CLINKS株式会社 代表取締役 河原 浩介氏
ITで“笑顔”を増やす――。エンジニア派遣からインフラ運用、テレワーク支援、そしてAIソリューションまで幅広く手がけるCLINKS株式会社。代表取締役の河原浩介氏は、自宅の6畳間から会社を立ち上げ、数多くの未経験エンジニアを育成してきました。くも膜下出血で生死の境をさまよった経験を経て、「周りの人の役に立ちたい」という思いと、AIへの関心が一段と高まったと語ります。今回は、創業の経緯から人材観、AIで描く未来まで、その歩みを伺いました。
目次
ITで笑顔を増やす会社として歩み続ける
――現在の事業内容と、御社ならではの特徴を教えてください。
事業の柱は、インフラ分野に強みを持つSES、AI開発を主軸としたBtoB向けの受託開発・運用、そしてテレワーク支援です。サーバーやネットワークなどインフラの運用・保守案件が多く、システムの安定稼働を支える縁の下の力持ちのような存在を担っています。開発においても、導入して終わりではなく、その後の運用を含めて長く伴走するスタイルを大切にしています。
もう一つの特徴が、2016年から力を入れてきたテレワークです。コロナ禍より前から遠隔コミュニケーションツールを活用し、都市部・地方・海外在住の方や、介護・子育て中など通勤が難しい方でも働ける環境を整えてきました。
現在は、社員の半数以上がテレワークで勤務しており、「テレワークでないと働けない人にも活躍の場をつくる」ことを、事業の重要なテーマとして位置づけています。
――創業の経緯と、現在の事業の全体像についてはいかがでしょうか。
当社は、私が自宅の6畳間で一人ではじめた会社です。私はもともとマツダに新卒で入社したのですが、業務でコンピューターに触れる機会があり、その大きな可能性を感じてエンジニアになりたいと思うようになりました。その後IT企業に転職し、ITエンジニアとしてお客様先に常駐していましたが、同じ会社のエンジニア同士でも、顔を合わせる機会がほとんどない状況に違和感がありました。ITの力で、社内コミュニケーションの在り方も変えられるのではないかと考え、独立を決意したのが出発点です。
立ち上げ初期には、社内SNS「イノベーションブログ」(現在は「モチベーションブログ」)を開発し、離れた現場で働く社員同士がつながれる場づくりを進めました。そこから事業領域を広げ、いまではSES、受託開発、インフラ運用、テレワーク支援、AIサービスと、エンジニアの働き方と企業のIT活用をトータルで支える体制になっています。
未経験人材を育て、ITで笑顔を広げる
――業界内での強みと、企業理念についてお聞かせください。
当社の成長を支えてきた最大の要因は、未経験からエンジニアを育てる仕組みを早期に整えたことです。2003〜2004年頃から未経験採用と教育に取り組み、多くの方にIT業界への入り口を提供してきました。これまで当社の研修を経て業界に飛び込んだエンジニアは、累計で6,000〜7,000人はいると見ています。
私自身も異業種からITに転じた経験があり、「未経験だから無理」と門前払いされる現実に疑問がありました。実際には、きちんと研修とフォローを行えば、未経験でも十分に戦力になれる仕事が多くあります。
だからこそ、教育と現場経験の機会をセットで提供し、「ITで笑顔を増やしたい」という理念のもと、エンジニアとお客様双方を笑顔にすることを目指してきました。
この理念に共感して入社を希望してくださる方も多く、当社らしさを象徴する言葉になっています。
任せて信じるマネジメントで主体性を引き出す
――組織づくりや、社員との向き合い方で意識していることは何でしょうか。
私は、自分のスタイルを「どちらかというと法治主義に近い」と捉えています。大人同士の集まりですので、細かく管理するのではなく、ルールと役割を明確にしたうえで権限を渡し、自分で考えて動いてもらうことを重視しています。
役割を担ってもらった人には、できるだけ早く権限移譲を行い、成果に責任を持てる環境をつくる。これが、当社のマネジメントの基本です。
また、結果を出す人の共通点として感じているのが「能動性」です。性格が内向的でも、コミュニケーションが得意でなくても構いませんが、自ら学び、動こうとする姿勢は欠かせません。ITの世界は変化が早いので、「勉強が嫌い」なままでは長く活躍することは難しいでしょう。
社内文化については、IT業界にありがちなドライさだけではなく、少しウェットな人間関係も大切にしたいと考えています。毎月の歓迎会や社内サークル、オンライン飲み会の補助、アニアネ制度(メンター制度)、1on1面談など、コミュニケーションの機会を会社として設計しつつ、その場でどう関わるかは個々のスタイルに任せるようにしています。
AIで認知症支援に挑み、社会課題を解決する
――今後の事業展開や、AIに関する挑戦についてお聞かせください。
今後は、AIを会社の中心テーマとして据えていきたいと考えています。AIを活用したソリューションの提供、AIエンジニアの育成と業務支援など、既存のインフラ運用や開発の強みと掛け合わせながら、新しい価値を生み出していく方針です。
また、すでに提供している法人向け生成AIチャットサービス「ナレフレチャット」をはじめ、AIエージェントによるサービスも拡充していきたいと思っています。
個人的に強い関心を持っているのが、認知症領域へのAI活用です。
私は昨年、くも膜下出血で倒れ、一時期は認知症のような症状や高次脳機能障害に苦しみました。簡単な引き算すらできなくなり、本気でリハビリに取り組む中で、本人だけでなく家族や介護者の負担の大きさを痛感しました。治療自体は医療の領域ですが、その周辺で見守りや負担軽減など、AIにできることは多いと感じています。
将来的には、「AIで社会の課題を解決する会社」として上場を目指し、より広い範囲で世の中に貢献できる存在になりたいと考えています。
病を転機に、周りの人の役に立つ生き方を選ぶ
――仕事から離れた時間の過ごし方について教えてください。
倒れる前は大のお酒好きでしたが、病気をきっかけにきっぱりとお酒をやめました。今はAudibleで小説を聴きながら散歩をするのが日課です。歩きながら物語に浸る時間は、頭と心を整える大切なリフレッシュになっています。
くも膜下出血で倒れる前は、自分の会社がうまくいくこと、稼ぐことが一番の関心事でした。しかし、一度「年を越せないかもしれない」と覚悟した経験を経てからは、家族や社員を含む「周りの人の役に立ちたい」という気持ちが自然と大きくなりました。
経営塾「一流塾」塾長一柳良雄様から、「もう一度会いたいと思ってもらえる人になれ」「三方よしを大事にしなさい」と教わったことも、今の自分を支える言葉です。お客様、社員、会社の三方が幸せになれるかどうかを意識しながら、また会いたいと思っていただける人間でありたいと心がけています。
命をもう一度もらった身として、これからも健康に気を配りながら、ITとAIの力で誰かの笑顔を増やしていきたいーー「また会いたい」と思っていただける存在であり続けたいと思います。

