EV船販売株式会社 代表取締役 工藤清人氏
環境負荷を減らし、次世代へより良い社会を残すために・・今、船舶のEV化が注目を集めています。観光船、警戒船、見廻り船、海上でのゴミ回収船など、幅広い分野で電動船の導入が進みつつあります。今回は、ゼロエミッション社会の実現を目指して挑戦を続ける工藤様に、事業への思いや未来への展望についてお話を伺いました。
EV船で描くゼロエミッション社会
――御社の現在の事業内容と特徴について教えてください。
当社は2017年に創業し、現在9期目を迎えています。主な事業はEV(電動)船舶の開発・販売・管理です。大阪城周遊観光船や東京港の警戒船・見廻り船、川崎市海上のゴミ回収船・鹿児島櫻島湾での自動監視船など、多彩なEV船の導入を進めています。
――企業理念やビジョンについてお聞かせください。
「ゼロエミッション社会の実現」を目標に掲げています。ヤマハ発動機でマリン事業に携わった経験から、海洋産業に恩返しをしたい思いも強くあります。
――業界での強みは何ですか。
日本初の「ゼロエミッションマリーナ」を旧堺港に設置し、太陽光発電と蓄電池を活用した非接触型充電システムを導入しました。黎明期から技術開発に挑んできた実績が、当社の大きな強みです。
ヤマハからEV船起業へ:挑戦の原点
――経営者になられた経緯を教えてください。
ヤマハ発動機の定年後母校の旧東京商船大学(現東京海洋大学)より新しいEV船を建造するので参加しないかと話があり3年間研究員を務めました。今後普及を加速させるには会社設立が必要と思い、仲間と共に2017年に設立しました。
――夢や目標は何でしょうか。
「メイドインジャパン」のEV船を世界に広めることです。特にアジア市場は成長が著しく、最終的にはアメリカ市場進出も視野に入れています。船体建造から自動運航まで一貫して担える体制を築きたいと考えています。
――大切にしている価値観は?
「環境に優しい社会を次世代へ繋ぐ」ことです。旧堺港のゼロエミッションマリーナは弊社取締役が約1千数百万円の私財を投じた挑戦で、多くの壁も経験しましたが、その経験が現在の事業の基盤になっています。
少数精鋭が挑むEV船の普及
――社員との関わり方について教えてください。
現在は業務委託社員5名、非常勤役員4名の小規模組織です。営業や開発・企画、輸出入など各自の専門分野を担い、サービス部門は3社と提携し自律的に動ける環境を整えています。現在9名体制ですが今後6名の人材を投入し国内・海外展開を行い、又外部パートナー様とも協力して参ります。大切にしているのは「友人に胸を張って勧められる会社であろう」という姿勢。自分が担当しなくても会社に任せてくれれば間違いない仕事を提供できる。そのために「最低レベルを引き上げ、仕組みとして業務効率をあげ徹底した品質管理ができないか」を常に考えています。
――求める人物像は?
「新しいことに挑む意欲」と「環境問題への意識」です。海外展開を見据え、語学力や異文化理解も重要になります。
――社内文化の特徴は?
役員との距離が近く、風通しの良い文化です。共通の目標に向かって一丸となり、意見を尊重し合える組織を大切にしています。
ハイブリッド技術で切り拓く次のステージ
――今後の事業展開について教えてください。
EV船の弱点である「航続距離とスピード」の課題解決のため、1年半前から日本・台湾企業3社共同でハイブリッド船を開発しています。約6,000万円を投じ、2027年2月にプロトタイプが完成予定です。観光船や水上タクシー・グラスボート・ダイビングボートなど、新たな需要に対応できる技術を確立したいと考えています。
――業界の最新動向は?
北欧では補助金制度によりEV化が進む一方、日本は政策支援やインフラ整備が遅れています。規制強化も事業の壁ですが、国が柔軟な姿勢を示せば成長は加速できると感じています。
――直面する課題と対策は?
最大の課題は資金調達です。投資家との連携を模索しつつ、業界全体で国や行政に働きかけ、インフラや法整備を進める必要があります。
社会貢献と次世代への想い
――経営で大切にしている信条は何ですか。
「諦めないこと」「常に夢を持って邁進する事」と「社会貢献」です。困難な状況でも前を向き、次世代へ知識や経験を繋げたいと考えています。
――リフレッシュ方法を教えてください。
週3回のテニスです。地域スポーツ団体の事務局長&テニス代表を務め、32のサークルを運営するなど、地域活動も私の大切な時間です。
――経営以外で注ぐ情熱は?
未来の若い世代が、より良い地球と産業を受け継げる土台を整えることです。ゼロエミッションの技術と人材を地域から世界へつなぎ、行政・研究機関・企業が協働する“海のエコシステム”を育てていきます。東京・大阪で芽生えた挑戦をアジア、そして世界の水辺へ静かでクリーンな船が当たり前に行き交う日常を、一歩ずつ実現してまいります。