将棋を通じて人と人をつなぐ――朝霞将棋教室が描く、地域と伝統文化の未来
朝霞将棋教室 代表 中司 晃貴氏
朝霞将棋教室は、子どもと大人が一緒に将棋を学び、交流できる場を提供しています。将棋の上達だけを目的とするのではなく、世代を超えた交流を通じて人間力を育むことを大切にしている点が特徴です。教室運営に加え、オンラインレッスンやイベント、出前講座、将棋を活用したチームビルディング研修、経営者交流会などにも取り組んでいます。代表の中司晃貴氏に、事業の特徴や創業までの歩み、将棋を通じて実現したい未来について伺いました。
目次
世代を超えて交流し、人間力を育む将棋教室
――現在の事業内容について教えてください。
地域の将棋愛好者や、これから将棋を始めたい方に向けて、対面形式の将棋教室を運営しています。将棋が強くなることは前提ですが、それだけではなく、人と交流したい方や将棋仲間が欲しい方、日々の生活に刺激を求めている方にも参加していただきたいと考えています。
教室では子どもと大人が一緒に活動し、世代を超えて交流しています。こうした取り組みを通じて人間力を育むことを理念としており、子どもと大人が合同で学ぶ形式は、全国的に見ても珍しいのではないかと思います。
教室内のイベントやオンラインレッスンのほか、学童や保育園などを対象とした出前講座も行っています。また、松本瑞夫氏と共同で運営する「将棋経営塾®」では、将棋を活用したチームビルディング研修や経営者同士の交流につながる活動にも取り組んでいます。
――ほかの将棋教室にはない強みは、どのような点にありますか。
子どもと大人が合同で活動していることに加え、フランチャイズ展開を進めている点です。将棋教室をフランチャイズ形式で運営している事例は、将棋界ではほとんどないと思います。どの地域に住んでいても、対面で将棋を学べる機会を提供することが目標です。
行動によって可能性を切り開いた経験
――経営の道に進まれたきっかけを教えてください。
高校生の頃、仲間と「4人将棋」を楽しんでいたことが原点です。当時から自然とコミュニティの運営を担うことが多く、コミュニティ運営という意味では10年以上の経験があります。
大学生のときには一般社団法人を設立し、4人将棋の団体を立ち上げました。その活動を通じて、ドワンゴが開催する「ニコニコ超会議」に呼んでいただいたことがあります。一般の人が簡単に立てる舞台ではなかったため、自分にとって非常に大きな経験になりました。
物事を突き詰めて行動し続ければ、さまざまな可能性を切り開ける。その実感を得たことが、その後の活動にもつながっています。
――創業までには、どのような経験をされましたか。
一度は会社員として、映像オペレーターや不動産営業、営業代行などの仕事を経験しました。映像オペレーターでは、ライブ会場などでカメラ映像を切り替える作業や設営を担当していました。
営業代行の仕事を始めたことが、東京へ出るきっかけです。当時住んでいた香川からキャリーバッグ一つで東京へ移り、スタートアップ企業の社長宅でシェアハウスをしながら働きました。その会社は新型コロナウイルスの影響を受けて事業を継続できなくなりましたが、紆余曲折を経たことで現在につながっています。
将棋教室を持続可能な事業として全国へ
――フランチャイズ展開を進める理由を教えてください。
将棋教室を開きたいという声は、意外と多くあります。一方で、将棋教室やイベントをボランティアで運営し、赤字になっているケースも少なくありません。個人で始めても、経営の知識やノウハウが不足しているために継続できなくなることがあります。
一度できた教室が閉鎖されれば、その地域で将棋を楽しんでいた方々が悲しむことになります。せっかく生まれた場を、運営上の問題でなくしてほしくありません。
――今後、どのような展開を目指していますか。
全国で将棋教室が減っている中、私たちは逆に教室を増やしていきたいと考えています。既に京都校が誕生しましたが、引き続きフランチャイズを通じて、どの地域でも対面で将棋を学べる機会をつくり、将棋によって人生を豊かにしてもらいたいです。その先には、将棋界全体の普及にも貢献したいという思いがあります。
もう一つの軸が、経営者やビジネスパーソンに将棋を広めることです。私は、将棋教室の経営そのものを一局の将棋のように捉えています。将棋とビジネス、経営には、考え方の面で多くの共通点があります。将棋で身につく考え方が経営や仕事にどのように生かせるのかを伝え、興味を持った方に実際に将棋を始めていただき、最終的には仕事にも役立ててもらいたいです。
デジタル時代だからこそ、対面で向き合う価値を伝える
――現在、事業を進める上で感じている課題は何でしょうか。
世の中に娯楽があふれている中で、どのように将棋へ振り向いてもらうかは、常に課題だと感じています。最初から「将棋をやりましょう」と伝えるだけでは、興味を持ってもらうことが難しいため、切り口を変える必要があります。
例えば、チームビルディング研修の中に将棋の要素を取り入れたり、経営者交流会で将棋を活用したりしています。初対面の人同士が打ち解けるには時間がかかりますが、将棋を一局指すことで、短時間でも心の距離が縮まることがあります。ビジネスマッチングの場でも、将棋は有効なコミュニケーションツールになると考えています。
――将棋を通じて、社会をどのように変えていきたいですか。
インターネットが普及し、オンライン上で多くのことが完結する一方、人間関係は希薄になっていると感じます。将棋もオンラインで楽しめますが、最大の醍醐味は、盤を挟んで顔を合わせ、対局することです。
対面であれば、相手の表情や喜び、苦しさを感じ取れます。さらに、対局後には「感想戦」があります。どの手が良かったのか、ほかにどのような可能性があったのかを、勝者と敗者が一緒に振り返る時間です。
負けた側は素直に教えを求め、勝った側は偉そうにするのではなく、相手に配慮しながら伝えます。そこでは、対話する力や相手を尊重する姿勢が磨かれます。仕事でも、上司が部下へどのように伝えるかによって、受け取られ方は変わります。人と人が向き合い、相手に気持ちよく伝える力が求められる時代だからこそ、将棋には大きな価値があると思っています。
将棋の火を絶やさないために、信念を貫く
――経営において、譲れないものを教えてください。
なぜ自分がこの事業を行っているのか、常に初心に帰って見つめ直すことです。将棋界を盛り上げたい、日本の伝統文化である将棋を途絶えさせたくないという思いがあります。
単に利益を得たいのではなく、将棋の火を消したくない。そのために、一度決めた信念をぶらさず、自分が正しいと思うことを黙々と実行していきたいです。