声で物語を届け、人と人の心をつなぐ朗読の力

NPO法人声物園 理事長 吉川雅子氏

NPO法人声物園は、朗読を通じて物語に触れる機会を広げ、人と人の心をつなぐ活動に取り組んでいます。読むこと、聞くこと、表現することを通じて、子どもから大人までがさまざまな人生や思いに触れられる場をつくってきました。今回は、理事長の吉川雅子氏に、活動に込める思いや今後の展望について伺いました。

物語の力で人の心を育む

――現在の活動内容や、大切にしている理念について教えてください。

NPO法人声物園では、物語を聞くこと、読むことを通して、多くの方にさまざまな物語に触れていただく活動をしています。今の社会では、人と人とのつながりが昔に比べて希薄になっているように感じています。特にコロナ禍を経て、人との接触が減った中で、他者の思いや人生に触れる機会が大人も子どもも少なくなっているのではないかと思います。物語に触れることで、現実社会の中でも「こういう考え方をする人もいる」「こういう思いを抱えている人もいる」と感じられるようになります。それが、人の心を少し優しくしたり、視野を広げたりすることにつながると考えています。

また、会員には、俳優やナレーターや声優、朗読愛好家もいますので、朗読公演をしたり、講座を開いたり、音声制作をしたり、朗読コンテストを開催したりと様々な活動をしています。そして、もっともっとこの活動を広めていきたいです。

――朗読劇とはどういったものなのでしょうか。

朗読というと、硬い、真面目、眠くなってしまいそうという印象を持たれることもありますが、物語の世界を楽しみ、感じてもらうためには、聞く方にとって分かりやすい形も大切です。複数人で読み分けをすることで、登場人物の声の違いが伝わりやすくなります。演劇を見ているようで分かりやすい、楽しいと言っていただくことも多いです。子ども向けの教科書に掲載されるような物語だけでなく、大人に向けた時代物の公演なども、基本的には朗読劇として届けています。

朗読を通じた心の居場所づくり

――団体が立ち上がった経緯を教えてください。

もともと朗読活動を続けてきた仲間たちと、朗読で社会に貢献できる団体をつくろうと考えたことが、声物園を立ち上げたきっかけです。朗読を聞いてもらう、実際にやってもらう、表現する喜びを感じてもらうことを大切にしています。

私はもともと日本語教師をしていました。読むことが好きだったこともあり、ナレーションの勉強を始めたのですが、その周りには声優、ナレーター、俳優など、声や表現に関わる人たちが多くいました。

その後、ラジオパーソナリティやナレーションの仕事をするようになり、物語を伝えることにも関わるようになりました。本を読むことが好きだったこともあり、そこから朗読に熱心に取り組むようになっていきました。

――活動を続けていく中での課題はどのあたりにありますか?

朗読をそのまま収益につなげることは、正直なところ簡単ではありません。だからこそ、朗読を一つのツールとして、皆さんの心が豊かになることに役立てられたらいいと考えるようになりました。芸術文化は、かける時間や労力に対して、必ずしも十分な収入につながるものではありません。しかし、私たちの社会で人の心を育てる、良好な人間関係を維持する心を持てるようにするために必要なことだと思います。だからこそ、企業のCSRなども含めて、社会の中でこうした活動にもう少し関心を向けていただけるとありがたいです。

また、劇場や公演に足を運ぶ機会が少ない方にも広くこの朗読効果を知っていただきたいという思いがあります。そのため、チケット代をできるだけ抑えたり、入場無料の機会をつくったりしていますが、会場費やスタッフの費用など、運営面での課題は常にあります。

それでも、初めて朗読を聞いた方が心を動かされ、「また来たい」「もっと多くの人にも来てもらいたい」と言ってくださると、朗読には人の心を動かし、日常とは違う視点を与える力があるとあらためて感じます。企業においては、社員さんのメンタルヘルスの健康維持のための1つとして注目していただくと良いのではないかと思っています。

心地よい関わりが生む組織運営

――組織運営や会員の方との関わりで意識していることはありますか。

現在、理事は5人で、会員は70人を超えています。会員の中には、声優や俳優や朗読愛好家の方がいますが、その区別はあまりしていません。朗読が好きで10年、15年と続けている方は本当に素晴らしい表現をされます。朗読は、その人の人生が反映される表現活動でもあり、その人のお人柄が現れる活動です。お互いに刺激し合いながら一緒に活動しています。

会員の皆さんは、それぞれがやりたいこと、関われることに関わるというスタンスです。何かを強制することはありません。毎月末に活動メールを送っており、そこで今後の活動や参加できる内容をまとめ、自分に合うもの、やってみたいものに手を挙げて参加してもらう形です。中には「こういうことをやってみたい」と提案してくださる方もいます。NPOという形だからこそ、会員だから必ず何かをしなければならないというより、それぞれが心地よく関われることを大切にしています。

声を残し、人の想いを未来へ

――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。

今後は、「声を残す」という事業をしていきたいと考えています。節目に写真館で写真を撮るように、その時の声や話し方を残すことにも価値があると思っています。子どもの声は子どもの時だけのものですし、20代〜30代、60代〜70代へと声や話し方は年齢によって変わっていきます。今はスマートフォンで簡単に録音もできますが、写真も簡単に撮れる時代だからこそ、節目にはきちんと写真を撮ろうという文化があります。それと同じように、声も大切に残していけたら素敵ではないかなと思っています。どれだけAIなどが発達しても、その人の声や話し方は唯一無二のものです。ほかの人には代えられないものだからこそ、その時々の声を記録しておく習慣が広がればいいと考えています。

以前、朗読講座に来ていた80代の方が突然亡くなられたことがありました。その方の朗読を録音していたため、ご家族に「お母様のお声が残っています」とお伝えしたところ、とても喜んでくださいました。そうした経験からも、声を残すことの大切さを強く感じています。

朗読は、表現活動であると同時に、他者を理解する手段でもあります。物語を通じて、普段は言えないことを登場人物の言葉として口にすることもできます。演劇や歌、楽器とはまた違い、比較的取り組みやすい表現活動でもあります。動画を見るだけでなく、生の人の声で物語を聞くこと。そして、自分自身や家族と一緒に声に出して読む時間を持つこと。そうした機会が広がっていけば、人の心に届くものがきっと増えていくはずです。

――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。

仕事が趣味のようなものですけれど、旅行することがリフレッシュかなと思います。一人で行こうとすると他の予定を優先してしまいがちなので、誰かと約束して強引にでも日程決めて、行けるようにしています。

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