デザインも性能も未来へ──建築技術を次世代へつなぎ、地域に還す

合同会社DEMU建築設計事務所  代表 出村昌也氏

DEMU建築設計事務所は、出村氏が2009年に独立し設立、2022年に法人化しました。独立当初から“性能に裏打ちされたデザイン”を掲げ、「ずっと居たくなるような居心地の良い空間」「過度に主張せず長きにわたり相棒になってくれる」そんな住まいづくりを行なっています。今回代表の出村昌也氏にお話を伺い、家造りへの熱い想いをお聞きすることができました。

デザインも性能も、両方妥協しない

――現在の事業内容や特徴について教えてください。

弊社は設計事務所で、主に住宅と小規模店舗の設計・監理を行っています。僕は意匠建築士ですが「意匠デザインと性能を高い次元で両立する」という考えが根底にあるので、温熱計算はもちろんのこと、許容応力度計算による構造設計も自分でやりますし、外皮マイスターという耐久性に関する資格も有しています。
随分と立ち遅れている日本の住宅性能の底上げという観点からも、今は住宅の方に軸足を置いています。

――業界内での強みはどのような点にありますか。

10年くらい前は、住宅の性能を理論に基づき強化していこうという動きは、特に設計事務所では珍しかったのですが、「両立してこそ意味がある」という想いで断熱・気密性、耐震、耐久性に対してもしっかりアプローチしてきました。
当時は性能とデザインは相反する部分があるという考えも根強く、実際にデザイン性の高い建築ほど性能を置き去りにしたデザインが主流でした。今でもかなり多いですね。
同業者にも「なんでそんなことをするの?」と言われましたし、正に「おしゃれは我慢の世界」でした。
でも自分自身がそういう家に住みたくないという想いが強く、デザインも性能も高いレベルで両立できないか模索してきました。それが強みかなと思います。

あと、住宅はその時々の流行りがありますが、10年後、20年後も耐えられるデザインを目指しています。10年後に「昔、あのデザイン流行ったよね」と言われるのは嫌なので、「奇を衒うデザインじゃないけど、ちょっと良いよね」というものを目指しています。

“あなたに頼みたい”からはじまった独立

――経営者になられた経緯を教えてください。

もともと他の設計事務所に在籍しており、ビル関係や福祉施設、遊戯施設といった割と大きめの箱物の設計監理をメインにしていたのですが、もともと小規模な建物を丁寧にやりたいっていう思いがありました。そんな時、知り合いから是非住宅の設計を僕個人にやってほしいという依頼があり、最初は木造住宅の実績も殆どないのに何故?という思いでしたが、それを理解した上で僕の仕事に対する姿勢等を見てくれて正式に依頼してくれました。当時はまだ若かったので、たいした準備も何もなく勢いで独立した形でしたね。

――仕事をする上で大切にしている価値観は何でしょうか。

当たり前の事ですが、施主の利益になるかどうかというのは常に考えています。その上で施主の要望や想いの上を行く提案をする必要があります。ただ自分の作品を造っている訳ではないので、独りよがりな提案にならないように、その辺りのバランスにはいつも気を遣います。
あと、好き嫌いで言うと、細部に思考を割く時間は好きですね。納まりとか、こうしたらキレイかな、空間にノイズにならないか、施工性はどうか、水蒸気の流れはどうなるか、メンテナンス性や耐久性は問題ないか等々、考える事は多岐に渡ります。
施主が入居後に随分経ってから「この部分、すごく考えられてますね。暮らしてから気付くことが沢山あります」とお言葉を頂くととても嬉しいです。
僕は仕事が好きなんですね。経営者でもありますが、やっぱりプレイヤーで、自分でやるのが好きな人なのだと思います。

設計事務所の未来

――設計事務所の今後はどうなるとお考えですか?

現状、住宅建築を取り巻く環境は厳しく、当たり前の事しかできない事務所は益々淘汰されていく時代だと思います。業務の効率化はもちろん必須ですが、設計事務所として最も大切なのはやはり高度な専門性だと思っています。少なくともこの地域ではここじゃないと出来ないという強みが欲しいので、常に知識のインプット・アウトプットは怠らないようにしています。

また、施主が何を望んでいるか、言葉はもちろんそれ以外からも感じ取ってイメージして提案する力が必要です。これは今後加速度的に発展するAIが苦手とする分野だと思っています。

効率化という観点で言えば、現場はかなりDX化が進んできていますね。設計事務所の業務で言えば監理の部分です。ただ設計の部分に関しては現状では限定的です。今後のAIの発展次第なところもあるので、その辺りは楽しみながら順応していきたいですね。先程、細かいことを考えるのが好きという話をしましたが、クオリティを落とさずに如何に楽をするかを考えるのも同じくらい好きなので。

地域のために自分ができる“技術の伝承”

――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。

実は会社をどんどん大きくしたい!という思いはないです。自分一人ではそれ程大きなことは出来ないのですが、せめて自分が関わる施主には幸せになって欲しい。建築はその手伝いが出来ると思っていますので、自分がやると決めた事を粛々とやっていくだけです。
あと、ちょっと偉そうな事を言わせてもらうと、事務所のある福井県エリアでは、住宅性能(温熱計算、空調設計、構造、耐久性)含めて総合的に考えると、僕自身が多分一番理解が深いという自負はあります。ただ、そういう知識は沢山の先駆者に教えて頂いて今の自分があるので、今度は僕が後輩達に伝えていきたいと考えています。
個人的な事情もあり事務所を大きくしてく予定はないので、今は工務店に設計顧問として技術指導をさせて頂き、そこで知識を繋げて、結果地域への還元になれば良いなと考えています。

読書が栄養でありビタミンに

――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。

有難いことに多忙な毎日ですが、ちょっとした空き時間は読書をしています。読書は昔からでジャンル問わず、思想的なものから経済、歴史、専門書、小説まで何でも読みます。
学生の時は勉強が嫌いで読書など殆どしていなかったのですが、社会人になってから読むようになりました。趣味というには烏滸がましいような気もしますが、この趣味がなければ僕の人生は全く違うものになっていたと断言できるほど多岐に渡り影響を受けました。

あとはコーヒーが好きで、もう中毒みたいな感じです。1日に4,5杯くらいは飲んでいますね。コーヒーを飲んでいる時だけはリフレッシュして、何も考えない…と思っているのですが、そういった時に良いプランが思いついたりするものなんです。そういう時は降りてきた閃きが消えないうちに、そそくさとデスクに向かいます。やっぱり考えること自体が嫌いじゃないんだなと思います。

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