「聴くこと」で人に寄り添う――善き隣人バンクが目指す、孤独を支える新たな仕組み

一般社団法人 善き隣人バンク 代表理事/牧師 広田 信也氏

一般社団法人 善き隣人バンクは、傾聴を軸に、人に寄り添う活動を展開する非営利型の団体です。キリスト教会の献身的な働きを具現化するブレス・ユア・ホーム株式会社の「話し相手・付き添いサービス」に変更を加え、より幅広いニーズに応えられるように、2021年、新たに当団体を設立しました。

設立以来、弱さの中で孤独を抱える人々に寄り添い、電話やオンライン、訪問による無償の傾聴活動を全国に展開してきました。本記事では、トヨタ自動車で31年以上研究開発に携わったのち、牧師として新たな道を歩み始めた代表の広田信也氏に、事業に込めた想いや経営の考え方、今後の展望などについて伺いました。

「話を聴くこと」を社会に必要な仕組みに

――現在の事業内容や特徴について教えてください。

当団体では、傾聴(話を聴くこと)を通し、弱さの中で孤独を抱える人々に継続的に寄り添う活動を行っています。全国から寄せられる依頼に対し、相談者の立場に寄り添い、電話やオンライン、訪問などを通して、できるだけ長期にわたって継続的、組織的に傾聴を繰り返す活動を実践しています。

私たちが大切にしているのは、相談者のあるべき姿を求めず、現状に寄り添い、相談者の立場で話を聴き続けることです。たとえ、状況が好転しなくても、傾聴を通して真摯に寄り添い、「善き隣人」として人生を伴走したいと願っています。傾聴に対応するスタッフは、相談者の心の痛みを共に背負うリスクを抱えますので、複数のスタッフが協力し、負担を軽減しつつ、組織的に寄り添う体制を整えています。 

――どのような理念やビジョンを描いていますか。

私たちが目指しているのは、医療や介護ではカバーできない心の痛み(スピリチュアルペイン)に寄り添う働きを、社会に広げていくことです。これまでさまざまな活動に取り組むなかで、人の話を聴くことそのものが、人を支える大きな価値になると実感してきました。

一方で、保険適用のない傾聴の働きを事業として展開することは容易ではありません。そこで、日本社会に広く受け入れられ、多くの依頼者に寄り添えるように、すべての働きを無償とし、経済的な必要を、活動の趣旨に共感してくださる方からの寄付によって支える仕組みを構築することにしました。弱さの中で「善き隣人」に話を聴いてもらいたいと願う人々に向けて、継続的に支援を届けられる体制を築くことが、私たちの目指す姿です。

人に寄り添う方法を模索し、現在の活動へ

――法人設立の経緯を教えてください。

私はトヨタ自動車で31年半にわたり研究開発に携わったのち、牧師になるための学校で学びました。そのなかで感じたのは、既存の組織の働きだけでは、支援を必要とする多くの人に寄り添うことは難しいということでした。これまでにない人と人をつなぐ新たな仕組みが必要と考え、目指すべき仕組みを探るために、2014年にブレス・ユア・ホーム株式会社を設立しました。

その中で、介護や福祉の現場から、「利用者の話を聴く時間が十分に取れない」という声をよく耳にしました。そこで介護保険外サービスとして「話し相手・付き添いサービス」を始めたところ、主に傾聴を通して深い信頼関係が与えられ、長期にわたって寄り添えることを知りました。

当初、有償の事業として傾聴活動を展開することを検討しましたが、事業性が乏しく、多くの人に展開するのは難しいと考え、すべての働きを無償とし、寄付金によって運営する非営利型の一般社団法人を新たに設立し、「善き隣人バンク」と命名して活動を始めました。

「善き隣人」としてスピリチュアルペインに寄り添う

――経営判断で大切にしていることを教えてください。

判断の軸に置いているのは、「善き隣人」として心の痛み(スピリチュアルペイン)に寄り添う活動の仕組みです。

人は、生きていく上で様々な苦痛に出会います。それらは、「身体的苦痛」「社会的苦痛」「精神的苦痛」「スピリチュアルペイン」の4つに分類されると言われています。この中で、「スピリチュアルペイン」とは、病、死、老化、試練などが、なぜ自分の身に起こるのか、その理由がわからない故に、人生の価値を見出せない苦痛を指しています。

人は弱さを覚える時、さまざまな苦痛を覚える中に、この「スピリチュアルペイン」を誰もが抱くものです。そして、この「スピリチュアルペイン」が存在する故に、身体的、社会的、精神的な苦痛が助長され、本人だけでなく、家族や友人など周囲の人々に弊害をもたらすことがあります。

この苦痛は、論理的、理性的な解決法はないものの、継続的な傾聴の働きにより、自己受容が進み、目に見える状況に変化がなくても、苦痛が軽減、解消していくことが多いと言われています。

「善き隣人バンク」では、継続的な傾聴活動を通し、弱さの中で孤独を抱える人々の「スピリチュアルペイン」に、心を込めて寄り添いたいと願っています。現在のところ、活動の趣旨に共感し、共に働きたいと願う傾聴スタッフが全国から50名~60名(増加中)ほど集められています。

彼らが「善き隣人」として継続的に寄り添えるように、また、そのことを通し、相談者が安心して話ができる環境が整えられ、当団体の働きが拡大展開できるように、日々、働きの内容を吟味、検討し、より効果的、実践的な働きの仕組みを構築しようとしています。

――どのような方と一緒に活動したいと考えていますか。

現在「善き隣人バンク」の働きに関わる人々は多岐にわたっています。実際に傾聴の実務に関わる傾聴スタッフ、およびスタッフを統括管理するスタッフリーダー、また、彼らの働きを背後で支える応援者、支援者など、それぞれの立場で多くの人々が関わっています。

現代社会の傾聴を求めるニーズは非常に高く、今後、さらに多くの方の参画を期待していますが、どのような立場の方であれ、当団体の思いに共感し、「善き隣人」になることを願う方でしたら、各人の適性に合わせ、共に働きを進めたいと願っています。

一人でも多くの人が安心して話せる環境を目指して

――今後の展望について教えてください。

今後は、さらに多くの応援者や支援者に支えられ、個人への直接的な支援に加え、企業や団体への取り組みにも、活動を広げていきたいと考えています。

企業には、メンタルヘルスに関する相談窓口が設けられている場合もありますが、社内だからこそ話しにくいことが多いと思います。安心して話を聴いてもらえる第三者の存在は、働く方々にとって大切になると考えています。働く方々のスピリチュアルペインが低減し、活力を得て業務にあたれるように、役割を担いたいと考えています。

企業や団体で働く相談者に対し、アドバイスや評価をするのではなく、ありのままを受け止める傾聴という形で貢献できればと考えています。

――現在、向き合っている課題は何でしょうか。

最も大きな課題は、増え続ける必要に対し、活動を支える運営資金が十分ではないことです。支援の輪は徐々に広がる一方で、膨大な必要に応えるには、人材を支える資金が不足しています。現状は、限られた人材の中で、活動の質を落とさないために、新規の傾聴依頼を制限せざるを得ない状況が続いています。

また、傾聴の質を向上させるための人材育成や、事務スタッフの採用など、必要は多岐にわたり、経済的な支援を通して参画してくださる方が増えることを願っています。

これまで当団体に集められたスタッフは、活動の趣旨に共感し、犠牲を払って参画を希望された献身的な人材ばかりです。そして、全国には同じような人材が大勢おられ、今後もスタッフを希望される方が増えると予想しています。彼らの献身的な思いに応えられるように、十分な環境を備えたいと願っています。

そして、人材だけでなく、能力、情報、資金、連携などのすべてを、十分に備えた仕組みを構築し、多くの同労者と共に、傾聴活動を通して、幸せな日本社会の実現に貢献したいと考えています。

――最後に、経営で譲れない想いをお聞かせください。

どれだけ活動の幅が広がっても、継続的な傾聴を通し「人に寄り添うこと」をこれからも活動の中心に置き続けたいと思います。事業が大きくなれば、その分、関係者との連携や組織の運営に時間を割く場面も増えていきます。それでも、本当に大切にしたいのは「一人ひとりの話に耳を傾け、寄り添うこと」です。その原点を見失うことなく、これからも一つひとつの出会いを大切にしながら活動を続けていきたいと思っています。

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