、その後は1,500枚が約2時間、3,000枚が約30分で売り切れました。さらに受注販売では、3日間で1万5,000〜1万6,000枚ほどのご注文をいただいています。

一方で、注文が急増すると生産体制も大きく変わり、「もっと準備できたのではないか」「もっとうまくできたのではないか」という反省もありました。新しいものづくりに挑戦しながら、自分たちの得意分野をどこまで尖らせ、活かせるかを考え続けています。

書くことを原点に、自分の言葉で伝え続ける

――SNSで発信を始めたきっかけを教えてください。

私はもともと書くことが好きで、よくメモを取るタイプでした。Xを始めたのは、コロナ禍で仕事がなくなり、「何をしよう」と考えたことがきっかけです。

それ以前からmixi、Facebook、Instagram、noteなども使ってきましたし、最近はYouTubeも始めています。当時は本当にお金がなかったので、お金をかけずにできることはすべてやろうという気持ちでした。現在も、自分の思いを1つずつ、きちんと発信しようと考えています。

――最後に、記事を読む方へ伝えたいことを教えてください。

商売ですから、知っていただいたことをきっかけに商品を買っていただければ、もちろん嬉しいです。それが社員の雇用を守り、当社の環境を整えることにもつながります。

ただ、まずは当社を知り、選択肢に入れていただけることが本当にありがたいです。知られていなければ、存在していないのと同じだと思っています。

「少しいいものを買おう」「誰かに贈ろう」「自分の一張羅を身につけよう」と思ったときに、当社の商品だけでなく、日本製という選択肢にもほんの少し意識を向けていただけたら嬉しいです。

そして私たちは、これからも真面目にコツコツとものづくりを続けながら、日本製を未来へ残すためにできることを積み重ねていきたいと考えています。

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