印刷会社が、なぜ認知症の早期発見に挑むのか――D&Pメディアが磨く「色の科学」
株式会社D&Pメディア 代表取締役 小粥 将直氏
株式会社D&Pメディアは、ポスターやチラシなどの総合商業印刷を手がけています。印刷会社として歩む一方、約20年前に学んだメディア・ユニバーサルデザインの知見をもとに、情報格差をなくすための活動にも取り組んできました。現在は、その知見を生かしてヘルステック事業へと領域を広げ、色の識別能力と認知症や疲労との関係について研究を進めています。今回は、小粥氏に事業の特徴や経営に対する考え方、今後の挑戦について伺いました。
目次
総合商業印刷から「印刷のコンシェルジュ」へ
――現在の事業内容について教えてください。
私たちは総合商業印刷を行っています。ポスターやチラシなどのカラー印刷物を中心に、市町村など行政からの仕事も手がけています。
ただ、私たちは自社ですべての印刷を行うというより、「印刷のコンシェルジュ」として、お客様のさまざまな要望に応えることを大切にしています。シールや段ボールの印刷、ホームページなどのデジタルメディアについても、相談していただければ対応できるネットワークを持っています。
――御社ならではの強みについて教えてください。
約20年前、印刷組合の勉強会でメディア・ユニバーサルデザインについて学んだことが、現在につながっています。色の見え方には個人差があり、本人が気づかないまま情報を受け取りづらいケースもあります。特に高齢者や色覚に特性のある方は、想像以上に色による不自由さを感じています。そこで、誰もが同じ色を見る必要はなくても、情報をきちんと識別できるようにすることが重要だと考えました。一般の方にも違和感がなく、色の識別に不自由を感じる方にも見分けやすい色の組み合わせを考えています。そうした知見を積み重ねてきたことが、私たちの強みの一つです。
「自分だけの利益」ではなく、皆さんの幸せを考える
――経営の道に進まれたきっかけを教えてください。
約50年前に父が会社を立ち上げ、約30年前に私が社員として入り、そこから社長になったという経緯です。父の後ろ姿を見て、私も印刷業をやりたいと思ったことが、この道に進んだ背景にあります。
――経営判断の軸になっている価値観を教えてください。
自分だけの利益というより、皆さんが幸せになるような形で事業を営むことです。少なくとも、自分たちだけが得をするために、ずるをして利益を上げるようなことはしたくありません。先義後利の考えを大切にしています。
20代、30代の頃は会社を大きくしたい、売上をもっと伸ばしたいという思いがありました。でも50代になってからは、会社は小さくても構わないから、本当に自分がやりたかったことをしようと考えるようになりました。人生を振り返ったときに、「いい人生だった」と思えるような仕事をしたいと考えています。
印刷の知見を生かし、ヘルステックへ
――現在、新たに取り組んでいることについて教えてください。
メディア・ユニバーサルデザインについて活動してきた中で、理念としては大切でも、それを実際に社会へ広げていくには難しさがあると感じるようになりました。「あったらいいけれど、絶対になくてはならないものではない」ということです。ビジネスとして取り組むにはハードルが高い。そこで、これまでの研究で培ってきた知見を、別の形で社会に還元できないかと考え、現在はヘルステック事業へ移行しています。
現在は、色の識別反応能力を測ることで、認知症などの早期発見ができるのではないかという研究を進めています。大学の医学部などと共同研究を行い、実証を重ねています。
――今後はどのように事業を展開していきたいですか。
ヘルステック事業を業務の柱に育てていきたいと考えています。現在はスクリーニングを兼ねた脳トレアプリの開発なども進めており、実証実験を行いながら、今後1、2カ月の間に展開し、ビジネスとして形にしていきたいと思っています。
また、色の識別能力については、認知症だけでなく疲労の測定にも活用できる可能性があります。疲労は本人が自覚していない場合も多く、能力や判断力の低下から大事故につながることがあります。そうした状態を、より簡易的に事前の段階で把握できるツール、事前予測やリスク回避が作れないかと考えています。
人とのつながりを生かし、新しい世代と事業をつくる
――社内のコミュニケーションで大切にしていることは何でしょうか。
基本は情報共有です。規模の小さい企業なので、すべてをデジタル化する必要はないと考えています。口頭で伝えることも大切ですし、そこから行間にある何かを感じ取れることもあります。ただ、その情報を後から確認できるように、きちんと残しておくことも大事にしています。
現在は社員だけでなく、協力関係にある外部のネットワークも強化しています。必要な人材や機能をすべて自社で抱えるのではなく、それぞれの強みを生かしながら事業を継続していく考えです。
――一緒に働きたいと思う人材について教えてください。
自分と同じような価値観や理念を持った人です。今の若い世代は、SDGsなどについても自然に学んでいます。そうした新しい価値観や働き方を持つ人たちをうまく経営に生かしていくことが重要だと思っています。昔のように24時間戦えません。
今後は、社員のこともお客様のことも両方考えた上で、どうビジネスをしていくかがより大切になるでしょう。健康経営なども、これからは当たり前になっていくのではないかと思います。
やりたいことに挑戦し、次の世代へつなぐ
――現在向き合っている課題は何でしょうか。
印刷業界の市場は今後さらに縮小していくと考えています。そのため、印刷事業についてはかなりミニマムなところまで整理してきました。これからは新しい事業をどう成長させていくかが課題です。
会社を大きくすること自体が目的ではありませんが、社会に影響を与えるためには、ある程度の規模も必要です。報酬ややりがいだけでなく、私の考えに共感してくれる若い人たちが自然と集まってくるような企業にしていきたいと思っています。
――今後の目標を教えてください。
自分がやりたいことや思いを実現するのであれば、きちんとビジネスとして成立させる必要があります。今後はヘルステック事業を形にして、60歳までの約6年の間に、次の世代へ引き渡せる状態をつくりたいと考えています。
そのためにも、若い世代との接点を増やしています。中高生の国際ロボコンチームのメンターを務めたり、その卒業生たちとアプリ開発を行ったりしています。若い人たちにとっては技術をビジネスに落とし込む経験になり、私たちにとっては新しいテクノロジーを事業に取り入れられます。そうした相乗効果を狙った橋渡しを続けていきたいです。
「やりたくないことはやりたくない」。だからこそ、やりたいことに挑戦していくことが大切だと思っています。挑戦しなければ、本当にやりたいことは見つかりません。若い人たちにも挑戦してほしいですし、もし可能ならば、是非一緒に取り組んでいきたいと思っています。