60歳からの挑戦が生んだ一杯――花園クラフトが描く、スポーツとクラフトビールの未来

花園クラフト 代表 高橋 伸介氏

クラフトビールの醸造を手がける花園クラフトは、花園ラグビー場のほど近くで、「スポーツとビール」を軸にした店づくりを行っています。20リットルから200リットルという小規模な醸造設備を活かし、「おいしいと言ってもらえるビール」と「来た人が笑顔になれる場所」を目指して事業を展開してきました。60歳で会社員生活を終え、新たな挑戦として立ち上げた花園クラフト。本記事では、創業から約1年半を迎えた現在の取り組みや、事業に込めた思い、そしてこれからの展望について、代表の高橋伸介氏にお話を伺いました。

事業の軸は「おいしさ」と「笑顔」――花園クラフトの現在地

――まず、御社の事業内容について、代表のお言葉で教えてください。

弊社は、クラフトビールを醸造している、いわゆるマイクロブルワリーです。本当に小さな工場の中でビールを作っていまして、容量としては20リットルのテストバッチと、200リットルのタンク、この2種類を使って醸造しています。

これまでクラフトビールや地ビールは、珍しさで飲まれることはあっても、「すごくおいしい」と感じてもらえないこともあったと思います。そうした中で、私は「ちゃんとおいしいと言ってもらえるビールを作りたい」という思いを大切にしてきました。

――花園クラフト立ち上げの背景と、店名の由来について教えてください。

私は東京で1年間ビール醸造を学び、銀座のお店で実際にビールを作らせてもらい、高い評価をいただきました。その後、大阪・中津で約2年間、醸造の手伝いを経験しています。60歳の定年を迎えたことをきっかけに、新たな仕事として立ち上げたのが花園クラフトです。

店名は、高校ラグビーの聖地である花園ラグビー場のすぐ近くに店を構えたことに由来しています。「スポーツとビール」をコンセプトに、試合を観ながら楽しんでもらえる場所を目指しています。

――現在のお店の雰囲気や、お客様の特徴についてはいかがでしょうか。

当初はスポーツマンの方が多く来られると思っていましたが、実際にはサポーターの方や、チームのフロント、コーチの方々が多い印象です。今の選手は体調管理を徹底されている方が多いですね。

店内には50型のテレビを2台設置し、ラグビーやサッカーの試合をリアルタイムで放映しています。天候の影響で現地観戦が難しい方や、試合後に振り返りたい方が集まり、ビールを飲みながらワイワイと楽しんでいただける、そんな空間になっています。

定年をきっかけに選んだ経営の道――印象に残る経験と手応え

――会社を立ち上げ、経営の道に進まれた一番の動機について教えてください。

創業前は会社員として、ビールづくりの現場で経験を積んでいました。そうした中で、60歳の定年を迎えたことが一つの大きな節目になりました。これまで学んできたこと、培ってきた技術を、自分自身の責任で形にしていきたい。そう考えたことが、経営という道を選んだきっかけです。

新たに仕事を立ち上げることに対して、不安がなかったわけではありませんが、これまでの経験を活かせる分野で挑戦したいという思いが背中を押しました。

――創業から約1年半を振り返って、特に印象に残っている出来事はありますか。

印象に残っているのは、店舗営業だけでなく、イベント出店の経験です。花園ラグビー場では、FC大阪というサッカーチームがホーム試合を行う際、スタジアム周辺でテントを出してビールを販売させていただいています。

スポーツの熱気の中で、多くの方に花園クラフトのビールを手に取ってもらえることは、大きなやりがいにつながっています。

――特に手応えを感じた場面はどのようなところでしょうか。

もう一つ強く印象に残っているのが、百貨店での路面販売です。普段は店舗に来られない方や、海外から来られたインバウンドの方、さらに年配の方まで、幅広い層にビールを飲んでいただきました。

その場で「おいしい」と言ってもらえる機会が多く、結果として売り上げ面でも、その場に並んだ店舗の中で一番になったという経験は、大きな自信になりました。花園クラフトのビールが、場所や年齢を問わず受け入れてもらえることを実感できた出来事だったと思います。

家族三人で支える、等身大の組織運営

――現在の組織体制について教えてください。

今のところ、本当に小さな体制で事業を行っています。いわゆる家族経営で、私と妻、そして息子の三人だけです。社員やパート、業務委託の方はおらず、製造から販売、店舗運営、イベント対応まで、すべてを家族で担っています。人数は少ないですが、その分、一つひとつの仕事にしっかり目が行き届く体制だと感じています。

――少人数で事業を回すうえで、意識していることはありますか。

人数が限られているので、役割を細かく固定するというよりも、その時々で必要なことを協力しながら進めています。ビールの製造、店舗での接客、イベント出店など、状況に応じて柔軟に動くことを大切にしています。

家族で運営しているからこそ、日々の変化や小さな課題もすぐに共有でき、判断や意思決定もスピーディーです。思ったことをその場で話し合い、すぐに次の行動につなげられる点は、この体制ならではの強みだと思っています。まだ発展途上ではありますが、今の規模だからこそできる動き方があると実感しています。

――今後、組織として広げていく考えはありますか。

現時点では、まず足元をしっかり固めることを最優先にしています。事業としての基盤を安定させたうえで、将来的には工場の拡大や、人の広がりも視野に入れていきたいと考えています。無理に急ぐのではなく、今の体制でできることを一つずつ積み重ねながら、次の段階へ進んでいきたいですね。

ECとBtoBを軸に描く、これからの成長戦略

――今後、力を入れていきたい取り組みについて教えてください。

一つはBtoBです。樽販売やケース販売など、年間を通してある程度決まった量を取引できる卸先を模索しています。酒屋さんや居酒屋さん、企業のイベントなどで使っていただける形を目指しています。

当社は20リットルと200リットルのタンクを使っており、比較的小規模でのOEM展開が可能です。味や色、アルコール度数、香りなど、ご希望に沿ったビールを作り、ラベルも自由にデザインしていただく形を考えています。

――BtoC、EC販売についてはいかがでしょうか。

現在は自社ECサイトで、2種類のビールを販売しています。まだ準備段階ではありますが、今後は種類を増やしたり、ビールと関連アイテムを組み合わせたセット販売も検討しています。

また、映画作品とのコラボレーションとして、映画の広告のようなラベルを作り、マニア向けに販売する構想も進めています。少量ロットでオリジナルビールを作れる点を活かした展開です。

――業界全体の流れについては、どう見ていますか。

大手メーカーが「クラフトビール」という言葉を前面に出していることで、クラフトビール自体の認知は広がっていると感じています。また、税制の変化により、今後はより自由な挑戦がしやすくなるのではないかと考えています。

3年後の目標としては、現在の規模から数倍の成長を目指していますが、そのためには平日と休日の差を埋めることが課題です。ECやBtoBを強化することで、安定した事業基盤を作っていきたいと考えています。

仕事が趣味、そして次の世代へ――60歳から続く挑戦のかたち

――お休みの日は、どのように過ごされていますか。

もともとビールを作ること自体が趣味のようなところから始まっているので、休日も工場に入って、次はどんなビールを作ろうかと考えたり、仕込み途中の状態をチェックしたりしています。新しいビールを作るために、材料をどう使うかを考えている時間も多いですね。

仕事以外のリフレッシュとしては、映画や映像作品を観ることが好きです。AmazonプライムやNetflixなどで、自分が興味を持った作品を観て過ごしています。映像が好きという点は、映画作品とのラベルコラボといった取り組みにもつながっていて、振り返ってみると、趣味がそのまま仕事になっている部分もあると感じます。

――今後、会社をどのような存在にしていきたいと考えていますか。

まずは足場をしっかり固めることが大前提ですが、その先には工場の拡大や、技術を広げていくことを考えています。すでに他地域での技術協力や、醸造を学びに来られる方との取り組みも始まっています。

単に作れば売れるという考え方ではなく、確かな技術と姿勢を持ったクラフトビールを広げていく。そのための学びや場づくりにも挑戦していきたいと思っています。年齢的にも、ずっと最前線で製造を続けるわけにはいかないからこそ、次につながる形を作っていきたいですね。

――息子さんへの事業承継については、どのようにお考えですか。

できるだけスムーズにバトンタッチできるようにしていきたいと考えています。自分がずっと現場の最前線に立ち続けるのではなく、次の世代につながる形を意識していきたいですね。

――最後に、これから起業を考えている方や、中小企業の経営者の方へメッセージをお願いします。

私にとって60歳は「終わり」ではなく、やりたいことに挑戦するセカンドライフのスタートでした。年齢に関係なく、新しい一歩を踏み出すのは決して遅くありません。準備は大切ですが、自分のやりたいことを選び、社会との接点を持ち続けることが、前向きな力になると感じています。これからもクラフトビールづくりを通じて挑戦を続けていきたいです。

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