株式会社できトレ 代表取締役 阿部 紀洋 氏
自身のダイエット経験をきっかけに情報過多なフィットネス業界の課題解決を目指し、株式会社できトレを設立した阿部氏。同社が提供する家トレアプリ「できトレ」は、継続率の高さで他のフィットネスアプリを圧倒しています。日本の健康寿命を1歳伸ばすことを理念に掲げる阿部氏に、その哲学と今後の事業戦略を伺いました。
継続率11倍の家トレアプリ
――御社の事業内容を教えてください。
当社では家トレアプリ「できトレ」を開発・提供しています。こちらは「最も継続できるアプリ」を目指して開発しており、一般的なジムアプリの30日間継続率が約5.1%と言われる中、「できトレ」の課金ユーザーの継続率は56.5%と、約11倍の数値を達成しています。これはアプリを活用したゲーミフィケーションやリマインド機能といった、継続に特化した設計によるものです。
――アプリの具体的な仕組みも伺いたいです。
アプリ内には計224のトレーニングがあり、ユーザーの進捗度に合わせて自動的に負荷が上がる設計になっています。パーソナルジムのように強度が勝手に上がっていくため、ユーザーは自然と成長することができます。また、トレーニングの解説や座学的なクイズなどを提供する「できトレ解説」によって、ユーザーは知識を身につけながらトレーニングに取り組むことができます。それによって、まるでパーソナルトレーニングを受けているかのような体験を家で実現することができるのです。
エビデンスに基づいた正しい情報を広めたいという思い
――創業の経緯を教えてください。
もともと私自身が太っていたのですが、当時痩せたいと思いながらもダイエット業界の情報過多な状況に惑わされ、失敗を繰り返すということをしてきました。その際、エビデンスに基づくきちんとしたノウハウを広めたいという思いから、YouTubeでの情報発信を始めました。その後パーソナルトレーナーをやったりもしたのですが、それだと1対1でどうしても数に限りがある。もっと多くの人に届けたい、そう考えた末に「パーソナルトレーニングを家で受けられるアプリ」の構想に至り、アプリ開発に乗り出しました。
――キャリアの中で印象的だった出来事はありますか。
創業からまだ1年ですが、最も印象的だったのは「できトレ」のユーザーからのフィードバックです。「これまでのどのサービスよりも続けやすい」「本当に体が変わった」といった高い評価をいただき、プロダクトの価値が社会的に認められているという実感を得られたことが、非常に大きな喜びとなっています。
顧客単価の課題をクリアするために
――現在直面している最も大きな課題は何でしょうか。
最も大きな課題は、やはり顧客単価が安いことです。アクティブユーザーを抱えているという強い基盤がある一方で、アプリ自体の課金収益だけでは収益モデルとして弱く、売上が伸びていない現状があります。またその他の課題としては、開発・デザインを担う人材(エンジニア、デザイナー)の不足があり、スピード感を持った開発を進める上でのボトルネックとなっています。
――課題解決のための構想や目標などはありますか。
収益性を上げるために、いくつかの施策を講じています。例えばアクティブユーザーが多いという強みを活かし、アプリ内でプロテインやサプリメントを販売したり、筋トレに興味を持つユーザーを提携するジムへ送客しマネタイズしたり、さらに企業向けに福利厚生として有料プランを導入してもらうといった営業戦略も、検討しています。目標としては2027年12月までにユーザー数20万人、年商2億~3億を目指したいと考えています。
自分がやりたいことをやり抜く
――経営において大切にしている価値観について教えてください。
「日本の健康寿命を1歳伸ばす」という目標を、生きているうちに達成したいというのが、何よりもぶれない軸としてあります。現在、健康寿命と平均寿命の間には約10年のギャップがあると言われており、この期間には誰かの介護や医療の負担がかかっています。この課題を解決することが最大の目的であり、収益を上げるのはそのための手段と考えています。
――これから起業を目指す方へメッセージをお願いします。
私自身、挑戦しようと思ったときに家族や周囲から「辞めてほしい」といった否定的な意見を多く受けました。結果が出るかわからない中で失敗もあり、つらい時期もありました。しかし周りに何を言われようが、自分がやりたいことをやり抜くことが一番大事です。「これをやりきりたい」という理念や軸が一つあれば、突き進むことができるはずです。困難に直面しても、その軸を信じ最後までやり切る姿勢を持って、事業に取り組んでほしいと思います。

