現場産業を持続可能にする――人材とテクノロジーで社会課題の解決を目指す
X Mile株式会社 代表取締役 CEO 野呂 寛之氏
X Mile株式会社は、令和元年の創業以来、現場産業に特化した転職支援サービスを展開してきました。累計会員数は120万人を超え、3万事業所に活用されています。人手不足が深刻化する物流や建設、製造などの現場産業を持続可能なものにするため、さまざまな課題に向き合う野呂氏に、創業の背景や経営で大切にしていること、今後の展望などについて伺いました。
社会の「不」を事業の力でプラスに変える
――現在の事業内容について教えてください。
当社は、物流・建設・製造などの現場産業に特化した採用支援サービス「クロスワーク」を運営しています。初期・月額費用はかからず、無料で求人掲載が可能なサービスです。現在、転職希望の現場従事者を中心に累計会員数は120万人を超え、3万事業所に活用いただいている状況です。
トラックやタクシーのドライバーをはじめ、現場産業には資格を持つ人材が必要な仕事が数多くあります。一方で、高齢化が進み、若い担い手が不足しているのが現状です。
当社のプラットフォームでは、主に20代から40代の人材と、人手不足に悩む企業をマッチングしています。
また、人材領域だけでなく、業務効率化のためのソフトウェア「ロジポケ」等の開発・提供などにも取り組んでいます。現場産業が抱える課題を幅広い方法で解決していくことが、当社の事業の特徴です。
――事業を通じて、どのような社会を目指していますか。
当社が向き合っている現場産業は、生活に欠かせないインフラです。一方で、消費者が直接触れる機会が少ないため、医療や介護などと比べると、その課題にスポットライトが当たりにくいと感じています。
私は、現場で働く方々がより活躍できる環境をつくりたいと考えています。給与を上げることや働き方を良くすることに加え、労働力そのものを確保することも必要です。
人手不足が続けば、産業自体の維持が難しくなりかねません。だからこそ、現場産業を持続可能な状態にしていくことが、当社の果たすべき役割だと捉えています。
原点は、社会のマイナスをプラスに変えること
――社会課題に関心を持ったきっかけを教えてください。
私の実家が医療や介護、地域医療などに関わっていたこともあり、以前から社会の課題を解決する仕事に関心がありました。
世のなかをより便利にするサービスにも魅力はありますが、私は社会に存在する「不」やマイナスをプラスに変えていくことに、より大きなやりがいを感じていたのだと思います。
学生時代から環境ビジネスなどにも興味があり、EVメーカーであるTerra Motorsベトナム支社での事業立ち上げに関わり、ベトナム・カンボジアでEV2輪・3輪の事業にも携わりました。その後は、フィンテック企業のPaymeに2人目の社員として入社し、取締役COOを担いました。そうしたスタートアップでの経験を経て、2019年2月に現在の企業であるクロスマイルを起業しました。
――経営判断で大切にしていることは何ですか。
最も重視しているのが、現場主義です。組織の規模が600人を超えた現在も、私はお客様と直接話す機会を設けています。食事をご一緒しながら業界の状況を細かく聞き、どのような課題があるのかを把握することも少なくありません。
また、現場の情報を得た上で、スピーディーに経営判断することも重要です。
最後に、事業を行う上では社会的な意義があるか、そもそも当社が取り組む必要があるのかという点も大切にしています。
現場主義、スピード、社会的な意義の3点は、経営において常に意識している軸になります。
組織が大きくなっても、社員との距離を遠ざけない
――これまでの組織づくりで、特に苦労したことは何ですか。
特に印象に残っているのが、「30人の壁」です。社員が30人ほどだった時期に、毎月数人が入社する一方で数人が退職し、半年ほど組織を純増させられない状況が続きました。
当時は、経営者と現場のメンバーの間をつなぐ層が十分ではありませんでした。そのため、経営側と社員の間で視座の違いが生まれやすい状態だったと思います。
そこで、管理職経験のある人材を外部から採用するとともに、成長意欲の高い若手にも役割を任せ、ミドル層をつくっていきました。組織が成長するためには、経営と現場をつなぐ存在が必要だと実感した経験です。
――社員とのコミュニケーションで意識していることを教えてください。
私は、活躍している社員や役職者とは特に密にコミュニケーションを取るようにしています。週に2、3回ほど社内で会食する機会があり、社員との食事や役職者との関係構築にも時間を使っているところです。
また、毎週、私が考えていることや社内で起きたことをSlackで全社に発信しています。毎月の全体定例に加え、半年に1回は全社員が集まる全社総会も開催しており、当社の将来のビジョンを共有したり、活躍した社員を称賛したりする場を設けています。
報酬や働き方を良くすることは大前提ですが、それだけでは十分ではありません。当社がどこを目指しているのか、なぜその仕事に取り組むのかのビジョンを伝えることも大切です。組織が大きくなっても、社員と直接向き合う姿勢は持ち続けたいと思っています。
採用とAIへの挑戦で、現場産業の未来をつくる
――今後の成長に向けて、力を入れていることは何ですか。
1つは自社の採用活動です。私は、代表自身が採用にコミットすることが重要だと考えています。自らスカウトを送ることもありますし、いつか一緒に働きたいと思うような優秀な方がいれば食事に行くなど、日常的なネットワーキングも欠かしていません。
毎週10人以上と面談することもあり、初回面談や最終段階のクロージングにも入っています。人手不足の日本では、優秀な人材を採用するために、当社の魅力や代表自身の思いを直接伝えることが重要です。
当社の知名度を上げるため、テレビの取材を受けたり、SNSで発信したりもしています。最初から手段を限定せず、さまざまな方法を試す姿勢を重視しています。
――テクノロジーの活用について、どのように考えていますか。
現在はAIに関するビジョンも考えており、バーティカルAIのプロジェクトを立ち上げるなど、改革を進めています。
現場産業では、AIがまだ十分に浸透していません。その分、活用できる余地は大きいと見ています。当社のビジネスモデルについても、AIを取り入れることで、原価や利益の構造そのものが変わる可能性があります。
世の中が急速に変化しているなかで、経営戦略も変化にあわせていかなければなりません。まず試し、そこから次の可能性を探っていくことを重視しています。
――これから、どのような企業をつくっていきたいですか。
当社はまだ創業から7年程度の企業です。だからこそ、ベンチャースピリットを忘れず、常に世の中に対して新しい価値を追い求めていきたいと考えています。
お客様や業界に、より高い価値を提供するには、スピード感を持ってやり切ることが必要です。それが当社の成長だけでなく、顧客価値の創出、業界・社会課題の解決、社員の待遇を良くするといった三法よしにつながっていくと思っています。
創業者としての使命は、永続する企業をつくることです。現場産業を持続可能な状態にし、事業を通じて日本経済の活性化やスタートアップのエコシステムにも貢献したいと考えています。社会課題を一時的ではなく、永続的に解決できる企業として形にしていくことを目指します。