タンザニアの母子に“必要なときに必要な支援”を――MomNestが描くスマホ発のヘルスケアコミュニティ
一般社団法人MomNest 代表理事 鈴木南美氏
タンザニアで、妊娠中の女性や小さな子どもを育てる母親が使えるスマートフォンアプリを開発する一般社団法人MomNest。アプリを通じて医師や助産師と24時間テキストでつながれる仕組みや、妊娠・出産・子育てに必要な知識を届ける教育コンテンツを提供し、母子の健康課題に向き合っています。その立ち上げの背景には、現地の医療現場で見えた「お母さん自身の行動変容」の重要性がありました。代表理事の鈴木南美氏に、事業の特徴や組織づくり、今後の展望を伺いました。
目次
母親が“直接使える”支援の形を、アプリで届ける
――まず、事業内容について教えてください。
タンザニアで、妊娠中の女性と小さな子どもを育てているお母さんが使えるスマートフォンアプリを開発しています。アプリの主な機能は大きく二つあります。一つは、医師や助産師などの医療従事者と24時間テキストで気軽にコミュニケーションが取れること。もう一つは、妊娠・出産・子育ての各段階で、必要なときに必要な情報にアクセスできるように、注意点や栄養、子どもや母親自身の体の変化などを教育コンテンツとして届けることです。
――この事業を始めたきっかけは何だったのでしょうか。
新卒でIT企業に勤めていたとき、大学の先生から「タンザニアで助産師向けの教育アプリを作りたい」というプロジェクトの相談を受けたことがありました。タンザニアでは妊産婦死亡が大きな社会課題になっていて、助産師の質をどう高めていくかという課題意識のもと、教育アプリの開発に着目されていたんです。
実際に担当者として現地の病院を訪れ、医師や助産師、お母さんたちと話す機会がありました。その中で、助産師のスキルアップはもちろん大切ですが、お母さん自身の行動変容を支える仕組みも重要なのではないかと感じたんです。
スマートフォンを持っているお母さんは多い。だったら、医療者側の支援だけでなく、お母さんが直接使えるホットラインのような仕組みがあったらいいのではないか。そう考えたことが、創業のきっかけになりました。
――他社と比べた強みはどこにありますか。
コンテンツは全部スワヒリ語で作っています。長い文章を読むことに抵抗があるお母さんも多いので、音声で再生できるようにしていますし、オフラインでも使えるようにしています。日本のように通信環境が整っていない地域でも使えるよう、シンプルで直感的に操作できる設計にしていることが特徴だと思います。
――現地からのフィードバックはいかがですか。
反応はいいですね。お母さんたちや医療従事者の方に話すと、「そういうものが欲しかった」という声をいただくことが多いです。医療者の方々も課題認識はあるのですが、とにかく忙しい。医療従事者の数が限られている中で、日々の診療業務だけで手いっぱいで、お母さんたちへのケアや教育まで十分に手が回らないという状況があります。そのため、どうしても最低限の対応になってしまうこともある。アプリがそうした今足りていない部分を補完することで、医療者にとっても、お母さんたちにとってもメリットのある形を目指しています。
“雇用”と“コミュニティ”で広がる仕組みをつくりたい
――今後実現したい夢や目標を教えてください。
お母さんたちを雇っていきたいと思っています。女性自身が、たとえ小さくても自分でお金を稼げるようになることが、家庭の生活や健康を変える力になると思っているからです。例えば、アプリを広めることで報酬が発生するような仕組みを作りたい。使ってみて良かった人が近所のお母さん仲間に紹介し、少し報酬が入るような形です。そうやって、お母さん同士が支え合うオンラインのコミュニティを作っていきたいと思っています。
将来的には、ユーザー数が増えて、毎日1万人、10万人が使ってくれるようなアプリになれば、メディア事業のような展開もできると思っています。まずはユーザー数を増やし、長期的には「タンザニアで20〜30代の女性が自然と目を通すメディア」に育てていきたいと考えています。
ターニングポイントは「今すぐお金にならなくても、やる」と決めた瞬間
――これまでのキャリアでターニングポイントだった出来事はありますか。
最初の会社でアプリのプロジェクトに関わったあと、一度その仕事から離れて、別の仕事をしていた時期がありました。ただ、それでも「タンザニアでお母さん向けのアプリを作りたい」という気持ちはずっと心の中にあったんです。でも、すぐにお金になる話ではありません。事業として大きくできれば収益性も見込めると思う一方で、そこにたどり着くまでには数年かかる。そうしたビジネスとしての難しさもあって、なかなか踏み出せずにいた時期がありました。
そんなときに、「まずはできる範囲でやってみようかな」と思ったんです。今すぐお金にならなくても、自分が意味のあることだと思えるならやってみよう、と。特別に大きな出来事があったわけではないのですが、別の仕事を1年ほど続ける中で気持ちが整理されて、「やっぱり自分がやりたいのはこれだ」と思えた。その瞬間が、私にとってのターニングポイントだったと思います。
現地の主体性を育てるために、“一緒に決める”を増やす
――社内コミュニケーションで意識していることは。
タンザニアのメンバーとは、定期的に顔を合わせて話し合うようにしています。私は普段タンザニアにいるわけではなく、2〜3ヶ月に1回ほどしか行けないのですが、それでも週に1回は必ずビデオをオンにしたミーティングをしています。現地に行ったときには、その後の3ヶ月のプランを、メンバーと一緒に話しながら決めるようにしています。
――一緒に働く上で、文化の違いを感じたことはありますか。
日本人は行間を読むとか、言葉の裏をくみ取ることが得意な人が多いと思います。でも、それが他の国の人たちにはなかなか伝わらないこともある。なので、なるべくはっきり伝えること、曖昧な表現をしないことは意識しています。組織の中での立場も明確にしています。年上の方であっても、社会的に立場のある方であっても、この組織では私が意思決定者なので、そこは最初にはっきりさせます。
それから、私たちは日本からNGOとして来ているので、「お金をくれる人」と思われたくないんです。お給料は施しではなく、何かをしたことに対する対価。その意識は大切にしています。ただ、これまでの環境の中で「持っている人が持っていない人に与えるのが当たり前」という考え方が強い地域もあります。そうした背景から、「日本は裕福な国だから支援してくれる存在」と受け止められてしまうこともあるのかな、と感じることもあります。
だからこそ、現地スタッフを雇い、何かをした見返りとしてお金を受け取る経験を増やしたいと思っています。与えられるばかりでは成長につながらないと思うので、タスクを担い、その対価として報酬を受け取るという感覚を育てていきたいと考えています。
ドバイを拠点にしながら、複数の仕事で挑戦を続ける
――鈴木さんご自身についても伺いたいです。現在はドバイを拠点にされているそうですね。
はい。私はドバイに住みながら、タンザニアでの活動も行っています。ドバイからタンザニアまでは飛行機で約5時間ほどで、時差も1時間です。フリーランスとして働いているので、時間や場所の制約が比較的少なく、2〜3ヶ月に1〜2週間ほどタンザニアに滞在することもできています。
――経営以外で情熱を持って取り組んでいることはありますか。
ドバイではフリーランスとして、日本企業のビジネス代行の仕事にも取り組んでいて、そちらにも真剣に向き合っています。仕事をしていると、新しいつながりが生まれたり、「こんなこともお願いできませんか?」と別の仕事につながることも多いんです。そうやって少しずつできることが広がっていくのが面白くて、これからも求めてくださる方のお役に立てる形で続けていきたいと思っています。
――お休みの日のリフレッシュ方法も教えてください。
特に決まったものがあるわけではないのですが、お酒を飲んで楽しむことが多いですね。友人と飲むこともありますし、仕事で知り合った方と飲みに行くこともあります。