一般社団法人 日本産後育児推進協会
(2025年現在 一般社団法人 産後セラピー協会) 代表理事 小林千鶴子氏
出産は喜びにあふれるものである一方で、多くの母親が産後の孤立や不安を抱えています。家事や育児の負担が一気にのしかかり、こころも身体も追いつかなくなってしまう──そんな母親たちに寄り添い続けているのが「一般社団法人 産後セラピー協会」です。産後ケア専門家の育成と派遣を通じて、家族の土台となる“産後の時間”を支えてきた小林千鶴子氏に、これまでの歩みと未来への想いを伺いました。
目次
子育て家族が「ひとりで抱えない社会」をつくるために
――まず、産後セラピー協会の事業内容を教えてください。
子育て家族が「ひとりで子育てをしない環境」をつくることを目的に活動しています。産後は身体も心も大きく変化しますが、支援が十分に届いていない現状があります。そこで、産後ケアを軸に、家族が自分らしく子育てできる環境づくりをサポートしています。
具体的には、産後ケアの専門家である「産後セラピスト」の育成、行政との連携、地域における仕組みづくり、そして実際にご家庭へ訪問してサポートを行う「メルシーベベ」の運営など、多角的に取り組んでいます。
また、助けたい思いを持っている方が自信をもって活動できるように学べる場として「こそだて支援大学」も立ち上げています。思いを持つ人の力が、確実に必要としている家庭に届く循環をつくりたいと考えています。
経験が“助けたい人”を生む──創業に込めた思い
―― 一般社団法人という形態にした理由はありますか。
子育て支援は、同じ思いをもつ仲間が集まり、みんなで作り上げていくことに価値があります。そのため、利益を目的とする株式会社ではなく、理念に共感する人が集まれる一般社団法人が合っていると感じました。産後ケアという領域はまだ発展途上で、資格の整備や社会的認知も必要です。その基盤をつくる上でも、協会という形は自然でした。
――代表として印象に残っている出来事を教えてください。
忘れられないお母さんは一人ではありません。本当にたくさんの家庭が「助けてほしい」と依頼してくださり、サポートを終えると涙ながらに感謝してくださる方も多いです。
また、サポートに行った産後セラピスト自身が「私の方が癒される時間だった」と涙ながらに話してくれたことも印象的です。誰かの力になりたいと思って来てくれた人が、誰かの役に立つことでまた自分も満たされる。その循環を目の当たりにすると、この仕事を広げたいという思いが一層強くなります。
組織運営で大切にしているのは「安心できる関係性」
――セラピストの方々との関係づくりで大切にしていることは何ですか。
今、メルシーベベの訪問に携わる産後セラピストは54名います。活動の性質上、1人で訪問するケースが多いため、孤独にならないようこまめなコミュニケーションを大事にしています。
また、サポートに入る人たちは、もともと自分自身が辛い産後を経験してきた方も多いため、思いを共有し、いつでも相談できる環境づくりを心がけています。「自分が助かったから次は誰かを助けたい」という思いが自然に生まれる組織でありたいと願っています。
全国に産後ケアを届ける未来へ
――今後の展望についてお聞かせください。
まずは「産後セラピストを全国で1000人」にすることが大きな目標です。地方には支援が届きにくい地域が多く、困っている方が潜在的にたくさんいます。そうした地域にも産後ケアが当たり前に届く仕組みをつくりたいです。
また、行政との協働にも力を入れています。すでに30以上の自治体に参入していますが、長野県小諸市のように行政負担で無料訪問が実現している例を全国に広げたいと考えています。産後ケアが「特別なこと」ではなく、「当然受けられるもの」と社会が認識する未来を目指しています。
自分を整える時間が、支援の質を決める
――最後に、日々の活動の中でのリフレッシュ方法を教えてください。
日々さまざまなご家庭に寄り添う仕事だからこそ、自分自身を整える時間を大切にしています。最近は、歴史物を題材にした“講談”を楽しむことが多いです。落語のように話芸で魅せる世界なのですが、物語の背景や人物像が深く描かれていて、とても面白くて気分転換になります。
また、体を動かすことも好きで、バレーボールをすることもあります。忙しさもあり最近は思うようにできていないのですが、体を動かす時間はやはり気持ちがリセットされますね。
リフレッシュした状態でご家庭に伺うことが、より良い支援につながると感じています。

