株式会社仲村屋 代表取締役社長 中村 優二 氏
東日本大震災を契機に音楽活動から一転して地域に根差した情報発信事業を開始した中村氏。現在はポスティング事業をメインに、地域活性化のためのイベント事業も展開しています。特に氷河期世代・高齢者や障害を持つ方々など「必要とされたいと思う」人々に、働く居場所を提供することを最大の目標とする同氏に、事業の独自の取り組みと哲学を伺いました。
チーム感を重視したポスティング事業
――御社の事業内容を教えてください。
当社は広告業を基盤とし、ポスティング事業をメインに展開しています。そのほか小規模な広告制作チーム、Web制作チームも抱えています。また、私自身が音楽活動の経験を持つことから、アーティストの方と協力し、地域を盛り上げるイベント事業にも力を入れています。
――事業の強みはどのような点にありますか。
最大の強みは「スタッフとの関係性」です。ポスティング業界では身体・精神に課題を抱える方も多く、管理側が高圧的になりがちな現実があります。当社では、彼らが社会に溶け込み働ける環境づくりを十数年かけて整えてきました。その結果、離職率は非常に低く、スタッフが一丸となって仕事に取り組む体制が築けています。
「社会に必要とされている」と感じられる砦を
――創業の経緯を教えてください。
原点は東日本大震災でした。震災後に訪れた北茨城で、タクシー運転手の方から「被害が大きいのに誰も本当の状況を伝えてくれない」と怒りを聞きました。私は何の経験もありませんでしたが、「事実を伝えなければ」と思い、自力でフリーペーパーを作ることを決意しました。その取り組みが産経新聞の記者の目に留まり、2年間、顧問的な立場で指導を受けながら、現在の広告業の形へと発展しました。
また東京という街で、多くの人が地域コミュニティを持たないまま生活していることに震災時強い不安を感じたことも、地域密着型の事業を始める大きな動機でした。
――ポスティングの事業にはどのような意義があると思われますか。
私の娘は重度の知的障害を持っています。特に重度の障害がある方は就労機会が極めて限られています。その中でポスティングは、親子で取り組むなど柔軟な働き方が可能で、社会復帰の足がかりにもなります。
私は事業を通じて利益を追うよりも、「社会に必要とされている実感」を持てる場所でありたいと考えています。これは働く人のアイデンティティを守る、最後の砦になるという思いからです。
ケアマネージャーのようなマネジメントを
――組織作りで工夫されている点はありますか。
スタッフと接する際は、ケアマネージャーに近い意識を持っています。個性の強い方が多いため、まず趣味や好きなことを聞き、その人を理解することから始めます。特に高齢のスタッフには敬意を払い、教えていただく姿勢を大切にしています。
――従業員を教育する際にはどのような点に気をつけられていますか。
感情が先に立って強く注意できない時もありますが、チームで働く以上「一人でも欠けたら全員が困る」ということは必ず伝えます。また、注意した後のアフターケアも重視し、感謝の気持ちを丁寧に伝えるようにしています。
ペーパーレスを見据えて新たな事業を展開
――ポスティング業界の今後の動向と、それに対する御社の考えをお聞かせください。
業界全体では単価が下がり、現場に出たい人も減っています。さらにペーパーレス化が進み、紙媒体だけに依存するのは難しくなります。そのため当社では、広告を請け負うだけでなく、自分たちが発信するプラットフォームづくり、つまりECサイト運営などを通じて「広告主」としての視点も持つことが重要だと考えています。
――具体的な新規事業案はありますか。
現在、B型就労支援との連携によるお菓子の詰め合わせ販売代行、さらに農家と提携し、廃棄予定の規格外農産物をECサイトで販売する事業も準備しています。これはポスティングに代わる新たな収益源であり、広告業として自ら発信する側に立つための取り組みでもあります。

