睡眠教育を社会のインフラに――子どもたちが自分の未来を育てるために眠れる社会へ
一般社団法人こども睡眠カウンセラー協会 代表理事 秋山信子氏
一般社団法人こども睡眠カウンセラー協会は、子どもの睡眠に関する正しい知識を家庭・学校・地域へ届ける活動を行っています。保護者向けの睡眠相談や講座、こども睡眠カウンセラー・こども睡眠インストラクターの育成、学校での出前授業などを通じて、睡眠教育の普及に取り組んでいます。本記事では、代表理事の秋山信子氏に、協会設立の背景や活動への想い、今後の展望について伺いました。
原体験から生まれた「睡眠教育」への想い
――協会を立ち上げた経緯を教えてください。
3人目の子どもが生まれた時、出産トラブルにより脳性麻痺という診断を受けました。その後、障害に加えて眠れない状態が続き、睡眠障害のような状況が約3年続いたんです。医療にもお世話になり、睡眠薬も使っていましたが、途中で効かなくなり、夜中に何度も起きてしまう。その繰り返しでした。
そこで本気で睡眠を学ぼうと思い、睡眠学に基づいた生活習慣やライフスタイルに変えていきました。すると、少しずつ薬を手放し、自分で眠る力を取り戻してくれたんです。その経験から、睡眠は子どもの健康や人生の土台であるにもかかわらず、正しい知識を学ぶ機会がほとんどない現実を痛感しました。
――活動を始める中で、どのように広がっていったのでしょうか。
最初は娘の問題から始まりましたが、同じような悩みを抱えるお母さんが周りにいました。自分の子どもが改善して良かった、だけで終わらせてはいけないと思ったんです。相談に乗るうちに広がっていき、私一人の力では対応しきれないと感じるようになりました。
同じようにサポートできる人が増えたらいいと思い、講座を始めました。その後、教えられる先生方の育成にも取り組むようになり、最終的に一般社団法人という形を作りました。今では、志を同じくするお母さんや治療家、ヘルスケア分野の専門家など、多くの仲間が増えています。
子どもたちに「眠る力」を届ける3つの活動
――現在の主な活動内容を教えてください。
現在は大きく3つの活動に力を入れています。1つ目は、保護者向けの睡眠教育です。子どもが小さい頃からスマートフォンなどのデバイスに触れることが当たり前になり、低年齢のうちから夜更かしになるケースが増えています。小学生以降ではスマホ依存のような状態になり、朝方まで起きている子どももいます。
そうした生活が続くと、起立性調節障害などの不調につながり、学校に行けないという相談も増えてきます。そうした状態をできるだけ予防するために、分かりやすく伝える講座や睡眠相談を行っています。
2つ目は、睡眠を伝えられる人材の育成です。こども睡眠カウンセラーやこども睡眠インストラクターの養成を通じて、地域で睡眠教育を届けたり、睡眠相談に乗ったりできる専門家を育てています。
3つ目は、学校や地域での睡眠教育の啓蒙活動です。小学校・中学校・高校に出向き、子どもたちへ睡眠の大切さや、睡眠の質を上げるためにできることを伝えています。教職員や保護者、PTAの方々にも啓蒙活動を行っています。
――協会として大切にしている理念やビジョンはありますか。
睡眠教育を、食育や金融教育のように、生きるための基礎教育にしていきたいと考えています。情報は増えていますが、何が自分に合うのか分からない、何を信じればよいのか分からないという声もあります。だからこそ、学校教育の中で体系的に睡眠を学ぶ機会を作っていくことが必要だと思っています。
AIやデジタル化が進む社会だからこそ、人間の脳や体のコンディションを整える力はさらに重要になります。その中心にあるのが睡眠です。睡眠は単に休む時間ではなく、脳が活動する時間でもあります。健康や人間らしさを育むために、睡眠はとても大切です。
子どもたちが自分の未来を育てるために眠ることが当たり前の社会を実現したい。そのために、睡眠教育のインフラづくりを進めていきたいです。
社会課題として睡眠を捉える
――経営判断の軸になっている価値観を教えてください。
私たちが目指しているのは、単によく眠ることだけではありません。睡眠を通して子どもたちの笑顔を増やし、親の不安を減らし、先生方の不安も減らすことです。一人ひとりが本来持っている力を発揮できる社会を作ることが、本来の目的だと思っています。
質の良い睡眠を手に入れることは、そのための柱の一つです。睡眠教育には、健康になるだけではない可能性があります。実際に学校でお話しすると、睡眠教育の重要性に共感してくださる先生方が少しずつ増えています。日本全国に届ける活動にしてほしい、応援したいという声もいただいています。
――組織運営で大事にしていることは何でしょうか。
協会は理事だけで運営しているわけではありません。資格を持った方々とコミュニティを作り、それぞれの得意分野を生かしながらチームで支えています。睡眠教育を頑張りたい人、相談に乗るのが得意な人、周囲とのつながりを作るのが得意な人など、さまざまな人がいます。
チームごとに週1回のミーティングを行い、準幹部のような運営スタッフの方々とも毎週話しています。今後どう進めていくかを密に共有し、リアルでもオンラインでも、日々LINEなどで意見交換や相談をしています。
――一緒に活動したいと感じるのは、どのような方ですか。
お子さんの睡眠や不登校、夜更かしなど、個人的な悩みを持っている方も多いです。ただ、その悩みの先には、これは社会課題だという視点があります。協会と同じ目線で、同じ方向を向いて、社会を変えていきたいと思ってくださる方とは、良い活動や仕事ができると思っています。
全国の学校へ睡眠教育を届けるために
――今後の展望や挑戦について教えてください。
全国の学校に睡眠教育が浸透する社会を実現したいと考えています。しかし、協会だけで届けるには限界があるため、企業や団体、行政と連携しながら普及の仕組みづくりを進めています。現在は、活動に賛同してくださる企業との連携も積極的に進めています。
――具体的には、どのような取り組みを進めていますか。
学校や行政の担当者へ直接働きかけを行うほか、有資格者による情報発信やメディアを通じた啓蒙活動にも力を入れています。また、睡眠教育が進んでいる海外の事例を学び、日本に活かすための視察や調査も進めています。今後は、国内外の知見を取り入れながら、睡眠教育のさらなる普及を目指していきます。
物事を客観的に捉え、日々を整える
――影響を受けた考え方や、大切にしている姿勢はありますか。
経営では、松下幸之助さんの言葉や理念に触れる機会があります。日々大切にしているのは、主観と客観の両方を持つことです。感情だけで判断せず、相手の背景や意図を考える視点を持つようにしています。
――リフレッシュ方法を教えてください。
温泉やスーパー銭湯、家族とのキャンプ旅行がリフレッシュになっています。何も考えたくない時はドラマを見たり、アロマやヘッドスパで気持ちを整えたりしています。