学力格差と孤独に寄り添う“第3の居場所”――地域で支える子どもの未来

NPO法人地域で子どもを育む会 代表  小畑睦氏

NPO法人地域で子どもを育む会は、「地域の子どもは地域で守る」を理念に、川崎市で子どもたちの“第3の居場所”を運営しています。学習サポート、子ども食堂、体験活動を通じて、安心して過ごせる放課後の環境づくりに取り組んできました。コロナ禍で広がった孤独や学力格差の課題に向き合いながら、地域の大人・学生と協力して支援の輪を広げています。本記事では代表の小畑氏に、事業の背景や組織運営、今後の展望を伺いました。

地域の子どもを支える“第3の居場所”として

――現在の事業内容や特徴について教えてください。

コンセプトは「地域の子どもは地域で育む」です。

寺子屋型の学習支援、子ども食堂、アクティビティの3つを軸に、家庭と学校以外の安心できる居場所を提供しています。

特に小学校低学年で多い算数のつまずきを丁寧にフォローし、小さな成功体験を積み重ねてもらう仕組みづくりを大切にしています。

――子どもたちが通う理由にはどのような背景がありますか?

家庭環境による孤立、不登校傾向、経済的な事情など背景はさまざまです。塾に通っている子もいれば、学校の宿題からつまずいている子もいます。

家庭と学校の間にもう一つ選べる居場所があることで、子どもたちは安心して自分らしく過ごせるようになります。

コロナ禍が生んだ危機感から始まった挑戦

――立ち上げのきっかけを教えてください。

きっかけはコロナ禍です。当時は外国人講師を学校へ派遣する仕事をしており、小中学校を訪れる機会がありました。そこで目の当たりにしたのが、小学5・6年生の英語授業で「3分の1が完全に落ちこぼれている」という現実です。

学校は休校、塾組はオンラインで差は広がる一方。「このままでは中学でつまずき、不登校が増える」その危機感を共有したママたち25名が一気に集まり、2021年に活動を開始しました。

――印象に残っている出来事はありますか?

特に忘れられないのは、どこにも所属していなかった17歳の青年との出会いです。

学力は小学校3年生レベルで止まっていましたが、「高校を出たい」という強い意思を持っていました。ボランティアの大人たちが相談相手となり、通信制高校の校長とつなぐなど、8人ほどで伴走した結果、彼は無事に入学。

現在は高校2年生になり、自分で働きながら学費を払っています。居場所が人を変える力を改めて実感した出来事です。

多世代が関わる組織運営と支え合いの仕組み

――ボランティアの主体性をどう育てていますか?

正会員は26名、活動するボランティアはさらに多く、高校生から70代まで幅広い世代が参加しています。

それぞれの得意を活かせる役割を用意し、無理なく関われる環境を整えています。「できることを持ち寄る」ことが、継続的な支援の鍵だと感じています。

――運営で大切にしている価値観は何ですか?

大切にしているのは「同じ方向を見る」ことです。理念や方針を文章化して共有し、支援の質がぶれないようにしています。

無料提供にこだわりつつ、寄付サイトを導入したことで、必要な家庭を支えながら、支援が循環する仕組みが整ってきました。

地域発の支援モデルを広げる未来構想

――今後の展望や挑戦したい取り組みについて教えてください。

将来的には「ACC(Association of Children’s Care)」の名のもとに、川崎以外の地域にも支援モデルを広げたいと考えています。

大阪でシングルマザー支援を立ち上げたいメンバー、都内で子ども食堂を開きたい飲食店経営者など、仲間の中に次の挑戦者が増えてきています。立ち上げから運営ノウハウまで伴走し、地域ごとの“ACC”を展開していく構想です。

また、不登校の子ども向けオンラインレッスンも準備中です。英語は自身で指導し、算数や数学は塾経験者のボランティアが担当する予定です。対面が難しい子どもでも学びを止めない環境づくりを進めていきます。

――現在感じている課題はどのような点ですか?

企業や地域との連携がまだ十分とは言えず、持続可能性の確保が課題です。企業プログラムへの参加など一歩ずつ進めていますが、今後はより広く知ってもらうための働きかけが必要だと感じています。

支援の現場から学んだ、挑戦する人へのエール

――趣味やリフレッシュの方法はありますか?

リフレッシュ方法は20代から続けている茶道です。心をリセットでき、気持ちを整える大切な習慣になっています。

また、平日は人材派遣のコーディネーターとして働いており、求職者の相談や職場の課題に向き合う日々です。だからこそ、金曜日に子どもたちと過ごす寺子屋の時間が何よりの癒やしになります。関わる人を支える仕事と、子どもたちの笑顔に触れる時間の両方が、自分のエネルギー源になっています。

――経営者や起業したい方々へメッセージをお願いします。

挑戦したい思いがあるなら、まず動くことが大切です。準備が整うのを待つより、一歩踏み出すことで道が開けます。行動すれば協力者は必ず現れますし、困難も乗り越えられます。迷うより、まず一歩。そこから未来は変わっていきます。

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