守るべきものを守り、変わるべきところは変える。「世界の山ちゃん」が大切にする、伝統と変化の経営

株式会社エスワイフード 代表取締役 山本 久美 氏

「世界の山ちゃん」を中心に事業を展開する株式会社エスワイフード。コショウ辛さが特徴の「幻の手羽先」、印象的なキャラクター「鳥男」、そして「世界の山ちゃん」という覚えやすいネーミングを強みに、4坪13席の小さな店舗から成長してきました。創業者の急逝により、突然経営を引き継ぐことになった山本氏は、伝統と社風を守りながらも、時代に応じた変化を取り入れる経営を大切にしています。今回は、創業の経緯、経営者としての価値観、組織づくり、そして今後の挑戦について伺いました。

伝統を守りながら、時代に合わせて変化する

――まず、創業の経緯について教えてください。

創業者である会長は、もともと海上自衛隊に勤めていました。訓練する側ではなく調理班に所属していて、空いた時間に本を読んでいたそうです。その中で、「焼き鳥屋をやると、儲かって、1億円が貯まる」という内容に出会いました。

当時は金利が8%台の時代だったため、1億円が貯まれば、その金利で生活できると考えたそうです。本人はそれを「なまけものの経営学」と言っていました。

その後、海上自衛隊を3年で辞め、居酒屋で2年ほど勤めてから独立し、居酒屋を始めました。それが「世界の山ちゃん」の始まりです。

現在の事業は、「世界の山ちゃん」を中心に展開しています。一番の強みは、コショウ辛さが特徴の「幻の手羽先」という商品があることです。他社様や他店舗様と差別化できる、最も大きな商品だと思っています。4坪13席の小さなお店から広がっていったのも、この商品のおかげです。

それに加えて、看板に掲げている「鳥男」というキャラクターもあります。このキャラクターが、多くのお客様に覚えていただく理由の一つになりました。さらに「世界の山ちゃん」というネーミングも、成長の大きな要素だったと思います。「幻の手羽先」「鳥男」「世界の山ちゃん」という名前。この3つが、他社様にはない強みです。

――理念として掲げていることを教えてください。

理念としては、「立派な変人たれ」という社是を掲げています。これは会長の時代からあった言葉です。私が代表になってから、社内に散在していた言葉を編成し直しました。

「立派な変人たれ」には、「立派な人間になる」「明るく元気にちょっと変」という意味があります。ただ、私たちにとっての「変」や「変人」は、変な人という意味ではありません。「変化できる人」、そして「ユニークで面白い人」という意味です。ここに一番のこだわりがあり、それをそのまま店舗にも活かしていきたいと考えています。

突然の事業承継で見えた、自分が担うべき役割

――経営者になられたきっかけを教えてください。

もともとは教員で、会長と結婚してからは専業主婦をしていました。しかし、会長が59歳で急逝し、突然事業承継を迫られることになったのです。

当時、会長は幹部にさまざまな部署を経験させ、誰が経営に向いているかを見極めている途中であり、後継者は決まっていませんでした。

私自身も会社にはほとんど関わっておらず、状況が把握できていない状態だったのです。M&Aや外部人材の選択肢もありましたが、会社らしさを守るには自分がやるしかないと考え、経営に入る決意をしました。 

――経営判断で大切にしていることを教えてください。

経営判断で大切にしているのは、伝統を守ることと、変化することの両方です。「世界の山ちゃん」は、成功しているパッケージだと私は思っています。ですから、「世界の山ちゃん」については、基本的に大きく変えず、伝統や社風を守り続けていくことが大事です。

一方で、それだけで今後もずっとやっていけるわけではありません。伝統を守り続けながらも、時代に応じて変化していかなければならないと感じています。その変化については、若い人たちの意見を取り入れながら、柔軟に変わっていきたいと思っています。

一人ひとりを気にかけ、助け合える組織をつくる

――組織運営や社員との関係で、大切にしていることはありますか。

弊社は、幹部と経営陣、そして店舗の人たちの距離がとても近い会社です。会長の時代は創業者ということもあり、少し距離がある感じだったと思いますが、今の経営陣は社員とすごく近い関係になっています。

私が一番大切にしているのは、「気にかけてあげる」ことです。社員一人ひとりの顔と名前を覚えられるくらいの規模ですので、一人ひとりを見て、気にかけて、声をかけることをなるべく意識しています。

採用や育成においては、まず「元気で明るいこと」を大切にしています。「世界の山ちゃん」というお店自体が、明るく元気な人を重視しているからです。

もう一つ大切にしているのが、助け合いの精神です。弊社には複数の店舗がありますが、店舗間で競争することはありません。「みんなでやっていこう」という雰囲気があり、店舗間の協力を大事にしています。だからこそ、助け合いの精神がある人と一緒に働きたいですし、そういう人に育てていきたいと考えています。

店舗にとどまらず、飲食から派生する事業へ

――今後、挑戦していきたいことについて教えてください。

今後は、店舗だけにこだわらず、飲食店から派生する別業種にも挑戦していきたいと考えています。コロナ禍を経験し、店舗にこだわり続けることは非常に危険だと感じたからです。

コロナ前は、「世界の山ちゃん」以外の業態をつくり、さまざまなブランドで山ちゃんを支えようとしていました。しかし、コロナの影響で、20店舗以上が閉店。その中で最初に影響を受けたのは、世界の山ちゃんではなく、新しくつくったブランドでした。

今後も新ブランドをつくっていきたいとは思っています。ただ、店舗だけにこだわるのではなく、飲食店から派生する別業種に挑戦しなければならないと考えています。

現在、形になっているものは外販やキッチンカーくらいですが、他のことにも挑戦しようと動き始めています。

悩んだ時期に支えになった一冊

――経営者として影響を受けた出来事や、印象に残っていることはありますか。

悩んでいた時期にいただいた『スラムダンクの経営学』という本が印象に残っています。私はもともとバスケットをやっていて、『スラムダンク』の漫画はすべて読んでいました。ただ、その経営本は読んだことがありませんでした。

経営を始めたばかりで、どうしていいかわからない時期にその本を読み、「今のままの自分でもいいのだ」と気づかされました。

緑と触れ合う時間が、心を整えてくれる

――リフレッシュ方法について教えてください。

リフレッシュ方法は、園芸や家庭菜園です。毎日の水やりはもちろん、休みで時間がある時には、芽を摘んだり、いろいろ手をかけたりしています。

緑と触れ合うことは健康的にも良いですし、収穫できるようになったものを使って料理をすることも、私にとってのリフレッシュになっています。

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