浴感をデザインし、日本のお風呂文化を豊かに――YOKUSULU合同会社が目指す新たな入浴体験

YOKUSULU合同会社 代表 松永 武氏

YOKUSULU合同会社は、温泉やサウナ、家庭の浴室など、入浴に関わる幅広い分野で事業を展開しています。施設づくりのアドバイザリーや入浴剤の開発を通じて目指すのは、単に見た目の美しさではなく、利用者が心地よさを実感できる入浴体験です。代表の松永武氏に、事業を始めた背景や経営への想い、今後の展望について伺いました。

入浴文化をつくる3つのテーマ

――現在の事業内容について教えてください。

社名の「YOKUSULU」には、「浴する」という意味と、お風呂文化を「良くする」という二つの意味を込めています。また、食欲や睡眠欲のように、人が自然と入浴したくなる意味として「欲する」を加えた3つのテーマとしています。文化や環境をつくりたいという想いを込めています。

現在は、温泉施設や温浴施設の設計時におけるアドバイザリーや温浴プログラムの造成を中心に事業を展開しています。建築設計そのものを担うのではなく、入浴の専門的な視点から施設づくりを支援する立場です。施設の規模を問わず、温泉やサウナなど、それぞれの特性を生かした空間づくりをサポートしています。

もう一つの柱が入浴剤の企画・製造です。温泉地をイメージした入浴剤は数多くありますが、実際の温泉の浴感や濃度まで再現できているものは決して多くありません。家庭でも本来の温泉に近い体験を楽しんでもらえるよう、再現性にこだわった商品づくりに取り組んでいます。

案件ごとに最適な専門家とチームを組むことも特徴です。温泉掘削であればその分野の専門家、建築であれば建築の専門家と連携し、それぞれの知見を生かしながらプロジェクトを進めています。

睡眠を支えた入浴体験が起業の原点

――経営の道に進まれたきっかけを教えてください。

以前は寝具メーカーで、眠りに関わる仕事をしていました。しかし、お客様に睡眠を提供する立場でありながら、自身は睡眠時間が2〜3時間ほどしか取れない生活を送っていました。

そんな中、入浴方法や入浴用品を見直したことで、睡眠時間は変わらなくても目覚めが良くなり、翌日のパフォーマンスが大きく向上したのです。その経験から、お風呂には睡眠や健康を支える力があると実感しました。

この経験をきっかけに、寝具だけではなく、お風呂という切り口から睡眠改善や健康づくりを提案できるのではないかと考え、現在の事業へとつながっています。

――経営するうえで大切にしている考え方を教えてください。

売上規模を追い続けることよりも、自分たちの仕事が社会へどのような影響を与えられるかを大切にしています。

自分たちが本当に良いと考えるものを丁寧につくり、その考え方や知識が少しずつ社会へ広がっていくことに価値があると考えています。誰かに依存したり、大きな流れに合わせたりするのではなく、自分たちが信じる道を進み続けることが、経営において譲れない姿勢です。

「浴感デザイン」で新たな入浴体験を生み出す

――今後、力を入れていきたいことを教えてください。

現在最も力を入れているのが、「浴感デザイン」です。見た目が美しい施設であっても、実際に入ってみると居心地が良くなかったり、期待した体験が得られなかったりすることがあります。

私たちは、温泉の泉質や身体への熱の伝わり方などを考えながら、入浴したときの感覚そのものを設計しています。料理にさまざまな食感があるように、お風呂にもさまざまな浴感があります。その浴感を楽しめる空間を、建築とソフトの両面からつくっていくことが大切だと考えています。

私たち自身が設計をすべて担うのではなく、設計者や建築会社と連携しながら、入浴体験という専門的な視点でサポートすることが役割です。建築と入浴体験が融合することで、より満足度の高い温浴施設を実現できると考えています。

この考え方は入浴剤の開発にも共通しています。温泉を再現した商品であっても、色や香りだけを似せるのではなく、実際の浴感まで再現することを重視しています。

――現在向き合っている課題はありますか。

最も大きな課題は、人的リソースの不足です。私たちが取り組んでいる分野は、同じ知識や経験を持つ人材がほとんどおらず、すぐに採用して補えるものではありません。

そのため、人材育成プログラムや認定資格制度などを通じて、温浴に関する人材を育てていくことに今後は力を入れていく予定です。

入浴文化を通じて社会課題の解決へ

――事業を通じて、社会をどのように変えていきたいと考えていますか。

食文化を豊かにすることと同じように、入浴文化も豊かにしていきたいと考えています。日本ではお風呂に入ることが当たり前になっていますが、それは水や電気といったインフラが整っているからこそ実現できる、とても恵まれた環境です。

一方で、お風呂の入り方や温泉の楽しみ方については、まだ十分な知識が広まっているとは言えません。入浴に関わる事故など、社会課題も数多くあります。そうした課題を解決するためにも、正しい知識と質の高い入浴体験を広げていきたいと考えています。

また、本業では障害のある方と一緒に製造やパッケージ作業などにも取り組んでおり、入浴文化を広げることとあわせて、さまざまな社会課題の解決につながる活動を続けていきたいと思っています。

仕事も趣味も、お風呂とともに

――休日はどのように過ごしていますか。

休日も温泉やサウナを訪れることが多く、利用者としてさまざまな施設を巡っています。施設の方には自分が専門家であることは伝えず、一人のお客様として体験を楽しみます。

仕事として責任を持って向き合う場面とは別に、温泉やサウナは純粋な楽しみでもあります。仕事と趣味の境界がないほど、お風呂文化そのものが好きだからこそ、新しい発見を日々の仕事にも生かすことができます。

これからも、お風呂や温泉、サウナの魅力をより多くの人へ伝えながら、日本の入浴文化をさらに豊かなものへと育てていきたいと考えています。

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