点数をつけない人事制度が、生きがいある働き方を取り戻す
生きがいラボ株式会社 代表取締役 福留 幸輔 氏
生きがいラボは、従来の人事制度の根底にある「アメとムチ」の構造や、人に点数をつけることへの違和感を出発点に、2010年から“点数をつけない”人事制度に挑み続けてきました。
本記事では代表の福留幸輔氏に現在の取り組みや経営の考え方、今後の展望について伺いました。
生きがいを高める人事制度
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
弊社は2010年に立ち上げました。事業としては一言でいうと人事制度のコンサルティングです。当時、従来型の人事制度がいわゆる「アメとムチの構造」だなと感じていたのです。良い評価を得たら良いことがある、悪い評価だったら給与が下がる、というような構造ですね。頑張った人が報われる、という考え方自体は当然だと思います。しかし、制度のつくりとして「無理やり頑張らせよう」としているように見えることに、違和感がありました。さらに、人に点数をつけるという行為そのものにも限界があるなと感じていましたし、個人的には人に点数をつけることに「おこがましい行為ではないか」という気持ちもありました。
なぜ点数が必要かというと、給与や賞与を決める根拠として人事評価による点数が求められるからです。しかし、評価項目をどれだけ増やしても、社員さんの貢献をすべて拾い上げるのは難しい。完全に拾い上げられていない点数で給与が決まる、という構造には技術的にも難しさがあると違和感も感じていました。
そこで「別の方法はないのか」と考えたのですが、結局、自分で考えてやるしかないと思ったのです。それで、点数をつけない人事制度作りにチャレンジするために生きがいラボを立ち上げました。
――業界内での強みはどのような点にありますか。
時代の流れとして、トップダウンで指示して社員さんはその通りに動く、という経営スタイルから、一人ひとりが「何ができるのか」「何をしたいのか」「何をすべきか」を考えて活動していく「自律分散型の組織運営」が求められる社会になってきていると思います。
ただ、従来型の人事制度はトップダウンの発想で構成されているので、自律分散型を目指す経営者さんほど、人事制度に違和感を持たれることが多いのです。そういう経営者さんが「どうしたらいいのか」と探していく中で弊社を見つけて問い合わせをくださる、という流れがあります。
自律分散型、あるいはティール組織のような運営を考えると、自己申告で給与を決めるという仕組みはマッチします。このような人事制度のコンサルティングを10年以上やっている会社は、少なくとも私は他に聞いたことがありませんので、オンリーワンのサービスなのかな?と思っています。
——理念やビジョンには、どんな思いが込められているのでしょうか。
経営理念は「人間の生きがいを追求する」です。「生きがいラボ」という社名も、この理念から決めました。
この理念が意味しているのは、人事制度を通して、社員さんを“働かせる”ための制度づくりはしたくない、ということです。社員さんの生きがいが高まり、それと同時に経営者さんの生きがいも高まり、組織にいる全員の生きがいがさらに高まるようなお手伝いができたら、という思いが根底にあります。
「生きがい」って、もしかしたら答えが一つではなくて、探求し続けるテーマだとも思っています。だからこそそれを追求して、再現可能な仕組みにしていくのが自分の役割なのかなと考えています。
父の背中と挑戦の決断
――経営者になられた経緯を教えてください。
経営といっても、私は一人の会社なのでフリーランスみたいなものです。
ただ、前職から独立したときに、社会にないものをやり始めるわけなので、自分が全責任を負って、自分が本当に納得のいくものを追求していきたいという気持ちがありました。それが、経営者になった一番の目的だったと思います。
——独立にあたって、不安はありましたか。
独立する3年前に長男が生まれていて、子どもが小さかったので、一番の不安は収入面でした。収入がゼロになりますからね。
あと、前職に不義理はしたくない気持ちもありまして、前職のお客様には営業を一切しない、と決めました。前職は14年勤めていたので、そこへの気持ちは大きかったですね。
ただ、それでも、人事制度をやってみたいという気持ちのほうが強くありました。「どうなるかわからないけどチャレンジしようという思いです。子どもが2〜3歳の頃でしたが「子どもが小さくて収入が不安だからチャレンジしない」という生き方を、父親としてはやりたくないなと思ったのです。私の父も、飲食業のチェーン店の店長から独立して、自分の飲食店を始めた人でしたので、そういう姿を見ていたことも影響しています。
――仕事をする上で大切にしている価値観は何でしょうか。
大きく二つあります。
一つは「誠実」であることです。損得だけではなく、誠実かどうかが判断の軸になっています。もちろん損得を考慮する必要はあると思うのですが、それよりも「誠実かどうか」です。
もう一つは「自然体で生きる」ということです。私にとってここ数年の大きなテーマで、無理せず、自分の心の声に従いながら生きていきたいという感覚があります。
この人事制度も、使い方次第では社員さんをコントロールする手段にもなり得ると思っています。仕組みの限界というか、使い手の価値観でいろんな使い方ができてしまいます。
だからこそ私は、経営者さんと社員さんがパートナーとして、お互いを尊重しながら会社を運営していく、という組織観でこの制度を使っていただきたいと思っています。もし違う使われ方になりそうだと感じたら、お断りすることもあるかもしれません。どんな世界を目指すか、どんな組織を目指すか、そこが譲れない点です。
自然体で向き合う仕事論
――組織運営で意識していることを教えてください。
会社自体は今一人でやっていますが、大きくしよう、社員を増やそうという気持ちはありません。雇用するのではなく、すでに自立している、同じ世界観や価値観を持つ仲間と一緒に、社会に価値を提供していきたいと思っています。
——お仕事をする上で、コミュニケーションで大切にされていることはありますか?
これも自然体でいることですね。
私はコンサルタントという立場で関わりますが、「専門家である自分が正しい」という気持ちがあると、慢心が出てくると思うんです。
自然体でいるというのは、役割の違いはあっても相手は独立した個人で、大切な存在で、操作したりコントロールしたりする対象ではない、という感覚です。尊重と尊敬の気持ちを持って接することを大事にしています。
提案やアドバイスをするときも、断定的・強制的な表現はしません。「違う考えはあるかもしれないけれど、私はこう考えています」と、あくまでも自分の意見としてお伝えしています。その上で、それを引き受けて実行するかどうかは、ご本人が決めることです。そこは本人の判断に任せる、というスタンスです。
納得して働ける社会へ
――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。
これからの社会は、人が人をコントロールする組織ではなく、自立した人が集まって、尊重されながら組織として活動するあり方が増えていくと思います。なぜなら、そのほうが生きがいを感じやすいからです。
そのときに、人事制度が一番のネックになるだろうと思っています。だから、人事制度の新しいあり方を社会に発信していきたい。従来型の人事制度でしっくりこない経営者さんが「こういうやり方もあるんだ」と選択肢として認知できるよう、情報発信をしっかりやっていきます。
また、人事制度に限らず、組織開発や人材開発の領域で同じ世界観で活動している方が周りにたくさんいるので、そういう方々と一緒に、新しい社会のあり方を探求して発信していけたらと思っています。
給与は、社員さんの人生にとって大きな要素で、いろんな感情の源泉にもなります。不満なども含めて、感情が揺さぶられるテーマです。それを会社が社員さんの知らないところで決めてしまう構造は、私は民主的ではないと感じています。選挙権も、昔は性別や納税額、身分で制限がありましたが、今は一定年齢以上なら誰でも持つのが当たり前です。社員さんが給与を自己申告することも、いずれ当たり前の世界になればいいなと思っています。
自分の人生をしっかり設計して、会社と相談しながら、自分の働き方を本人が最終的に意思決定していく。納得しながら働ける社会になればいい。そう感じています。
父の背中と志の原点
——尊敬する方はいますか?
父親ですね。父は50歳を過ぎてから独立して自分の店を持ったのですが、その年齢で始める勇気を、子どもながらに感じていました。それを支えた母と合わせて、誇らしい気持ちがあります。
あとは司馬遼太郎さんの小説が好きで、『竜馬がゆく』が好きです。フィクションの部分はあると思いますが、小説の中の坂本龍馬の生き方や言葉に共感するところがあります。「人おのおのが志を遂げられる世の中にしたいものだな」という言葉が印象に残っています。
――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。
家族と過ごすのが楽しみですね。あとはガッツリではないのですが、趣味でドラムもやっています。
——経営以外で情熱を持って取り組んでいることはありますか?
国際キャンプの団体で、関西支部の副支部長をやっています。ボランティアですね。いろんな国から子どもたちが集まってキャンプをし、国境を越えた友情関係を育むことで、世の中から戦争がなくなったらいいよね、という理念の団体です。この理念に共感していて、仕事の次に力を入れています。