「働き方を選べる」を当たり前に――ワークセルが挑む、SES業界の新しい仕組み

株式会社ワークセル 代表取締役 奥村 達郎氏

2026年6月10日に創業した株式会社ワークセル。SES業界で人事として多くのエンジニアの採用や転職に携わってきた奥村達郎氏が立ち上げた会社です。正社員で働き続けることだけを前提とせず、一人ひとりが自身の価値観やライフステージに合わせて働き方を選択できる「セル」の仕組みを掲げています。芸能活動、エンジニア、人事という異なる経験を経てきた奥村氏に、創業の背景や事業への思い、これから目指す姿について伺いました。

芸能、IT、人事――異色の経験を経て創業

――これまでの経歴と、ワークセルを創業した経緯を教えてください。

20代前半は芸能関係の仕事をしていて、歌手としてメジャーデビューも経験しました。5年ほど活動しましたが、収入が安定している世界ではなかったため、契約を更新せずに辞め、その後IT業界へ入りました。

約8年前にエンジニアとしてSES業界に入り、2年半ほど客先常駐の仕事を経験しています。その後、当時の会社の役員から声をかけてもらい、2020年4月から人事へ異動しました。そこから5年ほど人事を担当し、60名弱だった会社を約2倍の規模まで成長させる経験もしています。

その後、現在の会社に入社し、SESの人事を続けながら、芸能活動の経験を生かしてボイストレーニング事業も立ち上げました。そして、現在の会社の代表と共同出資という形でワークセルを設立しました。

――なぜ新しい会社を立ち上げようと考えたのでしょうか。

人事として何百人ものエンジニアの採用に携わる中で、転職に失敗したり、早期離職を繰り返したりする人をたくさん見てきました。給与が上がったと思って入社しても、実際には聞いていた条件と違ったり、会社自体がなくなったりするケースもあります。

そうした業界の現状を見て、このままではよくないと思ったことが創業の背景です。エンジニアが自分の働き方を選びながら、長くキャリアを築いていける仕組みをつくりたいと考えました。

「ワークセル」が提案する、3つの働き方

――ワークセルの名前には、どのような意味が込められていますか。

「ワーク」と「セルフセレクト」という考え方を掛け合わせて、ワークセルという名前にしました。「セル」は最小単位を意味する「CELL」です。一人ひとりが自分自身の働き方を選択するという思いを込めています。

――具体的には、どのような働き方を選べるのでしょうか。

大きく3つのセルから選べる仕組みです。正社員で70%還元、契約社員で80%還元、独立して業務委託になると90%還元という形を基本にしています。細かなルールはありますが、原則としてセルの行き来ができることが特徴です。

例えば、フリーランスに興味はあるものの、まだ自信がない人なら80%のセルに挑戦する。結婚や出産、介護などライフステージが変わったときや、住宅ローンなどで正社員の肩書きが必要になった場合には70%へ戻る。反対に、準備ができたら90%へ進むこともできます。

一般的には正社員からフリーランスになる際に退職する必要がありますが、ワークセルでは、会社との関係を維持しながらセルを移動できる。この柔軟さが、一番の特徴だと考えています。

エンジニア自身の「市場価値」を高めるために

――一緒に働きたいのは、どのような人でしょうか。

貪欲な人ですね。自分自身の価値をどうやって上げていくかということに、貪欲であってほしいと思っています。

私自身、スポーツをずっとやってきて、その後に芸能界も経験しました。どちらも自分で何とかしなければならない世界だったので、サラリーマンになったときには、良くも悪くも仕事との向き合い方の違いを感じました。

ワークセルは、プロスポーツ選手のような実力主義、プロ志向の雰囲気をつくりたいと考えています。営業も社員として採用するのではなく、業務委託でプロの営業に依頼しています。自分で仕事を取りに行き、自分の価値を高めていく。そうした姿勢を大切にしたいです。

――社員や所属するエンジニアの成長に向けて、どのようなことに取り組みたいですか。

技術そのものを私が教えるというより、社会人やビジネスマンとしての「戦闘力」を高めたいと考えています。例えば税金の仕組みや、お客様から仕事をもらうための対応など、いわゆるソフトスキルの部分です。

特に90%還元の業務委託を目指すのであれば、お金の知識も必要です。フリーランスになったものの、税金や確定申告、経費などが分からずに苦労する人もいます。そうした部分まで支援しながら、エンジニア自身が自立して働ける力を身につけてほしいと思っています。

「謙虚さ」を忘れず、これからの会社をつくる

――創業間もない中で、現在感じている課題は何でしょうか。

まず採用ですね。これまでにない働き方を打ち出しているため、大手求人媒体で求人を出す際にも、この仕組みをそのまま掲載できないという課題がありました。まだ日本では正規雇用が前提という考え方が強いのだと感じています。

今年中には、社員だけではなく業務委託も含めて5人ほどまで増やしたいです。今後の課題は、採用に加えてクライアントの開拓。エンジニアを必要としているお客様との接点を増やしていくことも重要だと考えています。

――最後に、経営において大切にしたい思いを教えてください。

「謙虚さ」という軸は、常に大切にしたいですね。芸能界で多くの方とご一緒する中で実感したのは、真に成功し続けている方ほど、驚くほど謙虚であるということです。

ある誰もが知る大御所の方の姿が、今でも強く心に残っています。新人だった私に対して、誰よりも深く丁寧に挨拶をしてくださいました。その一方で、一時的な成功で慢心してしまい、徐々に活躍の場を失っていく方も見てきました。

社長という立場も、単なる役割の一つに過ぎません。組織が成長しても、相手の立場に関わらず誠実で謙虚であり続けること。その姿勢こそが、経営においても最も不可欠だと考えています。

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