一般財団法人西粟倉むらまるごと研究所 共同代表理事 河野 有吾氏
一般財団法人西粟倉むらまるごと研究所は、「最新テクノロジーは人と地域を幸せにできるのか」をテーマに、岡山県西粟倉村で地域課題の解決に挑んでいます。
人口およそ1,300人の小さな村で、モビリティ事業やデータプラットフォーム構築、むlaboの運営など、多彩な実証実験を通じて“地方からの社会実装”を推進。共同代表理事・河野有吾氏は、「まず動いてみる文化を育てることが、地域の未来をつくる第一歩」と語ります。
テクノロジーと人の営みをつなぐ“むらまるごとの研究所”が描く未来像について伺いました。
地域課題を解決する“実験の場”をつくる
――まずは、法人の概要と事業内容について教えてください。
当法人は2020年に設立された一般財団法人で、もともとは役場職員の企画から生まれました。「最新テクノロジーは人と地域を幸せにできるのか」をテーマに、人口約1,300人の小さな村・西粟倉で、地域課題の解決につながる実証や検証を行っています。
たとえば、村民や企業、大学などと連携しながら、モビリティの実証、データプラットフォームの構築、研究室や調理室、工作室の運営、農業サービスや住宅環境の改善など、多面的に事業を展開しています。
都会ではなく“地方でも叶えられる暮らし”を支援できる法人でありたいと考えています。
中でも柱となるのが、財(=機材や設備)を共有する仕組みです。村民や企業が個人では持てない財を法人が所有し、共同利用できる場を提供しています。たとえばデジタル工作機器を用いた制作や、自然とテクノロジーを融合させた表現活動など、地域から新しい価値が生まれる基盤づくりを目指しています。
移動を“楽しみ”に変えるモビリティ実験
――これまでに特に成果を感じた取り組みを教えてください。
「にしあわくらモビリティセンター」の立ち上げです。 “生きるを楽しむ”という村の掲げる理念をもとに、その中の一要素である“動くを楽しむ”を支援する取り組みです。高齢化が進む中山間地域では、車を運転できなくなることで移動が困難になる方が増えています。そこで、1人乗りの超小型EV「コムス」や2人乗りの「C+pod」を導入し、軽トラックの代替や移住者の試用車として貸し出しを行っています。
自ら運転して移動できる人を支援する一方で、今後は有償移動サービスや福祉バス・スクールバス運行との連携など、「運転せずに移動できる仕組み」も構築していく予定です。
これらを組み合わせることで、誰もが安心して“地域の中で動ける”環境づくりを進めています。
“やってみる”文化が育む挑戦
――組織運営の特徴や、メンバーとの関わり方について教えてください。
現在は8名体制で運営しています。私自身は他地域に在住しながら共同代表を務めており、地元出身のメンバーや地域おこし協力隊員など、多様な立場の人が関わっています。
みなそれぞれスキルや関心が異なりますが、「やってみたい」「必要だと思うことを形にしたい」という思いを尊重する文化を大切にしています。
もともと行政では動きにくい部分、時間がかかる部分を、私たちが「まず動いてみる」ことで後押しする。そんな実践の積み重ねが、地域の信頼や共感につながっているのではないかと思います。
“存在し続ける価値”をつくる
――今後の展望や目指している姿を教えてください。
設立から5年を迎える中で、まずは「法人が存在し続けること」に価値を持たせたいと考えています。一つひとつの事業を実装し、持続的に運営できる形を模索していくことが当面の目標です。
特に注力しているのが、草刈りの負担軽減です。リモコン式の草刈り機を導入し、暑さや重労働から解放される環境づくりを目指しています。今後は公園や河川の法面など、公共分野への展開も視野に入れています。
こうした取り組みを通じて、地域の人々が「お金を払ってでも利用したい」と思えるサービスをつくること。行政サービスではなく、地域に根づいた“実装可能なモデル”を確立することが次の挑戦です。
人の思いをつなぎ、地域の未来を描く
――最後に、活動を続ける上で大切にしていることを教えてください。
私は本業として環境系コンサルティング会社である株式会社エックス都市研究所に勤めつつ、この法人を運営しています。だからこそ、村のメンバーが「何をしたいのか」「何を実現したいのか」を聞き出し、背中を押すことが私の役割だと思っています。
一人ひとりの想いを起点に、小さな実験を積み重ねながら地域の可能性を広げていく——その姿勢をこれからも大切にしていきたいです。

