本物の食で、健やかな明日をつくる。覚悟から始まった食づくり
朝倉物産株式会社 代表取締役 花田 信一 氏
ネギやドレッシングをはじめとする食品の生産・販売を手がけ、安全性とおいしさを追求してきた花田氏。目指しているのは、単に商品を販売することではありません。食べる人に喜びを届け、その健康に貢献することです。農家を継いだ当初、販売を任せる仕組みに疑問を抱き、自ら会社を立ち上げた花田氏。その背景には、自分の仕事に責任を持ち、悔いのない人生を送りたいという強い覚悟がありました。会社設立の経緯、商品づくりへのこだわり、従業員との向き合い方、今後の展望について伺いました。
食べる喜びと健康を、同時に届ける
――会社の理念について教えてください。
「全従業員の物心両面を幸せにし、安全・安心な食べ物を通して世界の人々の健康に貢献する」という考えを企業理念に掲げています。
ネギにしてもドレッシングにしても、私たちが扱っているのは食べ物です。食べておいしいと感じてもらえれば、楽しいことはより大きな喜びになりますし、嫌なことがあった日にも、気持ちが少し軽くなると思います。
おいしいものを食べて、「また明日から頑張ろう」と思ってもらえたらうれしいですね。ただ、おいしいだけではいけません。
健康を損なうようなものであってはならないと考えています。そのため、無添加や有機肥料にこだわり、安全で安心できる食品づくりを続けてきました。
――どのような方に商品を届けたいと考えていますか。
健康を大切にする方や、本物を求める方です。ネギが持つ栄養素や風味、香りを大切にしている方、ドレッシングであれば、安全性だけでなく味にも高い品質を求める方に向けて作っています。
単にネギやドレッシングを売るのではなく、商品を通じて健康になってもらいたいという思いがあります。価格だけで選ばれる商品ではなく、「これは本物だ」「健康のために良い」と理解してくださる方に届けることが、私たちの目指すところです。
売上が分からない仕組みでは、人生を懸けられない
――経営の道に進んだきっかけを教えてください。
もともとはサラリーマンをしていましたが、父が病気になったことをきっかけに帰郷し、父の農業を継ぎました。当時の父は、一農家として農協に農産物を出荷しており、私も同じように出荷していました。
ところが、農協に出荷すると、その日の売上や経費、最終的に手元にいくら残るのかがすぐには分かりませんでした。「今日出荷した分の売上はいつ分かるのか」と尋ねても、明確な期日ではなく、1カ月ほど先になるというのです。
自分の人生を懸けて農業をする以上、売上がいつ分かるのかも明確でない仕組みでは、経営にならないと感じたのが正直な気持ちでした。農協を批判したいわけではありません。その仕組みを利用する方もいますが、私自身は、そこに人生を懸けることができなかったということです。
――会社を設立した背景には、どのような思いがあったのでしょうか。
自分で事業をすれば、すべての責任は自分にあります。失敗したとしても、組織や誰かのせいにすることはありません。自分の選択として受け止められます。
人生に悔いを残したくありませんでした。売上も経費も把握し、自分の責任で判断するために会社を立ち上げました。私にとって、会社をつくった一番大きな動機はそこにあります。
会社を生き残らせるためには、他社との差別化も必要です。自分たちにしかできないことを貫き、本物を求めるお客様のために生産と販売を続けることが、現在の事業にもつながっています。
来てくれた従業員は、すべて宝物
――従業員とのコミュニケーションで大切にしていることは何ですか。
基本的には従業員を信じ、従業員のために頑張ることです。小さな会社ですから、普段から少しずつ会話をします。顔を見れば、いつもと様子が違うこともある程度分かります。
私たちの会社は、誰もが知る大企業ではありません。それでも来てくれた従業員は、全員が大切な存在です。その人たちと一緒に会社を成長させることが、従業員の生活を守ることにもつながります。根底にあるのは、「来てくれた人はすべて宝物だ」という考えです。
もちろん、間違っていることは厳しく伝えます。従業員のことを大切に思っているからこそ、間違った状況をそのまま放置することはありません。
――どのような人と一緒に働きたいですか。
真面目で誠実な人です。現在の能力が高いか低いかだけで判断することはありません。真面目に取り組む人には伸びしろがあります。今までは十分にできていなかったとしても、「これからは真面目にやろう」と決意した人であれば、一緒に働けます。
特に、言い訳をせず、自分の間違いを正直に認められる人は成長します。能力が十分でなくても、愚直に努力を続ければ、1年ごとに伸びていくからです。
価格ではなく、価値を理解する人へ
――商品づくりでは、どのような点にこだわっていますか。
一般的に使われる安価な肥料ではなく、遺伝子組み換えではない菜種油から作られた油かすなどを中心に使用しています。価格は大きく異なりますが、作り方そのものが違います。
化学肥料は35年間、1グラムも使用していません。化学肥料で色を整えるのではなく、自然の色で勝負しています。人に例えるなら、化粧で見栄えを整えるのではなく、すっぴんの美しさで勝負するようなものです。
その分、栽培は難しくなります。ネギ同士の間隔を広げ、太陽の光を十分に当て、光合成を促します。
育てる期間も一般的な農家より長く、夏場でも通常より日数をかけ、75日前後、場合によっては80日から85日ほど育てることもあります。手間と時間はかかりますが、良いものを作るために必要なことです。
――今後、どのようなことに挑戦したいと考えていますか。
今の課題は販売先を広げることです。生産と製造を優先しているため、営業に十分な力を割けていません。国内だけでなく、海外への展開にも少しずつ挑戦中です。
値段の安さを重視する相手ではなく、安全性や味、製造の背景まで理解してくれるホテル、料理店、小売店などとつながりたいと考えています。実際に商品を食べて、「これは良い」と判断してくださる方とは、長く付き合うことができます。
作り手だけが熱意を持っていても、商売は続きません。納品する側と販売する側が商品の価値を理解し、同じ思いでお客様に届けることが大切です。本物を求める方に商品が届くよう、インターネット販売も含めて、さらに広がりを持たせていきたいです。
頭を休ませるために、あえて体を動かす
――仕事から離れてリフレッシュするために、何をしていますか。
筋力トレーニングと水泳です。仕事では常に頭を使っていますから、ずっと考え続けていると頭がパンクしてしまいます。頭をよみがえらせるためにも、体を動かすことが必要だと考えています。
以前は休まずに働いていました。しかし、休みを取らなければ心に余裕が生まれないと分かり、今はあえて休むようにしています。睡眠や食事にも気を配り、健康を保つことを大切にしています。
良い仕事を続けるためには、自分自身が健康でなければなりません。筋力トレーニングや水泳で頭と体を整えながら、これからも本物の食を必要とする方へ届けていきたいです。