小さな組織に、メディアの力を――スパロウテイル及川氏が描く「一気通貫」の支え方
株式会社スパロウテイル 代表取締役 及川 正雄氏
広告やメディアの力は、本来「大きな予算がある企業」だけのものではありません。むしろ、予算も人手も限られる小規模な飲食店や商業団体、個人で活動する方にこそ、伝える手段としてのメディアは大きな可能性を持っています。株式会社スパロウテイル代表の及川正雄氏は、企画から撮影・編集・活用までを一気通貫で支えることで、「小さく使ってみたい」ニーズに応えようとしてきました。地域の活動に深く入り、さらにVRコンテンツにも挑戦する今、何を軸に、どんな未来を描いているのか。その背景と展望をうかがいました。
目次
小規模な挑戦を支える――メディアを「使える力」に変える事業
――現在取り組まれている事業内容や特徴について教えてください。
私が現在行っているのは、撮影や編集を起点に、印刷物やサイネージなども含めて「撮って、編集して、使っていく」流れを支える仕事です。
その中では出張撮影が主な割合を占めています。
実際に多いケースとしては企業のウェブ素材や広報向けの撮影(オフィスや社員の方々等)、各種プロモーション(商品やサービスの紹介等)、書籍や雑誌の写真、プロフィール・オーディション向け写真、学会や講演会、展示会やコンサート、各種イベントの写真・映像記録やライブ配信等になります。
事業の柱として取り組んでいるのは自社での一気通貫の対応です。
広告やメディアの活用は、大きな力を持つと感じていますが、現実には大規模な施策を打てる企業ばかりではありません。
特に、小さな飲食店や個人店、小規模な商業団体、組合のような予算が限られている組織ほど「メディアを使ってみたいけれど、どこから手を付ければいいか分からない」という状態になりやすいと思います。代理店に頼む場合、撮影はこの会社、印刷はこの会社、サイネージ運用はこの会社……と分かれていくと、どうしても時間や費用の規模が大きくなり、負担が重くなるからです。
そこで私は、小さい会社だからこそ、限られた予算の中でも一気通貫で対応できる形を大切にしてきました。小規模な組織や個人で活動されている方、または大きな企業や団体でも実験的に行うプロジェクトなど人手や予算が限られる場面でも、メディアの力を「手が届く形」で活用できるようにする――それが、事業としての出発点であり、今も中心にある考え方です。
「好き」と「確信」を軸に――伝わる瞬間を増やしたい
――及川さんがこの道に進まれたきっかけを教えてください。
きっかけは、前職のメディア活動において、メディアがモチベーションの向上、反応や売り上げの伸びに直結していく場面を見ていたことです。見てくれる方の数が変わる、反応が大きく伸びる、メディアを活用することでモチベーションも大きく上がる――その力を「もっと身近にできたらいいな」と感じるようになりました。
もう一つは、純粋に写真や映像、編集が好きだったことです。例えばドキュメント一つとっても数値だけよりグラフなどビジュアルがあることで伝わりやすくなる場面がありますよね。写真や映像は、直接的に「おお!」と伝わる力がある。そういう感覚が、私にとってはとても大きかったです。
趣味としても撮影は続けていて、コンテストに応募したり、野生動物の写真を撮ったりしていました。自分が提供でき喜んでもらえる、何か人の力になれるものを考えた結果、今の仕事の道を選択しました。
どこかに所属して大きく動くより、最初に大切にしたかった「小規模に最初から最後まで寄り添う」という軸を守るには、まずは一人で立ち上げるのが良いだろうと思ったのも、今につながっています。
やりたいことを聞き切る――予算と状況から「できる」を探す
――経営判断の軸になっている価値観や信念は何でしょうか。
私が向き合うお客さまは、広報担当がいるような体制を持つ組織ばかりではありません。例えば小規模な飲食店であれば、経営者であり、料理人であり、広報も経理も営業も全部一人で担っている、ということも珍しくありません。商業団体や組合でも少人数でいくつもの役割を兼ねているケースがあります。
だからこそ、まずは「何をやりたいのか」をきっちりヒアリングすることが大事だと思っています。予算も含めて状況に応じた現実があります。その中で、できることを探していく。「それは無理ですね」で終わらせずに、やりたいことに対して、予算や関われる力も含めて1から聞いて、できる形に落としていく。この姿勢が、今の仕事の心情であり、軸になっています。
地域に深く入る――北千住400周年と、もう一つの転機
――これまでのキャリアでターニングポイントになった出来事はありますか。
ターニングポイントとして挙げるなら、昨年から地域の活動に更に関わり始めたことです。地元が足立区で、地域の活動をもっと増やして地域活性化に貢献していきたいと考えていました。
昨年は、地元である足立区の北千住が宿場町としてできてから400周年という節目で、記念事業がいろいろ行われていました。そこに登録制の応援企業の枠があり、手を挙げて関わり始めたんです。信用金庫との面談の際に「地元でいま求められていること」を聞いたり、地域のイベントに関わったりしました。銭湯のペンキ絵を野外で描くライブイベントで、撮影とライブ配信を担当したこともありました。
さらにもう一つ、協力パートナー企業と一緒に並行して動き始めたのがVRのコンテンツづくりです。高齢者施設で自由に出かけられない方向けに、VRを通して散歩・旅行した気分になれるような内容をつくってみたり、職員向けに認知症の世界がどう見えるのかを疑似体験できるコンテンツを作成しています。介護施設の職員や専門学校の学生の研修等に活用できないかという方向性も含めて、昨年から新しい軸として動き始めました。
ビッグサイトで行われる展示会に、協力パートナー企業と一緒に出展する予定もあり、このような新しい技術・社会的意義のあるコンテンツ作りにも向き合っていきたいと考えています。
当事者意識でつながる――一人の体制だからこそ大切にしたいこと
――現在の組織体制について教えてください。
現状、正式な社員は私一人です。仕事のタイミングによっては、アルバイト的に少し手伝っていただくことはありますし、同業の方に声をかけて連携することもあります。ただ、基本は一人で回しています。
もし今後、社員として他の方と一緒にやっていくことになるなら、役割を完全に区切って「そこは聞いていませんでした」と分断が起きる形は、会社のスタイルとして合わないと思っています。
特別な能力というより、当事者意識を持って、相手のことを広く考えられること。相手の話をきちんと聞いて、全体として何が必要かを捉えられること。そういう姿勢を大切にしたいです。
待つだけから一歩――VRと地域で「役に立つ」を増やす挑戦
――今後の展望として、取り組んでいきたいことは何でしょうか。
コンテンツの制作です。例えばいま取り組んでいるVR自体は技術的に極端に新しいものではないが、視聴側でVR機器が必要な制約があり、活用方法が十分に広がっていないとも感じています。通常の映像に比べその場にいるかのような体験が味わえる特徴があり、エンターテイメントに振った使い方が多いのは自然ですが、それだけではない可能性があると思っています。
例えば、出かけられない方が「出かけた気分」になれる。認知症の世界を疑似体験することで、施設で働く方、看護学生の方などの気づきや学びにつながる。人の助け合いやお互いの立場を考えることにつながる方向にも可能性がある。そのためのレクリエーションコンテンツや研修の形を、今年は取り組んでみたいです。
もちろんVRは一つの選択肢でありVRに拘らず、コンテンツに溢れる時代の中で意義のあるコンテンツの制作に様々な形で挑戦できればとおもっています
同時に、地域の活動もさらに深めたいと思っています。写真や映像、印刷物、店舗のメニュー、店頭サイネージ、展示会やイベントの対応まで、一気通貫をより増やしていく。それで終わりではなく、1サイクル回したら、もう1サイクル何か試してみる。小さい単位で長く付き合い、それが横につながっていきお客様同士が何か協業やコラボしていく、その繋がりが何か新しいものを生み出すことが地域の良さだと思うので、そこに根ざし、関わっていく活動を進めたいです。
一方で課題もあります。出張撮影が中心の仕事だと、企業イベントや記念行事、展示会、入社式のように「需要が先にあるタイミング」で声がかかることが多い。今は自分から営業をかける流れをほとんど取っていません。ところが、地域に根ざす活動やVRコンテンツを研修に役立ててもらうといった取り組みは、「待つ」よりも「こちらから声をかける」必要が出てきます。
ただ、必要ないときに押し売りをしても意味がありません。そのさじ加減をどうつくるか。今の仕事のスタイルと違う動きをどう身につけるか。ここは大きな課題だと感じています。
自然にほどける時間――旅と生き物がくれる「美しさ」
――お休みの日の過ごし方や、リフレッシュ方法を教えてください。
旅行が好きです。新しい発見がありますし、海や山など自然の景色に触れる時間は、気持ちが整う感覚があります。生き物も好きで、バードウォッチングをしたり、鳥の写真を撮ったりすることもあります。虫でも動物でも植物でも、生き物全般に惹かれますね。
そういう野生生物の、生き生きとした姿には「ただ生きているものの美しさ」があると思います。直接事業に結びつくわけではないとしても、そこでハッとする瞬間があって、自分の感覚が整う。結果的に、人に対しても「親切でありたい」「気持ちよくありたい」と思えることにつながっている気がします。
小さな組織や地域の活動に寄り添いながら、VRのような新しい可能性にも手を伸ばしていく。派手さよりも「役に立つ」を積み重ねて、必要なときに頼られる存在でありたい――そんな姿勢で、これからも一歩ずつ形にしていきたいと思います。