株式会社NEWSIGHT TECH ANGELS 代表取締役 瀬尾 亨氏
ライフサイエンスの研究成果を社会を変える事業へと育てるには、科学の知識だけでは十分ではありません。規制対応や巨額の資金調達、海外企業との連携など、多様な専門性が入り組む複雑な領域だからこそ、研究者が動き始める初期段階から寄り添い、実務面まで伴走する存在が欠かせません。こうした課題に向き合うのが、株式会社NEWSIGHT TECH ANGELSです。代表の瀬尾氏はエンジェル投資家の知見と資金を結集し、カンパニークリエーションとハンズオン支援を軸に、世界で戦えるバイオスタートアップの創出に取り組んでいます。日本発の技術をいかに海外へ届けるのか。なぜ早期支援が必要なのか。瀬尾氏に、その思いと戦略を伺いました。
「早期」から深く入り込むハンズオン支援
――事業内容や特徴について教えてください。
当社は、エンジェル投資とハンズオン支援を組み合わせ、ライフサイエンス領域でのカンパニークリエーションを推進しています。
バイオ領域は研究開発期間が長く、規制、資金調達、企業提携など、研究者だけでは乗り越えられない壁が多数存在します。そのため、私たちは創業以前の段階から参画し、事業計画の策定、助成金の獲得、臨床・薬事に関する戦略、海外展開の道筋づくりまで、総合的に支援しています。
――支援とは、具体的にどのように行うのでしょうか。
支援の形もさまざまです。事業・資金面を中心に助言する「ドライ支援」に加え、場合によっては研究現場に深く入り込み、実験計画や実装のサポートまで行う「ウェット支援」もあります。
現在、投資先は9社あり、そのうち8社が海外企業です。アメリカやカナダ、オーストラリアなど各国のスタートアップとの連携を通じ、日本側の研究者が世界基準に触れられる機会も生まれています。
「ギブ、ギブ、ギブ」で信頼を育てる
――仕事をするうえで大切にしている価値観は何でしょうか。
私が大切にしているのは「まずギブで動く」姿勢です。事業を立ち上げたばかりの時期は、お金の議論よりも信頼の構築が何より重要です。研究者や経営者が抱える不安や課題に対し、私たちが何を提供できるかを示すことで、次のステップが見えてきます。相手の状況を理解し、謙虚に寄り添う姿勢が長期的な成果につながると考えています。
また、成果は短期的には見えづらいものです。ライフサイエンスの事業は、5年、10年単位の挑戦になります。そのため、私たちは短期の利益に固執せず、長期で価値を積み重ねることを重視しています。良い取り組みを続けていれば、利益は自然と後からついてくるというのが私の信条です。
求めるのは「生きた英語」と推進力を持つ人材
――どのような人材を必要としていますか。
最大の課題は、事業を推進する「ドライバー」人材の不足です。
海外の事業会社との交渉では、スピード感、柔軟な意思決定、文化理解が欠かせません。単に英語が話せるだけでなく、相手に真剣さを伝えられる「生きた英語」を使えることが重要だと考えています。これは教育だけでは身につかず、実践の場を通じて磨かれる能力です。
さらに、バックオフィスの効率化も喫緊の課題です。
メール対応一つとっても往復が多く、業務が圧迫されがちです。その課題を解消するため、社内システムの見直しやAIの実装を進めています。加えて、インターナショナルスクール出身の若手インターンや海外大学との連携による人材確保も強化しています。多様なバックグラウンドを持つ人材が集い、互いの強みを補い合える組織づくりを進めています。
海外展開の基盤をつくり、日本発技術を世界へ届ける
――今後の展望について教えてください。
当社が最も力を入れているのは、日本発技術の海外展開です。台湾やオーストラリアのアクセラレーターと連携し、研究段階から海外の規制・市場ニーズを踏まえた事業設計を行える仕組みづくりを進めています。日本国内だけでは得られない視点を早期に取り入れることで、成功確率は大きく高まります。
3年後には、投資先企業のエグジットに近づく状態をつくり、創業時比で売上10〜50倍、純利益5倍の成長を実現したいと考えています。そのためにも、海外スタートアップの日本誘致による「流動性」の創出は欠かせません。外からの刺激が入ることで、日本のバイオ産業はより活性化し、研究者の挑戦が継続しやすい環境に変わっていくと考えています。
「無心」の時間が仕事を前に進める
――日々のリフレッシュ方法はありますか。
私は常に動いていたいタイプなので、10〜30分ごとに仕事を切り替えて集中力を保っています。昔から続けているギターやピアノを弾く時間は、とても大切にしています。
また、サイクリング歴は30年以上で、無心でペダルをこぐことで自然と頭の中の整理が進みます。トライアスロンも趣味でしたが、今は体への負担を考えつつ、自転車や水泳を楽しんでいます。こうした習慣は、挑戦を続けるための原動力になっていると感じています。
日本の技術を世界に届けることをライフワークに、研究者や起業家が挑戦しやすい環境をつくりたいーーこの想いを胸に、共に未来を育てていける存在であり続けたいです。

