料理の先にある感情を動かす――ワンダーテーブルが高める外食産業の価値
株式会社ワンダーテーブル 代表取締役社長 河野 博明氏
国内外で複数のレストランブランドを展開し、専門性の高い料理と非日常的な空間を届ける株式会社ワンダーテーブル。強いブランドと大型店の運営力、人への投資を重視しています。本記事では、代表の河野氏に、事業の強みや飲食業に進んだ原点、人材育成、今後の挑戦について伺いました。
目次
強いブランドと大型店運営を支える独自の事業基盤
――現在の事業内容と展開規模について教えてください。
当社は、国内外で飲食店を展開する外食企業です。国内では37店舗、10ブランドを運営しています。海外でもライセンスビジネスによる飲食店の展開を進めており、店舗数は100を超えました。
売上は150億円を少し超える規模で、外食企業の中では売上高ベスト100に入るボリューム感です。国内で複数のブランドを運営するとともに、海外にも事業を広げています。
――御社ならではの強みは、どのような点にありますか?
当社の強みは、大きく3つあります。
1つ目は、指名検索や予約につながる強いブランドを持っていることです。海外の有名ブランドを日本向けにローカライズする一方、国内で育てたブランドを海外へ展開しています。
2つ目は、大型店を運営する力です。平均110坪を超え、100人以上が働く店舗もあるため、個人の力に頼らず、仕組みで運営するノウハウを蓄積してきました。
そして3つ目が、人への投資です。素敵なブランドや空間があっても、人が育たなければ良いレストランにはなりません。だからこそ、ホスピタリティを大切にし、人が力を発揮できる環境づくりに力を入れています。
――ブランド戦略について教えてください。
当社が手がけるのは、ニッチな市場でトップを狙えるブランドです。
例えば、一般的なイタリアンでは競合が多い一方、モッツァレラチーズに特化するなど、専門性を明確にすれば大きなシェアを目指せます。実際に、当社ではシュラスコの「バルバッコア」や、プライムリブ専門店の「ロウリーズ」を展開しています。
最初はなじみの薄い料理でも、認知が広がれば指名検索されるブランドに育つ。その独自性が当社の強みです。
アルバイトから社長へ――求められる役割を重ねた歩み
――この業界に進まれたきっかけを教えてください。
この会社との出会いは、大学在学中のアルバイトでした。当時は大学に居心地の悪さを感じていましたが、接客をすると、お金をいただく側なのに「ありがとう」と言ってもらえる。その経験から、「自分の居場所はここかもしれない」と思ったんです。
飲食業は、つくった料理がその場で届き、すぐに反応が返ってきます。お客様に合わせた工夫もでき、目の前で喜んでもらえる。そのスピード感と、人に感謝される仕事の面白さに引かれ、この業界で働き続けてきました。
――どのような経緯で経営者になられたのですか?
最初から社長を目指していたわけではありません。求められる役割を果たした先に、今の立場がありました。
「ロウリーズ」では当時、150人ほどのアルバイト社員が在籍していました。一人ひとりの意欲を引き出し、全体を指揮することで、一人ではできない成果を生み出せる。その面白さを知ったんです。
店舗からブランド、部門、会社へと関わる範囲が広がり、気づけば社長になっていました。
料理の先にある「体験価値」を届ける
――レストランが提供する本当の価値とは何でしょうか?
美味しい料理や素敵なサービスは、ゴールではありません。良い感情を生み出すための手段だと考えています。
例えば「ピーター・ルーガー」は、夜の客単価が2万5,000円から3万円弱ほどです。お客様はステーキだけでなく、「アメリカに来たみたいだね」とワクワクする時間も楽しんでいます。料理、サービス、内装、音楽が一体となり、大きな体験価値になるんです。
誕生日に大切な人を喜ばせたり、接待を通じてビジネスが円滑になったりすることもあります。私たちが提供しているのは、単なる食べ物ではなく、人の感情や関係まで動かす価値だと思っています。
――食とホスピタリティは、どのようにつながっていると考えていますか?
人は、食べ物を与えてもらうことで愛情を感じるそうです。赤ちゃんの頃に抱っこされ、目を合わせてもらい、食事を与えられる。そうした経験が、「大切にされている」という感覚の根源にあります。
だからこそ、食とホスピタリティは深く結びついているのだと思います。一緒にご飯を食べることが感謝や愛情を生みやすい。お腹を満たすだけでなく、人の心を豊かにできるところに、この産業の無限の可能性があります。
役割を明確にし、人間性のあるリーダーを育てる
――御社が行っている育成の仕組みについて教えてください。
当社では、役割や責任を明確にした「役割記述書」を設けています。
会社全体で約300の役割があり、上位職に求められる内容も確認できます。さらに、育成担当者を決めて毎月1回1on1を実施し、本人が望むキャリアや不足している力を一緒に整理します。
成長の過程はログに残し、次の役割へ進めるよう継続的に支援しています。
――代表が考えるリーダーシップとは何でしょうか?
当社におけるリーダーシップは、肩書きではなく人間性です。「私は社長だから従え」と命じるのではなく、「この人がここまで言うなら頑張ろう」と思ってもらえることが大切だと考えています。
権限ではなく、その人自身に引かれて周囲が動く。そうした人を上位職に登用し、人間性でチームを動かせるリーダーを育てていきたいです。
――求める人材像と、採用で工夫していることを教えてください。
人に興味があり、人間が好きな方に来てほしいですね。仲間を大切にし、チームで働けることも欠かせません。
どれほど素敵なブランドや空間があっても、人が育っていなければ良いレストランにはならない。店の中身は9割ほど人間がつくると考えています。
採用では、入社を希望する方と実際に当社の店で食事をします。そのうえで、「こういう価値を一緒につくりませんか」と伝えるんです。非日常的な時間は、言葉で説明するより、体験してもらう方が伝わると感じています。
給与とやりがいを高め、外食産業のイメージを変える
――今後の挑戦や展開について教えてください。
外食業には今も、「肉体労働で、労働時間が長い」というイメージがあります。しかし、私たちが生み出している価値は、そんな言葉だけで表せるものではありません。これほど素敵な仕事なのに、働きたいと思う人がほかの業種ほど多くない。その状況を本気で変えたいんです。
目指すのは、外食企業の中でトップクラスの給与とやりがいを感じられる会社です。そのために収益性を高め、1店舗あたりの売上高が日本一の会社にしたいと考えています。
現在、年間20億円を売り上げる店舗があります。大きな売上をつくるのは、店舗数や会社規模を誇るためではありません。社員へ還元し、同業でトップクラスの給与を実現するためです。
飲食業は、料理を運ぶだけの仕事ではありません。目の前で笑顔を生み出し、美味しそうに食べる姿を見て、働く側まで幸せになれる仕事です。