「撮る前に現場を知る」――製造業の「選ばれる理由」を見つけるツクリテラの映像制作
ツクリテラ合同会社 代表 藤田 猛士氏
奈良県生駒市を拠点に、全国の製造業を中心とした企業映像・写真制作を手がけるツクリテラ合同会社。代表の藤田猛士氏は、20年以上にわたり企業の映像制作に携わってきました。同社では、現場への丁寧なヒアリングを通じて、企業自身も気づいていない強みや価値を掘り起こし、映像や写真で伝える形にしています。本記事では、製造業の採用や情報発信をどう捉え、映像に何ができると考えているのか、藤田氏に伺いました。
目次
製造業の「見えない価値」を伝わる形にする
――事業の特徴についてお聞かせください。
奈良県生駒市を拠点に、製造業を中心として、建設業や農業など、ものづくりに携わる企業の映像・写真制作を行っています。会社紹介や製品紹介、採用、展示会、技術継承など、目的はさまざまです。映像だけでなく、ホームページやグラフィック、営業資料なども必要に応じて制作しています。
私たちが提供しているのは映像ですが、映像をつくること自体が目的ではありません。企業が持っている価値を整理し、顧客や求職者に伝わる状態にする。そのために最も適した手段として映像や写真を使う、という考え方です。
――製造業の現場を数多く見てきた中で、どのような課題を感じていますか。
現場に入ると、本当にすごい会社がたくさんあります。加工精度、特殊な設備、品質管理、長年蓄積された職人の感覚など、外からは分からない技術がある。ただ、それが社外から見えるかというと、意外と見えません。
ホームページには「高品質」「短納期」「お客様第一」と書いてあるものの、それは競合企業も同じです。「なぜ、この会社でなければならないのか」と聞かれたときに、違いが伝わらない。価値はあるのに、その価値が見える状態になっていない企業は少なくないと感じます。
これは広告だけの問題ではありません。価格を上げるときに、その加工や品質管理にどれだけの技術と手間があるのかが理解されなければ、価格だけで比較されます。採用でも、工場の中で誰がどんな仕事をし、何を大切にしているのかが見えなければ、求職者は自分が働く姿を想像できません。企業の価値を言葉と映像で整理することは、営業や採用の前提になると思っています。
採用動画で人手不足が解決するとは考えていない
――採用において、映像はどのような役割を果たせるのでしょうか。
採用動画をつくれば人が集まる、とは考えていません。採用がうまくいかない理由を、知名度や発信不足だけに求めるのは危険です。給与、休日、働き方、教育、評価、人間関係など、若い人が長く働きたいと思える職場になっているのか。まず企業自身が向き合わなければならない部分があります。職場そのものに魅力がなければ、映像で良く見せても長くは続きません。
一方で、本当に良い会社なのに、その良さが外から見えていない企業もあります。すべての人が大企業を目指しているわけではありません。地元で暮らしながら、手応えのある仕事をし、きちんと評価され、長く働きたい人もいるはずです。それでも、地域にどんな会社があり、どんな仕事ができるのかを知らなければ、選択肢には入りません。
映像は、存在しない魅力をつくるものではありません。その会社にすでにある仕事の面白さや人の魅力、働く環境を、求職者が理解できる形にするものです。採用課題のどこに映像が効くのかを見極めて使う必要があると思っています。
「何を撮るか」より先に、企業の価値を見つける
――「現場を理解してから撮る」とは、具体的にどのようなことですか。
まず工場を歩き、設備を見て、担当者の話を聞きます。ただし、最初から撮影するカットを探すのではありません。「なぜ、この工程が必要なのか」「他社とは何が違うのか」「顧客から一番評価されるのはどこか」「最も難しいのは何か」と聞いていきます。
すると、「これは普通ですよ」と言われたところに、その会社ならではのノウハウが隠れていることがあります。製造業では、毎日当たり前に行っていることほど、本人たちが価値として認識していない場合があるんです。外から現場を見る私たちが疑問を持ち、掘り下げることで、社内では言葉になっていなかった強みが見つかることがあります。
そのうえで、誰に伝えるのかを考えます。同じ技術でも、技術者に見せるのか、経営者や購買担当者に見せるのか、求職者に見せるのかで、必要な説明は変わります。何を伝えれば相手にとって価値になるのかを整理してから構成をつくり、撮影に入ります。
――企業側が気づきにくい価値とは、どのようなものでしょうか。
例えば検査工程です。企業側からすると「検査しています」で終わるかもしれません。しかし、なぜその検査を始めたのか、どの段階で行うのか、誰が何を基準に判断するのか、不良を出さないためにどんな工夫をしているのかまで聞くと、その会社の品質に対する姿勢が見えてきます。
設備も、高価な機械を持っていること自体が強みとは限りません。どんな案件に応えるために導入し、前後の工程とどう組み合わせ、どう使いこなしているのか。そこに企業ごとの違いがあります。機械を格好よく撮る前に、その設備が顧客にどんな価値を生んでいるのかを理解することが大切です。
ものづくりに惹かれた原点と、現在のチームづくり
――製造業の仕事に関心を持った原点を教えてください。
大学時代に、刀鍛冶の方に密着して写真作品をつくったことが原点の一つです。外から見れば一振りの刀ですが、現場に入ると途方もない工程があり、一つひとつに理由がある。職人の方には当たり前でも、初めて見る私にはすべてが興味深かった。今、製造業の工場に入るときも、「これは何のために行っているのだろう」というところから始まります。
私は製造業の技術者ではありません。だからこそ、分からないことを聞けます。それが結果として、その会社では当たり前になっていた価値を見つけることにつながる場合があります。
――独立後、印象に残っている出来事はありますか。
以前から独立志向があり、前職に10年間勤めた節目で退職しました。ただ、独立を決めた頃に主要取引先の再編で映像制作の主体が東京へ移り、想定していた仕事がなくなりました。
さらにコロナ禍が重なり、事務所を構えた直後に数か月間、仕事がゼロになりました。厳しいスタートでしたが、営業から制作まで自分で向き合った経験が、今の事業の土台になっています。
――パートナーとの関係で大切にしていることは何ですか。
現在は社員を抱えず、案件ごとに信頼できるクリエイターとチームを組んでいます。新しい方とは必ず話をして、技術だけでなく、好奇心があるか、お客様の現場に丁寧に向き合えるかを見ます。企業の中へ入って仕事をする以上、分からないことを素直に聞き、相手の仕事に敬意を持つことが欠かせません。
企業の課題と向き合い、価値を伝える会社へ
――今後、製造業とどのように関わっていきたいですか。
「日本のものづくりを映像で支えたい」と言えばきれいですが、製造業が抱える課題は、映像だけで解決できるものではありません。人手不足、原材料や人件費の上昇、価格転嫁、設備投資、技能継承。特に中小の製造業にとって、どれも簡単な問題ではありません。
だからこそ、私たちにできることを曖昧にしたくありません。その企業が持っている価値を見つけ、顧客や求職者が理解できる形にし、これから選ばれていくための材料をつくる。そこには映像や写真が力を発揮できます。きれいな映像を納品して終わるのではなく、営業や採用の場で本当に使えるところまで考えていきたいです。
――ツクリテラ自身も、新しい取り組みを始めていますね。
現在、製造業の企業が、自社の課題や強みを整理するための診断の仕組みを構想しています。
企業を訪問すると、明確な課題を持って相談されるとは限りません。「何が問題なのか分からない」「自社の強みをうまく説明できない」という企業も少なくありません。そこで、いくつかの質問に答えていただくことで、経営や採用、営業、情報発信などの課題を整理し、どこから手をつけるべきかを見えるようにしたいと考えています。
診断すること自体が目的ではありません。そこから、映像をつくるべきなのか、Webサイトを見直すべきなのか、あるいは先に社内で整理すべきことがあるのかを判断し、その企業に本当に必要な提案へつなげていくことが目的です。
また、生米パンをはじめとするグルテンフリー食品の商品化に向けた試作も進めています。自分たち自身が商品をつくり、価格や売り方を考える側に立つことで、「良いものをつくること」と「その価値を理解してもらうこと」の違いを、当事者として経験したいと思っています。
こうした経験も映像や写真、Webの仕事へ還元しながら、制作するだけではなく、企業の課題を整理し、価値を伝えるところまで伴走できる会社にしていきたいと考えています。