「ニッチな領域」と「掛け算」で事業を伸ばす日本トロマツ株式会社――独自の強みを磨き、最適なパートナーと挑む経営
日本トロマツ株式会社 代表取締役 金原 巧治氏
日本トロマツ株式会社は、市場の中にある「誰も気づいていないニッチな領域」に着目し、そこに自社の強みを掛け合わせて事業を展開する会社です。独自の経営観を持つ代表の金原氏は、現在取り組む事業についても、単純に成長市場へ参入するという発想ではなく、競合が少なく、まだ十分に開拓されていない領域に可能性を見出しています。本記事では、自身の価値観を軸にした経営について伺いました。
目次
独自技術を起点に、ヘルスケアから可能性を広げる
――現在取り組まれている事業の特徴や強みについて教えてください。
現在は、独自の電子技術を活用したヘルスケア領域の事業に取り組んでいます。もともとの技術に権利があり、同じ技術を持つ競合が存在しないことが大きな特徴です。また、応用範囲が広く、一つの製品だけではなく、さまざまな形に展開できる可能性があります。
現在はバイオ電子技術を活用した化学的な歯ブラシの展開に取り組んでいますが、従来のようにモーターの動力で磨く電動式とは全く異なるアプローチです。コアな技術そのものを生かして、今後さらにさまざまな製品や用途へ展開していけると考えています。
――なぜヘルスケアという領域を選ばれたのでしょうか。
ゼロスタートで事業を始める場合、すでに大手企業が存在するBtoBの領域よりも、消費者向けの新商品をつくったほうが参入しやすいと考えたからです。ヘルスケアは差別化の方法も多く、技術を生かした商品をつくる余地があります。
例えば口の中は温度や湿度があり、細菌が増えやすい環境です。そうした身近な課題に独自の技術を応用できることから、まずはヘルスケアや身体に関わる領域から始めています。将来的には医療や食品衛生、産業衛生など、細菌の管理が重要になる分野にも可能性があると考えています。
「隙間」を見つけ、ないものを形にする
――これまでのキャリアと、現在の経営につながっている経験を教えてください。
新卒で会社に入り、20代の頃は経営部門で仕事をしてきました。事業モデルや会社の仕組み、財務、取引先の与信管理など、マーケットを俯瞰的に見る立場だったので、さまざまな会社がどのように成り立っているのかを知ることができました。
その後、自分で会社を立ち上げ、健康関連のメーカーを16年間経営してきたんです。数値管理についても、単に数字を見るというより、会社の事業やビジネスモデルを映し出す「レントゲン」のようなものだと考えています。数字を見れば、会社がどういう構造になっているか推測できる。そうした経験も現在の経営に生きています。
――事業を考える際に大切にしていることは何でしょうか。
すでにあるものを右から左へ動かすよりも、今までなかったものを新しくつくることが好きです。だからこそ、すでに大手企業が押さえているような領域を後追いするのではなく「まだ誰もやっていないところはないか」と考えます。
誰もやっていない理由は、マーケットがないからかもしれませんし、単純に面倒だからかもしれません。あるいは、あまりに規模が小さくて大手企業が相手にしていないだけかもしれない。そうした隙間の中にも、後から大きく伸びる可能性があると思っています。
流行りを追うのではなく、中長期的に事業の伸びしろが「どこなのか」まで本質を深く掘り下げる洞察力が大切です。事業投資家として、そこまで考えなければ、なかなか差別化はできません。
会社を大きくするより、強みを生かす「掛け算」
――組織や事業を大きくしていく上で、どのような考え方を持っていますか。
自分たちだけで全部をやろうとは考えていません。むしろ、どこと組むかの方を重視しています。
例えば、1万店舗を扱っている会社が商品を導入してくれれば、一気に1万店舗分の力がかかります。一方で、5店舗なら5店舗分です。だからこそ、自分たちの努力以上に、どのような会社とどう組むかが非常に重要です。
必ずしも会社の母体を無理に大きくする必要はないと思っています。自分たちのコアとなる部分をしっかり磨いて、それを最大限に生かしてくれる相手としっかり取り組む。相手の持っているリソースや資金、販売力などと自社の強みを掛け合わせることで、事業を大きく発展させていくことが可能です。
――人材や組織について、今後取り組みたいことはありますか。
人材や組織そのものを事業の軸や基盤にすることは一切考えていません。
事業を展開する上で、単純に人員や会社の規模を追うのではなく、それぞれの強みを生かして組み合わせることを大切にしています。自分たちの強みを明確にした上で、その価値を最大限に引き出せる相手と組むことが何より重要です。
売上目標より「どこと組むか」を重視する
――今後の展望について教えてください。
売上をいくらにするという定量的な目標は、現時点ではあまり考えていません。それよりも、どこと組めるかということのほうが重要です。
マーケットには十分に可能性がありますし、やり方次第でいくらでも伸ばせると思っています。技術そのものの応用範囲も広いので、ヘルスケアに限らず、今後さまざまな可能性を考えていきたいです。
例えば、医療の現場や食品衛生、産業衛生など、細菌の管理が必要な分野には山ほど可能性があります。まずは現在取り組んでいる領域で技術や商品の価値をしっかり磨き、その上で最適な相手と組みながら展開していきたいと考えています。
「チャンス」をつかむために、自分自身の軸を持つ
――経営の中で、これだけは譲れないという価値観を教えてください。
やはり「納得感」です。取引先についても、ある程度納得して、リスペクトできる相手と仕事をしていきたいと思っています。
もう一つは、自分自身の軸を持つことです。仕事をしていると、予想していなかった経営者と出会ったり、思いがけない話が来たりします。そうした「たまたま」の出来事が、事業につながることが多々あります。
ただ、そのチャンスをつかむためには、自分の価値基準が必要です。良い話が来ても、それが自分にとって良い話なのか、そうではないのかを瞬時に判断できなければ、機会を得ることができません。
自分の強み、自分がどういう人間なのかをしっかり理解していれば、「ここは手を出さない」「ここは勝負したほうがいい」と判断できます。勝負すべきタイミングで、迷わず踏み込むことも必要です。
創業当初、良いと思って大量につくった商品がまったく売れず、何万個もの在庫を1年間抱えた経験もありました。でも、そこで終わりではなく、なぜ売れなかったのかを考えれば、商品が悪かったのではなく、最適な販売ルートがなかったことが原因だと分かりました。最終的にその何倍も売り切りましたが、失敗すること以上に、その経験をどう捉えるか。また、そこからどう立ち上がるかが何より大事だと思います。
良いものをつくるだけでは足りない。必要な条件を一つずつ整え、最後は自分自身の軸で判断する。その積み重ねを大切にしながら、これからも「まだ誰もやっていないこと」に果敢に挑戦していきたいと思います。