空の可能性をひらき、パイロットのキャリアを支える仕組みをつくる
株式会社Aeromuse 共同創業者 代表取締役CEO 野尻 真宏 氏
Aeromuseは、パイロット向けのログブックアプリと採用プラットフォームの開発を進めています。飛行時間や保有ライセンスなど、パイロット特有の情報を一元化し、そのデータを採用活動につなげることで、パイロットと航空会社の円滑なマッチングを目指しています。航空会社でパイロット関連の人事業務に携わった経験を持つ代表に、創業の背景、プロダクトづくりで重視していること、空というフィールドに描く将来像を伺いました。
目次
パイロットの日常と採用を、ひとつのデータでつなぐ
――現在の事業内容について教えてください。
パイロットを対象とした採用プラットフォームを開発しています。パイロットの採用では、一般的な履歴書に加えて、保有している免許の種類や飛行時間が非常に重要です。総飛行時間だけでなく、特定の機種で何時間飛んだか、機長として何時間飛んだかといった情報も採用要件に関わります。
パイロットは、こうした時間をログブックで管理することが法律で定められています。ただ、日本では紙の冊子が使われていたり、国によってはアプリや表計算ソフトが使われていたりと、管理方法は統一されていません。
転職時には、自分で飛行時間を集計し、必要に応じて記録の写しを提出します。国ごとに必要なライセンスや飛行時間の条件も異なるため、自分の経験が応募要件を満たしているかを判断することも容易ではありません。
そこで、日々の飛行記録を効率的に残せるログブックアプリを提供し、蓄積したデータを応募条件の判定や採用活動につなげようとしています。パイロットが日常的に使うアプリを入口に、パイロットと航空会社をつなぐ場所をつくることが事業の中心です。
――現在の開発状況と、事業で重視していることを教えてください。
ログブックアプリは2026年8月のローンチを予定しています。以前にテスト版をつくり、一部のパイロットに使ってもらったところ反応が良かったため、現在は本格的な開発を進めています。
最も重視しているのは、パイロットにとっての利用体験です。航空会社に求人媒体として活用してもらうには、まず多くのパイロットが継続的に使うプロダクトでなければなりません。
ユーザー自身も言葉にできない使いにくさがあるため、仮説を立て、改善し、実際に試してもらうことを繰り返しています。事前の申し込みなどを通じて数百人規模から関心が寄せられており、国数では約70カ国に広がっています。その中の一部の方々に試してもらいながら、使い心地を高めています。
業界の内と外を知ったことが、創業の原点になった
――これまでのキャリアを教えてください。
大学卒業後に日本航空へ入社し、約10年間勤務しました。パイロットではなく事務系の仕事で、パイロットに関する人事業務などを担当し、日々パイロットと一緒に仕事をしていました。
航空業界の中にいた頃は当たり前だと思っていた知識や慣習も、外に出てみると非常に特殊なものだと気づきました。世の中にはさまざまなHRサービスやテクノロジーがありますが、航空業界、とりわけパイロットの領域には十分に行き届いていません。
その違和感が、事業を考えるきっかけの一つになりました。また、パイロットは華やかなイメージを持たれやすい一方で、資格を維持するために日々勉強し、健康診断や英語資格の基準を満たし、安全のために鍛錬を続ける専門職です。
そうした方々と働いた時間は、自分のキャリアにとってかけがえのないものでした。自分が持つ知識や経験を生かし、彼らの仕事やキャリアを支えながら、航空業界に新しい価値をもたらしたいと考え、2026年3月に創業しました。
――会社名に込めた思いを教えてください。
「エアロ」は航空や空、「ミューズ」はひらめきや芸術を表す言葉です。航空や空という舞台に、テクノロジーだけでなく、アートやデザインの要素も組み合わせることで、新しい可能性を生み出したいと考えています。業界の外にある技術や発想を取り入れ、産業を盛り上げていきたいという思いを社名に込めています。
専門性を持つ少人数のチームで、プロダクトを磨く
――現在の組織体制について教えてください。
現在は、私を含む役員2人と、業務委託を含めて5人ほどの体制です。アプリやソフトウェアの開発を担うメンバーに加え、パイロットの知見が必要な事業であるため、パイロットライセンスを持つ方とも一緒に取り組んでいます。
まだ立ち上げたばかりの段階ですので、それぞれの専門性を持ち寄りながらプロダクトをつくっています。実際のパイロットや航空会社から話を聞き、必要な機能や体験を検討しながら開発に反映しています。
国境を越えた人材の循環をつくり、航空産業の成長を支える
――今後、どのような課題を解決していきたいですか。
日本だけでなく、世界的にパイロット不足が続いています。私が航空会社にいた10年以上前から言われてきた課題ですが、構造的な問題として残っています。
日本では、ライセンス取得に多額の費用がかかることや、育成できる学校や人数が限られていることに加え、今後は一定の世代が定年を迎える一方で、その減少を補う育成が追いついていないという課題があります。
一方、世界にはライセンスを持っていても、就職の機会を得られていない人もいます。国によって需給の状況や必要条件が異なるため、ある国では機会がなくても、別の国では活躍できる可能性があるのです。
プラットフォームを通じて国を越えた需給のマッチングを実現し、パイロットが次のステップへ進める循環をつくりたいと考えています。
採用プラットフォームは、そのための下地にすぎません。将来的には、パイロットになりたい人を増やすことや、ライセンスを持ちながらエアラインパイロットになれていない人を支援すること、育成に関わる方々と仕組みをつくることにも取り組みたいです。
人材の制約によって航空産業が成長できない状況を解消していきたいと思っています。
――会社として描いている未来を教えてください。
空というフィールドには、人々の生活や社会をより良くする可能性がまだ多く残っていると考えています。現在はパイロットや航空会社を中心に事業を進めていますが、将来的にはそこだけに限定するつもりはありません。
例えば、ドローンやプライベートジェット、関連するソフトウェアやアプリ、データを活用したサービスなど、空に関わる領域にはさまざまな展開が考えられます。
宇宙そのものというより、地上ではなく、宇宙未満の空の領域を、もっと社会のために使いこなせるようにしたいです。空の可能性を生かし、新しいサービスや価値が次々と生まれる状態を目指しています。
体を動かし、思考を切り替える
――リフレッシュ方法を教えてください。
サウナが好きで、新しくできた施設へ行くことがあります。ワインも好きなので、晩酌をすることもあります。
仕事で煮詰まったときや、集中できていないと感じたときは、ジムへ行って走ったり筋力トレーニングをしたりした後、サウナに入ります。体を動かして気持ちを切り替え、再び仕事に向き合うようにしています。