『南海トラフ』に備える経営を。元国税調査官が説く、会社を潰さないための危機管理と会計の役割

堀井久美子税理士事務所 堀井久美子

大阪国税局で23年間、法人税調査に携わってきた堀井久美子氏。2023年9月、念願の独立を果たし、税理士として新たなスタートを切った。長年の調査経験と、企業の“健全な存続”への強い思いを武器に、今後どのような事務所を目指していくのか。独立の背景、企業支援への想い、そして個人としての価値観について伺った。

23年の国税局勤務を経て。開業のきっかけと「いい会社」の条件

――現在の事務所について教えてください。

9月24日に税理士登録が完了し、本格的に事務所としてスタートしました。私は23年間大阪国税局の管内税務署で法人税の調査に携わってきました。調査という立場から、数百社の実態に触れてきましたので、企業が健全に存続し続けるために何が必要か、どういう会社が成長し、どういう会社がつまずくのかを身をもって見てきました。

独立の理由は、「自分の時間を取り戻したい」という想いも大きかったです。調査の仕事はやりがいがありましたが、大きな組織の中での働き方や変化に違和感を覚えるようになりました。自分の価値観で働き、自分の責任でお客様と向き合いたいと感じたことが、開業のきっかけです。

――数多くの企業の調査に立ち会われてきた中で、「いい会社」と「危ない会社」を見分ける堀井様独自の視点や、印象に残るエピソードはありますか?

「いい会社」というのは、利益や申告が適正であるのはもちろんですが、やはり「続けていく力」を持っている会社だと感じます。調査で数百社を見てきましたが、中でも印象的だったのは、社長含め若い人の多い整骨院でした。その会社は、毎週月曜日に、自分の病院の周りだけでなく、広い範囲までスタッフと一緒に掃除をしているそうなんです。

これを聞いて、すごく良い会社だな、と感動しました。綺麗にして嫌な人はいないですし、利益を追求するだけでなく、従業員と一緒に地域に貢献する姿勢に、会社の核となる良さがあると感じました。逆に、二代目社長が飲食に多額の経費を使っているような会社を見たときは、これは潰れるな、と強く感じたこともあります。申告内容だけでなく、会社の文化や経営者の姿勢が、企業の未来を決定づけるのだと思います。

「潰れない会社」を作るための税務と会計

――独立後の仕事で大切にされている価値観は?

一番は「潰れない会社でいてほしい」ということです。そのためには適正な申告は必要不可欠です。また、将来のリスクに備えて内部留保を増やしておくことが重要です。中小企業が金融機関からの借り入れに頼りすぎるのは健全ではありません。

特に私は南海トラフ地震の発生を強く意識しており、5年・10年の事業計画の中に必ず南海トラフが起こったらと想定してほしいとお伝えしています。1か月、2か月動けなかったらどうなるか、どれくらいの資金が必要か、急に内部留保を増やすことはできなくても、非常用電源を一つ用意することくらいなら今出来ます。南海トラフクラスの災害時には国の補助を期待できない可能性もあります。地震学者の先生方が渾身の力で私たちに伝えてくれていることを無駄にしてはいけないと強く思います。私たちは空振りを恐れずに備えなければなりません。事業者としての社会的責任だと思います。会社自身も生き残る力を持つことが必要です。

愛猫家としての活動と、未来への目標

――独立された大きな理由の一つに保護猫活動がありましたが、具体的にどのような活動をされていますか?

猫は私の人生そのものです。保護猫も含めてたくさんの猫たちと暮らしています。殺処分を減らすにはTNR活動が最も重要です。新しい飼い主さんを見つけることも大切です。また、保護活動の一環として、私は猫用のダンボール製の爪とぎを10年以上前から趣味で作っています。これはバザーに出したり、ボランティアさんのところに持って行ったりして、猫ちゃんたちが喜んで使ってくれています。この活動を通じて、税務署の世界とは違う、新しい世界や人の繋がりが広がりました。

また、リフレッシュ法としては、サッカー観戦(ヴィッセル神戸のホームゲーム)と、退職後に再開したピアノ演奏があります。事務所にピアノを置いて、没頭できる時間を持つことで、仕事への活力を得ています。こうしたバランスの取れた人生を送ることも、経営者としての私の目標の一つです。

――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。

まずは、自分の税理士事務所を続けていけるよう軌道に乗せたいです。そして、数年後には信頼できる後輩の子が事務所に税理士として来てほしいです。彼らと一緒に仕事ができたらどんなに楽しいだろう、と心から思います。

そのためにも事務所を安定させ、彼らが来てくれた時に安心して働ける環境を整えておきたいと思っています。そして何よりも、縁あって関わった顧問先には、南海トラフのような危機を乗り越え、従業員も含めて「いい会社だ」と言われるような存在としてずっと続いていってほしい。そのための力になれるよう、私はこれからも誠実に、地に足の着いた経営支援を続けていきたいと思っています。

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