特定非営利活動法人ここのば 代表理事 百瀬洋介氏
特定非営利活動法人ここのばは、発達障害や不登校の子どもたちを対象に、オンラインフリースクールやマインクラフトを使った個別療育を行っています。自閉症と診断された息子の子育て経験を原点に、リアルではつながりにくい子どもたちの「もう一つの居場所」をつくりたいと立ち上げられた同法人。代表の百瀬洋介さんに、事業の背景、組織運営へのこだわり、そして今後の展望について伺いました。
目次
発達障害と不登校に寄り添うオンライン支援の現在地
――現在の事業概要と特徴を教えてください。
法人としての大きな柱は、発達障害のあるお子さんや成人の方、そして保護者の支援です。その中で現在注力しているのが、不登校や発達障害の子ども向けのオンラインフリースクール「SUPER SCHOOL」と、マインクラフトを活用したオンライン個別療育「GLOBAL GAME」です。
オンラインフリースクールと個別療育は見せ方を変えてはいますが、中身はほぼ同じです。特に深刻化した不登校層の子どもたちを対象にしており、授業というより「フレンド」と呼ぶスタッフが1対1で伴走するスタイルをとっています。集団が苦手な子どもが多いため、完全マンツーマンという形にこだわっています。
――マインクラフトを使うことになった理由は何ですか。
最初は小さなきっかけでしたが、実際に活用してみると反応の良さに驚きました。好きなこと・得意なことがあると、子どもは自然に他者と関わろうとし始めます。
発達障害のある子どもは、視覚的理解や論理的思考が得意な一方で、処理速度やワーキングメモリが低いという「個人内差」が大きい傾向があります。マイクラはその得意分野を生かしやすいため、好きになりやすいんです。
「楽しい」が中心にあると、コミュニケーションの壁がぐっと下がる。そこがマイクラ活用の最大の理由です。
“自分でやったほうが早い”――起業の原点となった息子の存在
――経営者としてのキャリアの出発点を教えてください。
もともとサラリーマンとして働きながらMBAを取得しており、起業や経営はポジティブに捉えていました。ただ、本当に火がついたのは、息子が幼少期に自閉症と診断され、療育に通い始めたときです。
当時、領域の質が十分ではないと感じ、「これは自分でやったほうが早い」と思ったのが起業のきっかけでした。最初は児童発達支援事業所と放課後等デイサービスを立ち上げ、その後オンラインの領域支援に展開するようになりました。
――ターニングポイントとなった出来事はありますか。
オンラインで始めたのは、リアルのほうが良いと感じつつも、深刻な不登校の子どもはリアルの場所に行くこと自体が難しいためです。また、マーケットとしてもリアルだけでは商圏が狭くなるため、より多くの子どもに届けられるオンラインを選んだという側面もあります。
属人化させない“チーム支援”――フレンドとの関係づくり
――組織運営で大切にしていることは何ですか。
スタッフは8〜9名ほどで、子どもと関わる「フレンド」が中心です。マンツーマン体制は属人化しやすいので、そこを防ぐ仕組みづくりを徹底しています。
毎週必ず私とフレンドの1on1を設け、支援の悩みや課題を共有するほか、フレンド同士をバディにして二人一組で動く場面も増やしています。記録の共有も行い、個人の経験を組織の知見にすることを意識しています。
また、フレンド同士の雑談や交流の機会も意図的に作っています。マンツーマンゆえに抱え込みやすいので、チームとして支え合える環境づくりを重視しています。
AIを活用した“見立ての高度化”へ――これからの挑戦
――今後挑戦したい取り組みを教えてください。
オンライン支援では、お子さんの情報を正しく把握することが最も重要ですが、リアルよりも把握が難しいのが課題です。そこで、保護者向けの質問形式アセスメント「感覚プロファイル」をAIで自動分析する仕組みを開発しました。
本来、考察には専門家の時間と労力が必要ですが、それをAIで補完することで、より精度高い支援につなげられると考えています。今は試験導入中ですが、今後は感覚以外の領域にも広げていきたいです。
ゆくゆくは、企業の障害者雇用の現場に発達支援の観点を持ち込み、ジョブコーチ的な役割を担う仕組みもつくりたいと考えています。精神障害のある方の離職率の高さは大きな課題で、発達支援の知見を生かす余地が大きいと感じています。
走る・蹴る・整う――代表を支える日常のリフレッシュ
――プライベートのリフレッシュ方法を教えてください。
日常のリズムを整えるうえで欠かせないのが、定期的に行うジョギングとフットサルです。走ることで頭の中が整理され、チームプレーのあるフットサルでは純粋に体を動かす楽しさを味わえます。さらに、疲れをしっかりとるためにサウナにも通っています。汗を流して心身を“整える”この時間が、仕事のアイデアを生み出す余白にもなっており、忙しい日々の中で前向きさを取り戻す大切な習慣になっています。

