野球から始まる地方創生――佐伯市の未来を支える社会人野球チームの挑戦
一般社団法人佐伯市ベースボールイノベーション協会 代表理事 高司 健司氏
「野球のチカラで佐伯市に活性化を」を掲げる一般社団法人佐伯市ベースボールイノベーション協会。社会人野球チームの運営を軸に、少年野球の指導やクラブチーム運営などを通じて地域とのつながりを育んでいます。その原点にあるのは、地元・佐伯市への恩返しをしたいという高司氏の想いでした。本記事では、協会設立の背景や今後の展望について伺いました。
野球で地域活性化を目指した協会設立の背景
――現在の事業内容や特徴を教えてください。
当協会では、社会人硬式野球チームの運営を中心に活動しています。
地域貢献の一環として、少年野球の指導や合同練習を行うほか、今年からはクラブチームや野球塾の運営も始めました。
現在は球団スタッフ5名、選手23名ほどの体制です。選手たちは午前中に協力企業で働き、夕方から野球に打ち込む環境を整えてもらっています。
将来的には協力企業への支援に頼るだけでなく、自立した運営体制を築くため、収益を生み出す仕組みづくりにも取り組んでいます。
――協会設立に至った経緯を教えてください。
私は佐伯市で高校まで過ごし、その後は兵庫県警に入り、野球部でも活動してきました。
地元の友人たちから、人口減少や学校の統廃合など佐伯市の現状を聞くたびに寂しさを感じていました。そこで、自分が長年携わってきた野球で何か恩返しができないかと考えたのが始まりです。
約10年前から大学生や社会人チームを招いた交流戦を開催していましたが、協賛企業を回る中で、地域企業から「若者を呼び込む仕組みが必要だ」という声を多く聞くようになりました。
大学まで野球を続けた選手の受け皿は決して多くありません。そこで社会人野球チームをつくり、若者を呼び込む構想が現在のチーム設立につながりました。
――理念にはどのような想いが込められていますか?
社会人野球チームは、作って終わりではありません。実業団である以上、ある程度の強さや実績が必要になります。そうでなければ、次の選手が入ってこないからです。
また、選手はずっと現役でいられるわけではありません。引退後は、お世話になった企業に就職する形を基本としてお願いしています。野球で結果を出しながら、企業にも恩返ししていく。その循環ができれば、チームも長く続けられると考えています。
5年、10年で終わるチームでは、地域貢献という意味でも十分とは言えません。だからこそ、一定のレベルを保ちながら、地域に必要とされる組織を目指しています。
社会人野球チーム立ち上げの課題
――法人設立やチーム発足までに苦労したことは何ですか?
一番苦労したのは、選手集めと企業集めです。
チームを作ると宣伝しても、佐伯市の知名度は決して高くありません。「どこに就職するのか」「どんな環境なのか」と不安に感じる選手もいました。支援してくださる企業は中小企業が中心で、選手は午前中に働き、午後から野球をする形になります。都市部と比べると給与面で難しさもあり、人を集めるのは簡単ではありませんでした。
企業側にとっても、仕事は半日でありながら給料を出す必要があります。選手を30人近く採用する目標で動いていましたが、受け入れ企業を確保するまでには時間がかかりました。協力を約束していた企業が途中で辞退したり、選手の入団が流れたりすることもありました。
3年前から準備を進め、ようやくチームがスタートした時は、まずほっとしたというのが正直な気持ちです。
――経営判断の軸として大切にしていることを教えてください。
軸にあるのはチームの存続です。
チームが続かなければ、法人としても成り立ちません。選手は20代半ばから後半で引退することも多く、入れ替わりも起こります。その中で、どうすれば選手に残ってもらえるのかを常に考えています。
現役を終えた後も佐伯市に残り、協力企業で働いてもらえれば、企業にとっても若い人材を採用できたことになります。チームの存続と地域への定着は、切り離せないテーマだと捉えています。
チームを支える組織づくりと人材育成
――組織内のコミュニケーションで意識していることはありますか?
現在は選手寮の中に事務所があり、監督やコーチを兼ねるスタッフと日常的に顔を合わせていますが、監督という立場上、どうしても壁ができてしまいます。
だからこそ、自分の思いや考えはできるだけ普段から伝えるようにしていますし、こちらから積極的に声をかけ、話しやすい関係づくりを心掛けています。
――どのような人材と一緒にチームを作っていきたいですか?
実業団なので、野球の実力はもちろん必要です。ただ、それだけでなく、一生懸命取り組める人かどうかを見ています。
素直さや努力する力があれば競技力は伸ばせますが、人としての姿勢が伴わなければ長くは続きません。地域企業に支えられているからこそ、引退後に企業へ恩返しし、地域に残る気持ちも大切にしています。
――運営において譲れない考えはありますか?
選手には、野球だけをやっていればいいとは考えてほしくありません。いずれ現役を終えれば、それぞれの職に就くことになります。その時に人間的にしっかりしていなければ、どの会社に行っても苦労するはずです。
全寮制の生活では、掃除や共同生活のルールなど、当たり前のことを身につけてもらっています。初めて寮生活を経験する選手の中には、これまで家族に任せていたことが多く、基本的な生活面から指導が必要な場合もあります。
厳しいという声が出ることもありますが、求めているのは本当に当たり前のことです。ここで緩めてしまえば、彼らのためになりません。預かっている以上、入団から卒団までの間に人として成長し、企業からも評価される存在になってほしいと考えています。
地域に根差した挑戦と今後の展望
――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。
野球部の運営には、人件費を除いても道具代や遠征費、球場使用料などで年間約4000万円かかっています。これを協力企業に頼るだけでなく、自分たちでも工夫して稼いでいこうと話しています。
その一環として、小中学生向けのクラブチームや野球塾を始めました。社会人野球チームを頂点に、現役選手が指導する下部組織を作りたいと考えています。
また、寮を活用した子ども食堂も構想しています。学校に行けない子どもたちのために、将来的には教員免許を持つ選手や指導者を目指す選手の力も活かし、フリースクールのような取り組みも考えています。
――現在の課題と今後強化したいことは何ですか?
課題は大きく2つあります。
1つはチームの強化です。実業団である以上、強くなければいけません。九州には強豪実業団もあり、そこに勝っていく必要があります。強くなければ選手も集まりません。
もう1つは、選手の地域定着です。現在は佐伯市内に事業所を持つ企業を中心に、15社の協力を得て運営しています。背景には、地域企業の若者採用という課題があります。
ただ、現役中の選手は午前中のみ勤務するため、企業にとっては先行投資に近い部分があります。だからこそ、引退後にフルタイムで働き、地域に残ってくれる選手を増やすことが重要です。少しでも定着率を上げていきたいと思っています。