「自分で決める」障害福祉へ、情報と支援で選択肢を広げる障害者ドットコムの挑戦
障害者ドットコム 代表取締役 川田 祐一氏
障害福祉施設を検索できるウェブサイト「障害者ドットコム」の運営をはじめ、就労支援や相談業務を手がける障害者ドットコム。川田氏は、阪神大震災の復興支援をきっかけに障害福祉の世界へ入り、30年以上にわたって現場に携わってきました。障害のある人が自ら情報を得て、自分の生き方を選べる環境をつくるために、どのような考えで事業や組織を運営しているのか。その歩みと今後について伺いました。
目次
情報をひらき、障害のある人が「自分で決める」環境をつくる
――現在の事業内容について教えてください。
当社の中心事業は、障害福祉サービスの事業所や施設を検索できるウェブサイト「障害者ドットコム」の運営です。全国4万件以上の施設情報を掲載し、障害に関するニュースや解説、コラム、インタビューなどの記事も配信してきました。
サイトには、障害のある人などが悩みを打ち明けられるコミュニティーも設けています。また、相談支援や就労支援も手がけているのが特徴です。月間ページビューは100万を超えることもあります。多くの人に見やすい形で情報を届けたいという考えから、広告は一切掲載していません。
メディアやSNSを窓口としてお問い合わせをいただく形が中心です。私自身もXで積極的に発信しており、営業活動を行わなくても事業につながる流れができています。
――御社の理念やビジョンについて教えてください。
当社のミッションは、自己実現できる障害者を増やすことです。ビジョンでは「自分で決める」という考えを大切にしています。
以前は障害福祉に関する情報が少なく、本人の選択肢が支援者の持つ情報に左右されることがありました。だからこそ、障害のある本人が情報を得て、自ら選べる環境をつくりたいという考えです。
行動指針でも、自ら考えて行動すること、感謝を伝えること、個性を武器にすることを大切にしています。
震災で知った「支援されるだけではない」という障害者の力
――障害福祉の仕事に進んだきっかけを教えてください。
大きなきっかけは、1995年の阪神大震災です。大学卒業を控えていた時期に復興ボランティアへ参加し、知的障害のある方たちと一緒に炊き出しなどに取り組んだことが始まりでした。
それまで私は、障害者は支援を受ける存在だと思っていました。しかし被災地では、障害のある方たちが前に立って活動し、周囲の人を支えていたのです。その姿を見て、「障害者も人に価値を与える存在になれるんだ」と気づきました。
この経験をきっかけに障害福祉の仕事へ進み、現在まで30年以上この分野に携わっています。
――障害者ドットコムを立ち上げた背景を教えてください。
当時は障害福祉の制度が複雑で、専門職であっても制度変更を追い続けるのは大変でした。当事者やご家族が必要な情報を自分で探すことは、さらに難しかったと思います。
障害福祉事業所のホームページも今ほど整っておらず、自分で施設を検索する環境が十分にありませんでした。本人の選択肢が支援者の持つ情報に左右される状況に、課題を感じていたのです。
また、前職では事業運営の失敗を経験したこともあります。その反省を次に活かしたいという思いもあり、情報をひらき、当事者自身が選べる仕組みをITでつくろうと考えました。
スキルより誠意を重視し、一人ひとりに合う伝え方を考える
――社員とのコミュニケーションで意識していることはありますか。
私は、相手に合わせてコミュニケーションの方法を変えることを意識しています。当社には障害のある社員も多く、私自身もコミュニケーションが得意なほうではありません。
話すことが難しい人であれば、無理に会話だけでやり取りせず、チャットを中心にすることもありますが、強い言い方を受け止めにくい人や、気持ちが上下しやすい人もいます。それぞれの特性を見ながら伝え方を変える、という考えです。
何か注意しなければならないときも、怒るのではなく、「どう伝えればうまくいくか」を考えてから話します。一人ひとりに合った関わり方が大切だという考えです。
――一緒に働きたいと感じるのは、どのような人ですか。
私は、仕事ができるかどうかや、スキルが高いかどうかだけを重視しているわけではありません。誰でも失敗することはあるものです。
それよりも、正直に話してくれることや、約束を守ろうとすること、誠意や意欲があることを大切にしています。重視するのは、スキル以上に気持ちや姿勢の部分です。
私自身、経営では謙虚さと誠実さが一番大切だと考えています。どれだけ物事がうまくいっても調子に乗らず、相手ときちんと向き合う姿勢を大事にしたいです。
大きな計画を掲げるより、そのときに必要なことへ動く
――今後、挑戦していきたいことを教えてください。
私は、あらかじめ大きな事業構想を決めているわけではありません。これまでも、何かが起きたときに「当社に何ができるか」を考えながら動いてきました。
能登半島の地震では福祉支援チームの一員として現地に入った経験があります。また、行き場を失った障害のある方への相談支援など、そのときどきに必要だと思ったことにも取り組んできました。
これからも、目の前で必要なことが生じたときに、当社にできることを考えていく方針です。1つずつの課題に向き合いながら、必要な支援につなげていきたいと思っています。
――現在、障害福祉業界の課題をどのように捉えていますか。
大きな課題の1つは人材です。福祉の仕事は大変な面がある一方で、給与がそれほど高くないというイメージもあり、人が集まりにくく、障害福祉も同様だと感じています。
福祉の仕事の価値がもっと広く認められることが、私の願いです。そのためにも、SNSなどで情報を発信し、できることを続けていこうと考えています。
当社としては、サイトのシステムを維持していくための投資も必要です。一方で、自社事業を拡大することだけではなく、社会貢献や人とのつながり、信頼を築くことにも利益や資金を使っていきたいという思いがあります。
笑いと自然の時間を大切にし、支え合うことを日常にする
――仕事以外では、どのようにリフレッシュしていますか。
私はお笑いが好きで、よく見ています。特にロバート秋山さんや中川家さんが好きです。
ほかには、カフェに行ったり、自然のある場所へ出かけたりし、大阪では箕面の山のほうへ行くこともあります。自然のなかで過ごす時間は、良いリフレッシュです。
――日々の生活や仕事で大切にしていることを教えてください。
私は、助け合うことを大切にしています。自分自身にも障害があり、周囲にも障害のある人が多い環境です。妻とも、お互いの苦手な部分を補いながら仕事や生活をしてきました。
普段からそのような環境にいるので、誰かが苦手なことを別の人が補うという感覚は、私にとって特別なものではありません。助け合うことは、自然と習慣になっている感覚です。
それぞれの個性を活かしながら支え合うことを、私は大切にしています。これからも、そのときどきに必要なことへ向き合っていきたいです。