人と人が交わる場所をつくる──“帰ってきたくなる宿”が紡ぐコミュニティのかたち

SoundsNiceJapan合同会社 代表 ルーカス幸絵 氏

人と人とのつながりが希薄になりつつある現代において、「帰ってこられる場所」をつくり続けているSoundsNiceJapan合同会社。民泊事業を軸に、異文化交流や地域コミュニティの形成に取り組んでいます。本記事では、代表のルーカス幸絵氏に、事業の現状やこれまでの歩み、今後の展望について伺いました。

山奥の古民家で暮らしを分かち合う民泊という選択

――現在の事業内容や特徴について教えてください。

うちは山の奥にある古民家で民泊を運営しています。14年から15年ほど続けてきた事業で、単に宿泊場所を提供するのではなく、「一緒に暮らす」ことを大切にしているのが特徴です。私たち自身もその場で生活しているので、滞在というよりは生活の共有に近い形になります。

来られる方は外国人も日本人もいて、国籍はさまざまです。一緒に食事をしたり、それぞれの国の文化や暮らしについて話したりする中で、自然と交流が生まれていきます。テレビも置いていないので、人と向き合う時間が増える環境です。

また、ヤギやニワトリを飼い、畑で野菜を育てるなど、自然と触れ合う暮らしも提供しています。星を見たり、焚き火をしたりと、都会では得られない体験が日常の中にある。その中で、自分自身と向き合う時間を持ってもらうことも価値の一つだと感じています。携帯がつながりにくい環境だからこそ、目の前の人や時間にしっかり向き合えるという声をいただくことも多く、日常から少し離れることで見えるものがあると感じています。

――ターゲットとなるお客様はどのような方ですか。

外国人の方と、日本の都会に住んでいる方が中心です。あとはペットを連れて来られる方もいらっしゃいます。宿泊日数も1泊から1週間まで本当に幅広く、それぞれのスタイルで滞在されています。

特に都会に住んでいる方は、自然に触れる機会や人との距離が近い環境を求めて来られることが多く、日常とは違う時間を過ごしたいというニーズを感じています。

海外の方は日本のリアルな暮らしを体験したいという思いが強く、観光とは違う滞在を楽しんでいただいていますね。

火災という転機を越えても続けたかった人と人をつなぐ場

――この事業を始めたきっかけを教えてください。

もともとは大阪で暮らしていて、田舎に対して強い憧れがあったわけではありません。どちらかというと不便そうだと思っていました。ただ、イギリス人の夫の影響は大きかったです。彼は田舎で育っていて、自分で野菜を作る生活が当たり前だったので、その価値観に触れていく中で考え方が変わっていきました。

最初は抵抗もありましたが、実際に住んでみると空気のきれいさや環境の豊かさに気づいて、気持ちが楽になっていく感覚がありました。帰ってくる場所としての心地よさを感じるようになったことが大きな転機です。

――印象的だった出来事はありますか。

2024年11月に火事がありました。原因はお客様が持ち込んだ変圧器と延長コードで、電気の容量を超えてしまったことでした。古い家ということもあり、うまく対応できなかった部分があったと思います。

そのときはお客様も動物もいる中で、何とかしなければと思って動いていたら煙を吸ってしまい、そのまま入院しました。ただ、誰も命に関わるような怪我がなかったことは本当に救いでした。

再建には保険以上の費用がかかりましたが、この場所をなくしたくないという思いが強く、続ける決断をしました。人と人の関係をつくる場だからこそ、簡単には手放せないと感じています。

夫婦二人で営む距離の近い運営と地域に溶け込む関係性

――組織体制や働き方について教えてください。

会社としては私と夫の2人で運営しています。民泊事業については、ほぼ私が中心になって動いている形です。規模としては小さいですが、その分お客様との距離が近く、一人ひとりとしっかり関われる環境だと思っています。

また、地域の方との関係も大切にしています。例えば、野菜が採れたら近所の方に渡して、その代わりに別のものをいただくといったやり取りもあります。昔ながらのつながりが自然と残っている環境です。

――コミュニケーションで意識していることはありますか。

言葉にして伝えることを大事にしています。日本では我慢することが美徳とされる場面もありますが、それだけでは伝わらないことも多いと感じています。思っていることをきちんと伝えることで、相手も理解してくれて、結果として助け合いにつながることが多いです。

お客様との関係も同じで、ただ受け入れるだけでなく、一緒に時間を過ごす中で関係性が深まっていきます。そうした積み重ねが、この場所の価値になっていると感じています。

日本文化と体験を広げるクラフトビールと食育への挑戦

――今後の展望について教えてください。

まず、日本の文化をもっと伝えていきたいと考えています。着物やお茶、農業など、日本には魅力的なものがたくさんあります。うちでは無農薬でお米を手作業で育てているのですが、そういった体験も含めて広げていきたいですね。

また、クラフトビールの事業にも挑戦したいと思っています。現在は材料や機材の販売などに関わっていますが、将来的には自分たちのビールをつくることを目標にしています。設備投資が大きいため時間はかかりますが、実現したいことの一つです。

――新たに取り組みたいことはありますか。

子ども向けの食育にも取り組みたいと考えています。料理やお茶の入れ方、英語などを組み合わせて学べる場をつくりたいです。都会の子どもたちは、急須でお茶を入れたことがない子もいるので、そういった体験を届けたいと思っています。

単に知識として学ぶのではなく、実際に手を動かしながら体験することで、食や文化への理解が深まると感じています。そうした積み重ねが、自分で考えて選択できる力にもつながっていくのではないかと思っています。

民泊という枠を超えて、学びや体験の場として広げていくことが今後の方向性です。

自然とともに整う日常と可能性を信じて進む姿勢

――普段のリフレッシュ方法について教えてください。

ヨガをしたり、料理を勉強したりすることが多いですね。あとはヤギを飼っているので、一緒に過ごす時間も欠かせません。ヤギはすごく賢くて、触れ合っていると不思議と気持ちが落ち着いていくんです。

日常の中に自然があることで、無理にリフレッシュしようとしなくても整っていく感覚があって、それが自分にとってちょうどいいバランスになっています。

――最後に、これから挑戦する方へメッセージをお願いします。

これまでいろいろな仕事をしてきましたが、振り返るとすべてつながっていると感じています。そのときは意味がわからなくても、後から必ず活きてくるものがあります。

だからこそ、途中でやめてしまうのではなく、どう活かせるかを考えて続けてほしいです。できない理由を見るのではなく、できる可能性を見ることが大切だと思います。

火事のときもそうでしたが、前を向いていれば道はつながっていきます。諦めずに進むことで、見える景色は変わっていく。そういう姿勢で取り組んでほしいと思います。

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