声の仕事を「食える業界」へ。100人コミュニティを率いる澤田賢一郎が描く未来

株式会社 Futures V-net 代表取締役 澤田 賢一郎氏

声優・ナレーターの約9割がアルバイトをしながら活動しているといわれる業界で、「本気で取り組む人がきちんと生活できる環境をつくりたい」と立ち上がったのが、株式会社Futures V-net代表・澤田賢一郎氏だ。自身も声の仕事を続ける現役のナレーターでありながら、100名規模のボランタリーチェーン型コミュニティ「フリーナレーターズユニオン」を運営し、“声”と“映像”の領域で新たな働き方を生み出している。今回は、事業の背景、組織運営のこだわり、そして4年後に見据える未来像まで、じっくり話を伺った。

声の業界の「当たり前」に疑問を持ったことが出発点

――現在の事業内容とビジョンについてお聞かせください。

メイン事業は、声の仕事に携わるナレーター・声優・MC・アナウンサーなどが所属する「フリーナレーターズユニオン」というコミュニティの運営です。一般的な事務所のように契約で縛るのではなく、ツールや仕事の仕組みを共有しながら、それぞれが独立した事業主として活動できるボランタリーチェーンに近い形態を取っています。

この業界は人気はあっても、9割がアルバイト生活という厳しい現実があります。そこで「本気で取り組む人がちゃんと食べていける環境をつくりたい」という思いで仕組み作りをしています。現在100人規模のコミュニティですが、声の仕事専業で生活している人が半数以上いる点は、業界としてはかなり異例な、他の事務所にはない特徴だと思います。

さらに、声のキャスティングや、プロのプレーヤーによる単発レッスンをまとめたプラットフォーム、そして直近でリリース予定のオウンドメディアなど、声の仕事を“仕組み”として支える事業を複数展開しています。

自身が食べていけなかった経験が、すべての原点に

――澤田さんご自身のキャリアや、起業に至ったきっかけについて教えてください。

もともとは声優事務所に所属していたのですが、名刺すら作らせてもらえず、年間の収入は10万円ほど。将来が見えず、「自分で動くしかない」と思い独立しました。ナレーションの技術を学びながら営業の方法も身につけ、独立1年で生活できるレベルには到達できました。

そこからは、自分にできる価値提供として“人をつなぐ”ことに力を入れるようになりました。人を紹介し続けていると、自分のところに仕事が返ってくるようになり、自然とネットワークが広がっていったんです。ただ、気づけば従来の事務所と同じような構造になりかけていて、「これでは状況は変えられない」と感じました。

そこで、仕事の増やし方や顧客との関係構築の方法を仕組み化し、それをコミュニティ全体で共有して循環させる形に発展させたのが、現在のユニオンの土台になっています。

100人規模を“会社のように”動かす難しさと面白さ

――コミュニティ運営や社員との関係で心がけていることはありますか?

コミュニティといっても、実質は100名規模の会社のようなものです。顧客も半分は共有しているようなもので、案件も連動します。そのため、トラブルが起きると大きく影響しますし、昨年は新旧メンバー間の衝突が4か月続くこともありました。

そこで今は、権限や責任範囲も明確化しながら、メンバー同士の対立が起きづらい仕組みの構築に注力しています。運営メンバーもいますが、最終的には私に相談が集中してしまっていたため、そこを根本の仕組みから改善しながら1年がかりで構造改革を進め、最終的に私がいなくても永続的に成長、存続していける組織にすることが直近のテーマです。

ただ、雇用で縛っているわけではないのに、これだけ大勢の仲間がいるというのは非常に大きな強さでもあります。今は映像ディレクターを含む5名の会社メンバーと合わせて皆で連携しながら、コミュニティを含む組織全体が広く日本のクリエイティブに関わるプロ人材の役に立つよう成長させていくことを意識しています。

4年後、売上6倍へ。声と映像の“横展開”に挑む

――今後の展望や挑戦したいことについて教えてください。

4年後、2029年までにいくつか明確な目標を置いています。まず1つは、私がいなくてもコミュニティが自走する状態を完成させること。そして、現在の100名体制を200名規模へと拡大しつつ、専業比率50%以上を維持することです。これは「食える人を増やす」という根幹のビジョンに直結します。

事業としては、声の仕事のノウハウを提供するオウンドメディアの拡大、映像プロデュースサービスの強化、そして声以外のクリエイティブ領域にも同じボランタリーチェーン型コミュニティを横展開していきたいと考えています。

売上規模としては、現在を1とすると4年後に6倍程度を見込んでいます。無理なスケーリングではなく、仕組みが確実に回ることで安定的に拡大していくイメージを持っています。

声と映像の未来を、仲間とともにつくりたい

――最後に、個人的に大切にしていることや日頃のリフレッシュ方法があれば教えてください。

基本的に仕事が好きなので、声の現場に立つことも、コミュニティを育てることも、すべてが自分にとっての楽しみです。趣味というと少し違うかもしれませんが、「この業界を良くしたい」という思いが原動力になっているので、それ自体が大きなモチベーションや生き甲斐として日々を充実させてくれています。

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