ジャパン・マルチハンターズ株式会社 代表取締役 並木来未子氏
「駆除された獣の8割が廃棄されている」――そんな現実をご存じでしょうか。
農林業への被害は年間約160億円にものぼり、多くの鹿や猪が命を奪われています。しかし、その大半は活用されることなく捨てられているのが現状です。
神奈川県小田原市に拠点を置くジャパン・マルチハンターズ株式会社は、こうした課題を「ビジネスの力」で変えようと挑んでいます。
ジビエ活用から獣害対策、食育活動まで幅広く展開する並木代表に、事業への想いと未来への展望を伺いました。
「命を丸ごと」活かす3本柱の事業
――現在の事業内容と、その特徴について教えてください。
当社は「命を丸ごと身近に豊かに」というミッションのもと、三つの事業を展開しています。
一つ目は、狩猟体験や解体イベントを通じて「命をいただく」感覚を伝えるコミュニティ事業です。子ども向けの食育活動にも力を入れており、骨を教材として提供することもあります。
二つ目は、地域の鹿や猪を仕入れ、自社施設で迅速に処理・加工するジビエ活用事業です。鮮度と品質に徹底的にこだわり、ソーセージやハンバーグなどの加工品も手がけています。
三つ目は獣害対策事業です。罠の設置サポートや農家への指導に加え、自社開発した忌避剤「イノシカヨケール」の販売も行い、被害の根本的な減少を目指しています。
――企業理念についてもお聞かせください。
ビジョンは「世界経済に左右されない、豊かな暮らしが、持続可能な世界へ」。自給自足の精神を大切にし、地域資源を自ら活用する姿勢を重視しています。ロゴには魚・猪・稲穂を描き、野菜も魚も肉も自分たちの手で獲り、活かす――そんな“自然と共に生きる暮らし”への決意を込めました。
ハンターを「憧れの仕事」にするために
――この事業を始められた経緯を教えてください。
背景には、狩猟業界の高齢化と担い手不足があります。現状では危険で過酷なうえに収益にならず、若い人が参入しにくい。そこで「利益を生む仕組み」として株式会社を立ち上げました。駆除から加工、販売までを一貫させることで、ハンターが食べていける職業になるようにしたかったのです。
――将来的に目指している姿はありますか。
まずは小田原モデルを確立し、ゆくゆくは全国へ展開したいと考えています。さらに、「山の日はジビエを食べよう」といった文化を根付かせ、日本の食卓にジビエを当たり前の存在として広めていきたいですね。
専門性を尊重し、命と真摯に向き合う組織づく
――社員の主体性を引き出すために、どのような工夫をされていますか。
罠の専門家、解体のプロ、料理人など、それぞれが高い専門性を持っています。私が細かく指示を出すよりも、彼らの経験を尊重し裁量を持たせることで、新しい加工品やサービスが生まれています。
――社内の価値観として大切にしていることは。
私たちは、自分たちの仕事に誇りを持ち、ジビエの価値を下げないことを大切にしています。まだ浸透していない業界だからこそ、一つひとつの品質や体験が業界全体の印象を左右します。だからこそ手間を惜しまず、常に最高の品質を追求することで、お客様に本当の美味しさを届けて、業界の発展に貢献していきたいと思っています。
社会を巻き込み、文化を創る挑戦
――今後の新しい取り組みについて教えてください。
「罠オーナー制度」を準備しています。都市部の方に罠のオーナーになっていただき、捕獲報告やジビエの提供を通じて参加してもらう仕組みです。資金の安定化と同時に、多くの人が獣害問題を「自分ごと」として考えるきっかけになると期待しています。
――現状の課題についてはどうお考えですか。
ジビエの魅力や栄養価がまだ十分に知られていません。文化を創るには時間がかかりますが、SNSやイベントを通じて地道に発信し、理解を広げていくことが不可欠だと考えています。
経営哲学と未来への想い
――経営において大切にしている信条は何でしょうか。
「持続可能性」です。自然環境・経済性・社会性、この三つが重なって初めて事業は続けられます。想いだけでなく、利益を生み出すモデルを構築することが、未来につながる条件だと考えています。
――最後に、読者へ伝えたいメッセージをお願いします。
ジビエはただの食材ではなく、森や農業を守る行為そのものです。食べることを通じて命の循環に参加してほしい。私たちは、命を無駄にせず活かす挑戦を続けながら、いつかジビエが日本の文化として根づく未来を創っていきたいと思います。

